J M クッツェーのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ作者は、南アフリカ生まれの白人。この作品で、2度目のブッカー賞を受賞。
前に読んだ『絵葉書きにされた少年』で、クッツェーの作品が何度か引用されていたので、興味を持って読んでみた。
読んでみると、話は重い。南アの社会的問題に直面させされる。
アパルトヘイトが終わり、民主化の道を開いたマンデラ政権。様々な人種が共存できる「虹の国」として新しい出発をきった南アだったが、長年抑圧されてきた黒人と白人の共存はむろん一朝一夕で実現できるものではない。犯罪率が急増し、白人への強奪、レイプなどが日常茶飯事となり、南アを去る白人も増えた。
話の展開は、一人の大学教授が、ある時女子学生と親密な中になり、それがきっかけで大学を追われ、南アの田舎で農園を営みながら一人で暮らしている娘のところへ身を寄せる。そこで、親子を襲った事件。娘は3人の黒人からレイプされ、父親は怪我を負う。父親は娘のルーシーにこの田舎の一人暮らしを辞めるように、再三説得するが、ルーシーはその家を出て行かないばかりか、レイプされたという事実を警察に告発もしない。父親は娘を理解できず、娘は説明をしない。
レイプされたという事実を認めたくない、公にされたくないという理由で警察に訴えでない女性は多いと思う。ルーシーもそのような女性かと思っていたが、彼女には決意と覚悟があったのだ。
「いま、農園を去ったら、負けたまま終わってしまう。その敗北感を死ぬまで味わうことになる」と。彼女は、この地に根を張り、暮らしていくことを決めていたのだ。だから、「自分の身におきたことは、まったくもって個人の問題だからよ。べつな時、べつな場所では、社会問題とみなされるかもしれない。でも、この土地、この時代では、違う。これはわたしの問題、わたしだけの問題なの」と言う。
南アで起きている社会的問題が個人の身に降りかかってきたとき、どう対処するか。黒人を憎むのか、社会問題に対処できない政権を批判するのか、それとも、まったくもって個人の問題として捉えるのか。
ルーシーはこの時代に、この国で生きていくのがどのようなことなのか、それを教えてくれる。
小説の最終場面は、衝撃的ともいえる事実が明らかにされるが、それさえも冷静に受け止め、自分がこの地で生きていくにはどうしたらいいのかを彼女は考える。決してその地から離れようとはしない。なぜならそこは、近隣の黒人の人々と同様、彼女の住む土地であり、他に行くところはないと考えているから。
そこには、私が考えていた南アに住む白人とは違った像が描かれていた。そのことに少なからず衝撃を覚えた。
いわゆる「黒人政権」になって10年以上も経過した南アフリカだが、「虹の国」と称えられるのはいつのことになるだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレインテリ元モテ男だった主人公の没落。
時代の変遷についていけない古ぼけた文学者は、継続した人間関係を築くことができず、女を買っては消費する日々。
絶対に自分の考えを曲げず、他人の意見に耳を貸さず、大学を追放されるところまでは面白く読めた。
娘の農園へ住み着いてからはとにかく重い...
動物愛護ボランティアの夫婦をせせら笑い、ボランティア女性の容姿を痛烈に批判しながらも結局セックスしちゃう。
黒人コミュニティを下に見て説教じみた話をするわりに、隣人が仕組んだと思われるレイプについて核心をついた言葉は言えない。
元妻にも娘と自分が受けた襲撃についてしっかり話さない。
どの局面でも主人公は自己中かつ中途半端だし、それ以外の登場人物全員に感情移入できなかった。
動物愛護ボランティアの夫だけはいい人だったかも。一度会っただけの主人公を病院まで迎えに来てくれたし。
主人公の娘がレイプされた後にとった行動、黒人コミュニティに迎合するためには仕方ないのかもしれない。
とはいえ大切にしてきた自分の農場や犬たちを諦めて、素性のしれない男の子供を身篭って、これからの人生を隣人に隷属したまま過ごすのは幸せなのか?
元恋人の女性が新天地へ旅立ったように、別のコミュニティでイチからスタートしてもいいのでは...
レイプ犯の少年が隣人の妻の弟かつ障害があるからって、全てを赦すのは違うでしょ!と叫びたくなった。
キリスト教的な風土があるとしてもちょっと違うよなあ。
隣人と主人公の噛み合わない会話はイライラするし、犬の殺処分に対する主人公の考え方の変遷→やっと「愛」を理解する気持ちになったのかな?→また路上でひっかけた若い女と寝るっていうズコー!な行動もモヤモヤした。
このようにイライラモヤモヤしながらも、どんどん読み進めたくなる不思議な魅力があった。
男と女・親と子・黒人と白人・都会と田舎・人と動物、さまざまな対比で物語は進んでゆき、放り投げるように終わりを迎える。
動物愛護過激派の私にはつらいシーンが多かったけれど、何年か寝かせて再読したい一冊でした。 -
Posted by ブクログ
「イエスの幼子時代」の続編.ちなみに第三作「イエスの死」も刊行済みらしい(未訳).
相変わらず不思議なトーンで淡々と話は進むのだが,今回は殺人事件も起こる.犯人ドミトリーは,名前からしてカラマーゾフ風なのだが,人物もやっぱりカラマーゾフ風で,非常に濃い.彼の思考回路は独特なのだが,よくよく考えてみれば登場人物のダービド,イネスを始め,全員が思考に特徴があり癖が強い.決してお互いを理解することはない.一見,唯一まともに見えたシモンさえも,なんだかおかしい.
そんなすれ違いが続くなか,シモンの空回りが徐々に目立ってきて,物語は唐突に終わる.
この先,一体この疑似家族はどうなってゆくのだろうか? -
Posted by ブクログ
何を言いたいのか私にはよく掴めなかった。
ただ、ページが進むにつれて、シモンが愛おしくなる。
ダビードやイネスに冷たくされながらも、ダビードの為に、一所懸命になる姿に応援したくなる。
シモン、イネス、ダビードは疑似家族。でも、シモンはダビードの為に、父親としての任を果たそうと頑張る。
イネスのように、自身が打ち込める何かを見つけるわけではないし、ダビードのように明晰な感じでもない。
それでも、ダビードのために一所懸命な姿は、世の中の親の一般的な姿ではないかと思ったし、それで、いいんじゃないのかなって思った。
特筆すべき何かがなくても、誰かの為に一所懸命になる、愛を注ぐ。それができたら、いいのだって。
シモンの不器用な感じは、聖書のペテロ(シモン)のよう。 -
Posted by ブクログ
読みやすくはあるが、扱う主題は難しい。
都会で教授をしている二度の離婚経験のあるおじさんが、性欲を抑えきれず教え子に手を出して、職を追われ、田舎の娘のところに行き着き、そこから展開していくストーリー。
南アフリカの白人と黒人の間のわだかまり、治安の悪さ、強姦などといった時代背景がある中、娘とは事件後でも仲良くはあるが、意見は全く食い違う。
相手の意見を聞かずに、自分の意見を通し、辞職に追い込まれ、その後娘に自分の意見を通そうとする。かつて物を教える立場であったように。
一度だけでは本の一部分しか理解には及ばない自分の読解力の無さを嘆きたくなるが、ブッカー賞受賞作なだけあり、読み応えはある。
男たちに強姦され、妊娠までさせられるのに、警察などには一切言わず、その土地に溶け込もうとする娘。覚悟の上で、生き抜こうとする様は、か弱い人私にとってこの父親のように、理解に苦しむ。
人生何が起こるかわからない。そして何を起こすかわからない。ただ、現実を受け止め、何を教訓としていくか。難しい……。