木元哉多のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ今回は変化球。いつもと違って沙羅ちゃんが動き回って活躍する姿は頼もしい。絶対にうまくやってくれるだろうとの安心感。それにしてもこのシリーズ、殺された人のダメさ加減には目も当てられないことが多い。その分、周りに徳の高い人がいたりするので救われている。沙羅ちゃんの口から出てくる、人間のダメなところ、どうあるべきか、といったことが多めだった印象。最もなことばかりであり、彼女の口から言われることで、納得しかない。説教臭さは感じられず、素直に受け入れられる。表紙の望月けいさんによる沙羅ちゃんのイラストは毎度のことながら、キリッとした中にも可愛さや色気をも秘めており、毎度楽しみ。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ初登場の沙羅ママに対する沙羅の言動が新鮮で、そんな感じの今風の子なんだなあと理解が深まったし、一見そう見えなそうだが、実は仲が良い関係を微笑ましく思う。「あざーす」とか、女の子が使うべきでない言葉とか。このシリーズの最近の作は特にそう感じるのだけれど、被害者がたどる推理と沙羅の説明が被っているところが多く(それが正解なのだから仕方がないのだろうけれど)ちょっとくどいように思う。それと美久の気持ちを沙羅が律子に伝えるのはルール的にありなのだっけ? ラストは別な結末を一瞬期待したけれど、犯罪が消えてなくなるのではなく、しっかり罪を償ってこれまでのことをきっちり清算するのが、彼女たちにとってベストな選択なのだと気付かされた。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ前作を読み終えた後、このシリーズの長編も読んでみたいと書いた。『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズ第6作は、初の長編である。元々、十分に長編にできるネタばかりのこのシリーズ。一ファンとしては読むしかない。
色々複雑な境遇にある人物が登場したが、今回は主人公の実の母が殺人犯である。父は知らず、幼い頃から虐待されて育ってきた。殺人犯の娘という風評にずっと苦しみながら、努力を重ね、デザイナーとして現在の地位を築いた。
今なお幼少時のトラウマに苦しむ彼女の前に、出所してきた母が現れる。さらに、筋の悪い借金取りが職場や別れた夫の周りまでうろつき、彼女は再び過去に苦しめられる。ただでさえ、思春期の一人娘とはうまくいっていないのに。
とまあ、ここまで思い出しながら書いてみても、ずっしりと重い。現実に、親族が罪を犯し、このような境遇に置かれる人は少なくないだろう。作り話とはいえあまりの過酷さに同情する一方、幸い自分自身は平穏であることに胸をなで下ろす。
生い立ちを考えれば無理もないが、完璧主義で自分自身にも他人にも厳しい彼女。もちろん娘にも。いつも独力で道を切り開いてきた彼女が、絶体絶命のピンチをどう切り抜けるのか。重さがどんどん増すのにページをめくる手は止まらない。
詳細は書けないが、今回はミスリードの手腕が光る。読みながら彼女に同化した読者には、彼女が見ているのと同じ風景が見えるだろう。だが、見え方は本当なのか? 閻魔堂沙羅の前にやってきた彼女は、ようやく自問自答する。
ひたすらに過去を隠し、人に頼らず生きてきた彼女は、自らの推理に打ちのめされる。沙羅が指摘するように、ここまで追い込まれる前に、気づけなかったのか、心を開けなかったのか。まだまだやり直しはできる。そう信じたいが。
とはいえ、彼女のような境遇に置かれたことがない自分に、彼女を責める資格はないだろう。家族を想いつつ、平穏な日常に感謝するのみ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ早いもので、『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズも第5作。裏表紙のあらすじをぱっと見て、ちょっとしんどそうだなあと思ったが、このシリーズの一ファンとしては、引き返すわけにはいかない。きっとうまく処理してくれるのだろう…。
1人目、23歳の元バドミントン選手・夏帆。天賦の才能に恵まれ、国内では敵なしだったが、実は大の練習嫌い。ロンドン五輪ではメダルに届かず。リオ五輪前の怪我で現役を引退し、現在は所属会社に勤務しつつ、小学生相手にコーチをしていた。
同じく選手だった父の葬儀で、才能だけで生きてきた夏帆に投げつけられる言葉。苦い気持ちになってくるが、その後の展開は…犯人があまりにも浅はかとしか言いようがない。しかし、そんなヒントをよく解読できたものだ。以心伝心なのか。
2人目、17歳のイケメン高校生・大地。夏帆が才能で生きてきたなら、彼はルックスで生きてきた。何度も振ってきた彼が、いじめられている女子に恋をし、振られた…。本気の恋となると、なかなか一途ではないか。真相は、若者らしいというか何というか。ちょっとしたボタンの掛け違えだった。「彼女」にも立ち直ってほしい。
3人目、39歳の会社社長・昇。ん?この死因は…。シリーズ史上最も悪い人間だと断言しよう。当然、閻魔堂沙羅が容赦するはずもないが、こんな男にもチャンスをくれるという。しかし、制限時間は通常の10分ではなく、わずか3分!
