イアン・マキューアンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
うだつの上がらない主人公の男チャーリーが母親の遺産で買ったアンドロイドのアダム。一緒に暮らしていくうちに、アダムがチャーリーの恋人・ミランダを好きになってしまい…という話。
まず、アンドロイドの感情はどこからくるものなのか?という問いがある。アダムの感情はアダム自身の内部から自然発生的に湧き出たものなのか、それとももともとプログラミングされていたものなのか。AIを取り扱う話はまずAI自身が信頼できない語り手として存在しているところが、物語の不安定要素になっていて面白い。
また、人間の行動基準や意思決定基準の何といい加減なこと。不合理で不条理で不公平で、でもその揺らぎがあるからこそアダムの言う通りこの世には「文学」が存在するのであって、そんな不安定さが入る余地のない世界は味気なさすぎるのかもしれない。ただ、その機微をアダムが理解しようというのはチューリングが指摘するように、かなり難しい。自分の心の在り様を完璧に説明できる人間は恐らく一人もいないから、そんな人間がその機微を機械にプログラミングできるわけがない。
そしてアンドロイドは人間が「所有する」ものなのだろうか。それともアンドロイド自身が誰にも所有されない独立した「一個人」なのだろうか。チャーリーが自分のお金を出した買ったアダムが稼いだお金は、いったい誰のものなのか。アダムの意思を無視してアダムの電源をON/OFFする権利がチャーリーにあるのだろうか。使わなくなったり気に入らなくなったおもちゃは処分することが許されているが、そうなったアダムのことはどう処理するべきなのだろうか、はたまたそうして処理する権利は持たないのだろうか。アンドロイドという存在がただの機械と呼ぶには人間に近しすぎて、そうしたアンドロイドと人間はどうした関係性にあるのかがよく分からない。これまで人間が結んでこなかった新しいパターンの人間関係を、アンドロイドと構築しなければならないのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『というわけで、わたしはここにいる、逆さまになって、ある女のなかにいる』という出だしで始まるこの小説の語り手は、もうすぐ生まれる予定の胎児だ。しかしこの胎児は母親の聴いているラジオ番組や外界の音から様々な情報を得て、周囲の人物の様子から世界情勢まで理解しているというとんでもない胎児なのだ。
彼の両親は不仲で、母親は父親を家から追い出し、父親の弟と不倫関係にあるばかりか、弟と共謀して父親を毒殺してしまう。弟の名はクローディア。正にハムレットである。彼は母親の胎内で色々な事を考え、どうするべきか、どうしたら良いのかを思い悩むが、いかんせん何もできない胎児であることがもどかしい。最終的に、警察に追われそうになった母親と叔父が2人で逃亡する寸前に自らの意思で生まれてきて2人の逃亡を阻止することになる。
様々な情報を得て、それを分析して考察する明晰な頭脳を持ち、母親、父親、叔父などに愛情や憎しみを感じながらも、自分からは何もできない胎児の視点で物語が進んでいくのが新鮮でとても面白い。 -
Posted by ブクログ
アンドロイドのアダムを買ったチャーリーと、同じアパートの上の階に住む女子大生のミランダ。3人の奇妙な関係…、と書けば当然近未来小説と思うが、1982年の英国が舞台。サッチャー首相がフォークランド紛争に追い込まれていたころのこと。でも、そこは架空のお話なので、事実とは違う政治情勢になっている。そこがまた不思議な感じ。80年代にここまでできるのか?というのもあるけれど、どこまでが歴史上の事実なのか悩みながら読んだ(自分に知識がないからだけなんだけれど)。学習し続けるアダム、チャーリーが偶然手を差し伸べることになった少年マークの存在、何よりもミランダの過去などが次々と絡み合っていく。
AIが日常生活に登場している21世紀、人間に近いロボットは可能なのか、文学的に注目できる作品なのでは。