高槻泰郎のレビュー一覧
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大阪堂島にあった米市場について書かれた本。当時の資料を詳細に分析し、まとめ上げられており、学術的で論理的内容である。行われていた米取引は現物のみならず、先物も行われており、世界初の先物市場と言われていることを知った。当時の商人のみならず、監督者である幕府や、訴訟対応に当たった大阪奉行所など、その金融リテラシーの高さは、驚くべき事実だと思う。大きなお金の動く市場を安定的に運営する方法の研究は、素晴らしい着眼だと思うし、とても勉強になった。
「日本の大阪米市場は、世界初の組織的先物取引市場であるとする海外の方も少なくない。なかでも著名な人物としては、CMEグループの名誉会長であり「先物取引の父」 -
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前著『近世米市場の形成と展開』の内容を,新書レベルでわかりやすく解説するに留まらず,その後進捗された新たな研究の内容も踏まえた力作。前半では,大坂堂島米市場の取引システムに対する説明を詳細に描き,後半では,そこを舞台として繰り広げられる「江戸幕府と市場との格闘を観察,考察」(170頁)している。
副題として「江戸幕府vs市場経済」と付されているが,けっして幕府が市場経済に反抗的・対立的であったのではない。むしろ幕府は,時の政府として,法令や制度,あるいは大坂町奉行の判例を通じて,市場の失敗を保護,是正する役割を果たしていた。徳川時代が「幕藩体制」という近代法治国家以前の政治経済システムにあ -
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民主党政権と一緒に日本経済を殺してきた日銀前総裁が褒めてるって恐ろしい帯にもかかわらず、とても素晴らしい。
時々「世界最古の先物市場」と紹介される(けれど総裁は解説されない)堂島米市場の実像及び、プレイヤーと監督官庁の攻防はとても興味深いものである。
失敗から学ぶ江戸幕府
遂には口先介入まで編み出した江戸幕府。
そして、米価対策。
飢饉や政情不安対策としての暴騰対策だけで無く、米で税を集め、米で給与を支払っている幕府/大名としては、米価の暴落/低迷も暴騰と同じく、避けるべき事態であり、大名が承認に宵寝をつけてもらえるように努力している様は、涙ぐましい程である。が、質の向上が農民には何らイ -
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江戸時代の堂島米市場の具体像を通して、米切手の先物取引、空米切手(現物米と交換不能な米切手)をめぐる幕府・藩・米商人のかかわり、幕府の米相場コントロールの取り組みなどを明らかにしつつ、江戸幕府が市場経済といかに向き合っていたのかを展望しようとする一冊。
文章はわかりやすく、史料の現代語訳と書き下しを併記してあったり、歴史的な用語を現代的に言い換えてあったり、読みやすくする工夫もしてある。
帳合米商い(米切手の先物取引)の説明のパートは勉強になったが、如何せん私自身が金融の門外漢なのでメカニズムを理解しきれなかった。要再読。
個人的には、幕府の空米切手への対応の話が面白かった。幕府は空米切 -
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【商都で一勝負】世界史的に見ても,当時の水準で異常なほどの発達を見せていた大坂堂島の米市場。今でいう「自由主義」が時に行き過ぎ,暴走の感を見せるその市場に,江戸幕府はどのような哲学をもって関係を築いていったのか......。著者は,ミクロ経済と経済史を専門とする高槻泰郎。
いわゆる経済学なる考え方が発展していない中で,市場と規制の鍔迫り合いがダイナミックに展開されていたという事実にまず驚き。その上で,信用や名目,時には「腹芸」が重視されたりする当時の市場慣習が透けて見え,経済史としての面白さも詰まった作品だったように思います。
〜市場経済の原理なるものは,目的に適合する限りにおいて容認・保 -
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日本の金融市場の黎明期がどのように成り立ってきたのか、そのことを具体的に知る良書である。江戸時代の大坂でこのような洗練された金融市場が形作られた。そして、江戸幕府はこれをなんとかうまく利用しようと、お互いの駆け引きが続き、それはまた江戸幕府の統治の要のひとつであったという見方である。
本当にこの堂島米市場で行われていた帳合米取引というのは、現代の指数先物取引とほとんど同じものである。米を原資産とする証券デリバティブ取引であった。
大坂と江戸。この絶妙の距離感が江戸時代の金融市場にイノベーションをもたらしたのだろう。この市場が仮に江戸にあったならば、このような洗練された金融市場として成長で -
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2024/3/13 読み終わった
江戸時代に指数連動先物取引があったと聞いて。
たいへん洗練された先物取引一番が、江戸期に存在したことが分かった。そして、それに対して江戸幕府がどのように関わっていたのかも。
