J M クッツェーのレビュー一覧

  • 恥辱

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    ネタバレ

    ずどんと重いものが内臓に残るような読後感。
    ルーシーの存在は、彼の「女を組み敷きたい」という暗い欲望がどこに繋がっているかをまざまざと見せつける。女がすべて彼の人生の彩りでしかない(彼がルーシー以外の女性を人として捉えられない)状態から、主人公を徹底的に引き摺り下ろす。

    羊の命にこだわり、土地の風習に抵抗していた彼が、最後に手放すものが悲しい。

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    2023年02月26日
  • 恥辱

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    重い、これは告発小説なのだろうか?
    圧倒的な力の不均衡のもとにループしてゆく暴力、暴力。
    男と女、白人と黒人、若者と老人、人間と動物。
    欲望と憎悪と復讐心と。
    これはアフリカーナーの懺悔録なのだろうか。帝国主義のもたらした残滓としての「恥辱」が重層的に描かれる。52才にして未だ枯れやらぬ男であるが故に社会的に抹殺されるデヴィッドと、要らない生き物として殺処分される犬の運命が重ね書きされているところに、この作品の救いのなさがある。色好みの中年男性が年下の女性に入れあげて失敗し、都落ちして現地の女性と関係する、というストーリー自体は、一種の英雄流離譚とも読めなくも無くて、日本なら『伊勢物語』『源氏

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    2021年03月15日
  • 恥辱

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     都会的で女遊びが好きな大学教授が、社会的に転落した結果、新しい愛と多様性の受容を達成する話。後半に娘の家で強盗に襲われてからの話は深くて切れ味があって良いのだが、前半の転落するところまでのスケベ親父っぷりがひどくて引いた。
     全体としては、人生も後半になって大きな内心の変化に至るまでの主人公の心情がとてもよく書かれているし、訳文も端正さと切れ味がよく文句なし。

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    2018年05月02日
  • 恥辱

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    南アフリカの大学(都会)と田舎の二つが舞台。
    仕事で2度しか訪れていないが、リアリティをもって読むことができた。
    主人公は西欧文学専攻の大学教員。それがセクハラ疑惑から転落し、犬の殺処分に携わる中で、これまでの人生を振り返る。その振り返りは生やさしいものではない。過去の女性は彼の中では全て美しく輝く。しかし、唯一、実の娘ルーシーだけは、妥協点が見えない。彼女こそ、もう一人の主人公ともいえる存在。覚悟が決まっていて、不可解だが、魅力的なのだ。

    読み終わって、ただただすごいものを読んでしまったという感想しかない。ヒロイズムのかけらもないのに、人間とは、社会とは何なのか、考えさせられる。

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    2017年09月02日
  • 恥辱

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    恥辱とは何か。確かに、本書の主人公やその娘に与えられるものは私たちの常識感からいえば恥辱以外の何物でもない。しかし、主人公たちにおける価値観のゆらぎのなかで、それが恥辱ではなくなっている。アパルトヘイトが終焉したときに南アの人々が感じた価値観のゆらぎがこのようなものだったのだろうか。それは想像するほかはない。

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    2016年01月03日
  • 恥辱

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    社会的に地位がある人の転落に次ぐ転落と複雑な親子関係を描いた作品。酷い目に遭いながらも、現実路線でそれでも生きていくことの大変さ。選択の難しさ。罪と罰、そして恥のあり方。こういったことをテーマにしながら南アフリカに残る白人と黒人の微妙な空気感までを浮かび上がらせる。文体は簡潔でリズム良く話が進む。非常に良かったです。

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    2025年11月11日
  • 恥辱

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    これすごい本かも。「恥辱」のレベルが二段階どころか三段階くらいに分けられていて、原始的共同体や女性の受動性の無条件の肯定さえも許さぬような気迫を感じた。

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    2025年10月01日
  • 恥辱

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    ノーベル文学賞を受賞したJ•M•クッツェー、1999年のブッカー賞受賞作品。南アフリカ、隷属、支配、尊厳、生命‥‥考えさせられることは多い。

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    2024年07月10日
  • 恥辱

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    最初はしょうもないオッサンやなーって感じだったんだけどね。まぁ最後までそれは変わらなかったわけですよ。
    しかし平たく言えばいい年こいても性欲が収まらないオッサンが若い子に手を出すといういやしかし普通に今でもあるけどそれが文学的な表現でここまで生まれ変わるのかと思えば待ちでパパ活に励む世のおっさんどもも大手を振って歩けるというものではないか。
    フラレた若い子の出ている劇を見に行ってまた振り返ってくれないかなーとか妄想しているところとか最高だけどしかしこんなんで賞を取っちゃうとか審査員もオッサンしかいねーじゃねーかとかこれはこれでどうしようもなく、、イイネ!

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    2023年12月24日
  • 恥辱

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    ネタバレ

    背景はアパルトヘイトが終わった頃の南アフリカでの個性的な白人男性の転落話なんだけれど、私は女。女目線から読むと学生に手を出す准教授も白人を凌辱する男も最低……。この最低な男が語る体験と生活。そこに登場する全く理解できない娘の価値観。だからと言ってこれは嫌な話だ! となるわけではなく、読み終わるとグルグルと登場人物それぞれの人生や考え方・背景を想像し回想し行動理論を考えちゃう。この余韻を文学と呼ぶのであればすごい作品。全く想像すらできない生活エリアでの話なのにリアリティが迫ってくるのもすごい。読んでみて、価値観はきわめて個人的なもので共有できないが、慮ることはできる。しかしできたところで虚しい。

