東京に10mの津波がやってきたらどうなるのかを、関東大震災後の大正時代に刊行された「東京市高低図」を使ってシミュレーション。その危険性を地名から読み解けるかという話を分かりやすく解説している。
都内に暮らし、山手線界隈を普段チャリで移動している身としては、日頃体感している感覚を文章で補ってくれる一冊であった。が、それ以上でも以下でもなく、比較的知っている、というか分かっている話も多い。
東京の東のほうは「砂」だ「浜」だと地名に付いてて、海抜0で浸水するとか、あるいは地震で液状化という話も知ってる人は多いのでは? 「谷」、「池」、「津」の付く地名も低地で湿地で地盤が盤石ではないのは東京に限ったことじゃないしね。
地域ごとに具に見ていくけど、主だった検証以外は、「柴又」はかつては「嶋叉」(水が島を避けるように流れていた地形)であったとか、「日暮里」は「新堀」だった、「三田」は「御田」(何らかの意味で「尊敬を受ける田んぼ」)といった地名の薀蓄が並び、それなりに面白いけど、さほど新しい発見は少なかったかな。
ただ、こうして地名が変わっていく、あるいは表記が別の字に置き換えられていくことで、本来の意味が失われていくことには注意が必要だ。本書でも引用されている柳田國男の言葉、
『地名とはそもそも何であるかというと、要するに二人以上の人の間で共同に使用せらるる符号である。』
を再認識し、地名に込められた記憶が失われていく危険性は知っておくべき。本書で、もっとそこを強調してもよかったと思う。「なんとか丘」とか「なんとか学園」とかの地名の、なんと意味ないことかってのがよく分かる。
サクっと読めて、知識欲をそこそこ刺激してくれる面白い一冊でした。東京都に暮らす・働く人なら体感しながら本書を読んでおくといいと思った。