金融のかなり複雑な内容も含んでいたので、半分くらいしか分からなかった。とりあえず幕府は、トラブル起こすなよ!米価安定しろ!の2点で堂島に介入したりしなかったり。
実際の米量を超えて手形を発行していたところまでは分かる。期間の末日に実際の米価と手形の価格の帳尻が合っていた?点がよく分からなかった。幕末期にはその帳尻が合わなくなったので、引き換え必須となり、現在の先物取引と同じ状態になったと -
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読んだきっかけは「江戸時代に先物取引があった」という内容に興味をもったためでした。江戸時代の米と言えば農民が年貢を納めているイメージですが、では納められた米俵はそのあとどうなった?本書にはそこが描かれています。米は各地から大坂の藩屋敷に集められ、市場で売買されます。しかも一部は米切手という証券に化体し、現代のような激しいデリバティブ取引の渦中に巻き込まれていきます。実際の米がまだないのに空切手を売ってしまう藩。市場を管理し米価を安定させようとする幕府。管理されまいとする三井家、鴻池家などの豪商…。
江戸時代の人は現代人よりも原始的だったか。とんでもない。西洋文化が流入するはるか以前から日本には -
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ネタバレ堂島米市場が先物市場誕生の場というのは知っていたけれど、その誕生の理由がわかった。いわゆる商品先物のニーズからかと思ったけど、意外と違った。物事は、これ作ろう、と意図的に作り出されるんじゃなくて、不便を便利にするところから生まれてくるんだなとつくづく。
それ以外にも驚いたのが、米価が市場経済の肝となっていた江戸時代、米切手をめぐって、システミックリスクを起こさないよう規制が張られたこと、そして、米価を安定させるためにまさに日銀の金融政策の発送で江戸幕府がさまざまな政策を苦慮させていたこと。ちょっと乱暴だなと思ったけど、、原理としては似てるのかなと、面白かった。 -
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ネタバレ世界最初の先物取引市場と呼ばれる(※諸説あり)堂島米市場はどのように運営されていたのか。そして、米市場で展開されていた市場経済に、当時の為政者である江戸幕府はどのように向き合っていたのか、について書かれた本。
現存する資料の数は豊富では無いらしいが、かき集められた資料からは、当時の市場や人々の様子をありありと感じることができてとても面白かった。
経済学という学問体系の確立など遥か先の話である江戸時代において、市場運営側の商人・市場管理側の幕府、両サイドがそれぞれに試行錯誤を重ね、絶妙なバランスを保ちながら市場の維持に成功していたことに感嘆する。
あとがきにもあるように、国民の生活が「宜し -
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大坂堂島の米市場は「世界初の先物取引市場」であった。大坂の米市は米取引市場の形態をとりながら金融市場としての働きをもっていたのである。しかも「帳合米」という実体のない米で指数先物取引市場の先駆的な取引市場を開設していたのである。
副題の「江戸幕府vs市場経済」こんな博打のような取引をなぜ幕府は認めたのか。本書では幕府が大坂堂島の米市場=市場経済を使い米相場の安定を図ったと結論づける。
ところで、堂島の米市場は主に西日本の米が集まってくる。中部以東東北の米はどうなっていたのか。当然ながら江戸その他の米市場に集まってきたのである。なぜ大坂取引形態が江戸に伝播しなかったのか。江戸の商人にはマネがで -
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大坂堂島米市市場の当時の状況が詳しく書かれている本。
江戸時代の市場経済がどのようなものだったのか、幕府の対応や各藩の状況等、現代の金融市場と比べても勝るとも劣らない状況がそこにはあり読んでいてとても面白く感じた。
帯に日本銀行前総裁白川方明氏絶賛とあるけど、それも納得の内容。
資料の原文について書かれている部分では、この手の本だと大抵現代語訳は後だったり下手するとなかったりするものだけれど、先に現代語訳から書いてあるのも読みやすくて良かった。
米市場主義とでもいうべき江戸時代の話はとても興味深く、所謂貨幣の始まりと言われるものに金細工師が預かった金の量以上の「金預かり証」を発行するなんて -
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ネタバレ本書は金融先物取引が江戸時代に行われていた様子を刻々と示すだけではなく、当時の政策やその効果、幕府の金融市場への関わり方を解説している。現代では複雑になりすぎている先物取引の仕組みを江戸時代の金融(米相場と米切手)に照らし理解するという読み方で読み進めていたが、私は通信分野を生業にしているものであるから、金融と通信は切っても切れないものだなと痛感した。
基本的には幕府は市場の自由を尊重しつつも一定の規制を入れ、幕府の考える良き暮らしを実現しようとしてきたことと、早く情報を押さえたものが勝つという特性のもと、飛脚、早飛脚、手旗信号と通信が加速していった様子は読んでいてエキサイティングであった。