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    2023年12月02日
  • 恥辱

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    ネタバレ

    はじめて読むクッツェー。
    先入観で難しい話かと思っていたが、翻訳も読みやすく、スラスラと読めた。
    読む人の立場により、どこが印象に残るか変わってきそう。
    前半は父親の、性欲とプライドに突き動かされた結果の都落ちまでを描く。一転、後半の方は娘と父の関係が中心になっていく。
    強姦され子供を孕った娘が、相手を告発せず、そのことを誰にも話さない、その娘の気持ちを理解するできない父親の苦しみ。その背景に仄めかされる、南アフリカ社会で白人として生きていくことのハードル。そんなところが印象に残った。
    いつか再読したら違う読み方ができるかも。
    クッツェーの他作品も読んでみたい。

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    2023年10月08日
  • 恥辱

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    老いに向かう男性が少しずつ、ズレてゆき転落する物語と思っていたら、南アフリカの抱える歴史や歪みがそれぞれの運命に結びつき、思いもよらない展開となった。

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    2023年09月16日
  • 恥辱

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    元文学部の教授が学生と関係をもったために大学を追われるも妙な開きなおりさえ見せる序盤、あまりにも現実での見おぼえがありなんともいえない気分になる。とまあそれはさておき、まだ訴えられる前の主人公の勤めるさきがコミュニケーション学部というのが最高で、この全体のかろやかな皮肉の調子はなによりも文体に滲み出て、絶望的な惨状や嘆きをとことん悲壮にさせない。いわゆるインテリ側の人間が、そういうもののまるで通じない土地に身を置いたときの無力さは、しばしば描かれる題材ではあるかもしれないがやはり痛切。自身のもたらした害には一向に想像力を働かせないで、自身と、そのまわりがうけた屈辱だけを嘆く滑稽な男が、最終的に

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    2023年01月20日
  • 恥辱

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    ネタバレ

    とても面白い。結末については、当時のその土地の政治情勢を理解しないと何が書いてあるのか分からないと思う。

    かなりの問題作だったのだろうと思う。少なくともあらすじを読んだ時に想像するような小説ではなかった。

    「無一文で。それどころか丸裸で。持てるものもなく。持ち札も、武器も、土地も、権利も、尊厳もなくして」
    「犬のように」
    「ええ、犬のように」

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    2021年09月04日
  • 恥辱

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    肉欲に溺れて道を外れた男。
    職を追われ、縋った娘との暮らしを突如襲う厄災。
    あらゆるものを破壊され、なんら救いのない生の中で男が見出すものは。

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    2021年04月09日
  • イエスの学校時代

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    『言葉とは弱々しいものです―だからこそ、わたしたちは踊るのです。そうして踊ることで、超然たる星々のかなに住む数を呼び寄せる』

    主人公のシモンをヨセフ、シモンが前世からの渡航中に知り合った子供であるダビードをイエス、失われた筈の記憶がダビードの母親だと告げるイネスをマリアに擬えて、物語は進行していると前作である「イエスの幼子時代」を読んだ時から思っていた。マリアが受胎告知を受け授かってしまった子を育てるヨセフの視点の話だと。何から何まで聖書の物語を当て嵌めて考える必要はないのかもしれないが、今回もダビードが7歳になろうとする時に国勢調査が行われる際にダビードを隠すエピソードなどは、マタイ書のヘ

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    2020年07月10日
  • 恥辱

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    読み終わるとニック・ホーンビィの『ハイ・フィデリティ』を唐突に思い出した。ポップソングの代わりにバイロン。もっとも細部の類似点ならジョナサン・フランゼンの『コレクションズ』かもしれないけれど。物語の進行に首を傾げる場面はいくつかあれども、男というのはこんなものかもしれないと腑に落ちる。最後の一文は秀逸。

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    2019年10月28日
  • 恥辱

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    前時代的な全くもっていけすかないインテリおじさんの大転落と、その先にある微かな希望の物語。
    始まって30ページもしないうちに主人公が「女の美は当人だけのものではない。この世にもお裾分けがなくては。美を分かちあう義務がある。」とか言い出した時には凄まじい嫌悪感が一周して逆に笑ってしまうくらい、愚かだな~と思っていたけど、南アフリカ独特の閉塞的なムラ社会の中で娘を思って七転八倒する姿と、徐々に価値観が変わっていく様子に、嫌いにはなりきれなかった。

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    2018年12月02日
  • 恥辱

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    衝撃すぎてなんかもう思い出したくないけどとにかく衝撃だった。衝撃すぎて読んでから7年経ってもまだ感想が書けるほど。こんなエグい物語を書く人がいるのか。でも普段考えることもないし、避けていることをガンガン突きつけられて胸糞悪いし、苦しい。密度の濃い感情を起こさせる事においてやっぱりブッカー賞はすごいんだなあと思ったけど、好き好んで読もうとは思わない…。

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    2018年11月06日
  • 恥辱

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    エリート大学教授が性欲により落ちぶれていく話。簡単にいうとそれだけなんだけど、じゃあ落ちぶれていくってなんだろう?アフリカは落ちぶれている?都会で大学教授をすることはエリート?生きていく上での恥辱とはなにか?
    自分たちが味わった恥辱について、大学を追い出された元、エリート大学教授と、アフリカの田舎で農園経営をして必死に1人で生きていくその娘が話し合う所がある

    「最下段からのスタート。無一文で。それどころか丸裸で。持てるものもなく。持ち札も、武器も、土地も、権利も、尊厳もなくして」
    「犬のように」
    「ええ、犬のように」

    生きていくなかで、何に裁かれていかなければならないのか。美しい女とセ

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    2018年08月14日