詳細は伏せるが、色々とシリーズとして変則的な要素を含む。頭の中にある情報だけで、ちゃんと導き出せるというが、うーむ、これはありなのか? まあ、チャンスを与えただけでも最大限の譲歩だよねえ。自業自得かつ因果応報である。
それにしても、毎回読み終えると思うのだが、様々な人間模様をよく思いつくものである。今回は、人間模様のバリエーションに加えて、基本フォーマットを崩すという試みもあり、ますます楽しみなシリーズになってきた。
このシリーズの長編も読んでみたい気がする。また、木本哉多さんが、閻魔堂沙羅シリーズ以外の作品を書くことがあるのかも、興味深い。 -
Posted by ブクログ
ネタバレシリーズ第4作。今回は、沙羅と推理勝負を挑むのは2人と少ないが、各編100p程度とやや長め。このうち第1話は、問題編がWEB上で先行公開されていた。
その推理企画のことは承知していたが、面倒臭がりの自分は参加しなかった。問題文がもっと短いと思っていたので、こんなに長かったとは。作中の女子中学生と同じく、見事に2問とも的中させた読者は、21人いたそうである。
1人目、女子中学生13歳。父は自称画家、母は出て行った。かつかつの生活だが、悪に染まることなく、慎ましく生きていた。そんな彼女が、なぜ撲殺されなければならない…。悪知恵が働く友人と、学校内の人間関係。すべては繋がっていた。そして、彼女自身もまた、原因を作っていたことに思い至る。
副題に「点と線の推理ゲーム」とあるように、無関係なエピソードはないわけである。すべては1本の線で繋がっていた。彼女に悪意はなかったとはいえ、今回に関しては犯人にも同情の余地があるかな。まだ若い。未来に幸あれ。
2人目、元ヤクザ41歳。事情により組を抜け、今はカタギとしてうどん店を経営していた。そこにかつての弟分が訪ねてきて、組の苦境を訴える。家族のためにも復帰は考えていないが、あるニュースが、否応なしに彼を巻き込むことなる…。
本来、ヤクザなら即刻地獄行きだと沙羅は言う。正論すぎて返す言葉がない。ヤクザである以上、誰かを泣かせているのだから。それでも家族のため、推理に挑む。元ヤクザだからこそ、解けたと言えるだろう。ヤクザの思考回路、関係者の性格や嗜好、そして鍵になったのは…。これですっぱり縁が切れるといいが。
人間模様の興味深さは相変わらずだが、今回は点と点を線で結んでいく過程に注目したい。前回までは心理や感情を読むことを重視していたように思うが、どういう損得勘定を働かせるかに着目すると、線が見えてくる。カタギもヤクザも、損得勘定で動くのに何ら変わりはない。
2編の間に挟まれた「閻魔堂沙羅の日常」は、ファンサービス的な掌編だが、スピンオフが書けそう。読者にとって幸いなことに、沙羅が切り盛りしないとこの世界は回らなそうである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレミステリの形式を取りながらもいろいろな問題に触れている。第一話。外見で不利な女の子の話。ひょんなことから自分の思っていたのとは違う人生になってしまうというのは案外あるのかも。第二話。時事問題も絡めつつ社会派? 二人で教え合うのは、ルール的にありなのかと疑問に思ったけれど、沙羅が教えているわけではないので、自分で推理していくのと同じ範疇なのかと納得した。第三話。心の闇の問題。沙羅というキャラがちょっとワンパターン化している気がしなくもないけど、これはこれで「お決まりの流れ」という意味ではアリなのかもしれない。「キレ顔」も出てきたし、ってそんな姿は見たくなかったけど、ってみたわけじゃないけど。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ早くも登場、シリーズ第3作。歴代のメフィスト賞受賞者の中でも、デビュー以降これほどハイペースで刊行している作家はいなのでは。続編を出しやすい一話完結のフォーマットとはいえ、多様な人間模様を描き出すのは簡単ではない。
今回の面々は、それぞれ背景も生い立ちもバラバラ。共通しているのは、恵まれた境遇とは言えないことくらいか。「普通」ということのありがたみを感じさせる事例だろうか。特に第1話は、とてもコメントにしくい。
1人目、30歳の契約社員、女性。彼女の望みは、普通の人生。しかし、なかなか正社員には登用されない。原因はわかっている。そのために母をなじったりもした…。真相が薄々予想できるのが悲しい。せっかく生き返った後に、追い討ちをかけるのかよと思ったら、何だその展開。これが転機になるのなら、まあいいか。
2人目と3人目、78歳と11歳。2人同時に沙羅が迎える初めてのパターン。詳しくは触れないが、老人と少年の関係は複雑だ。しかし、少年に何の罪もあるまい。事情が事情とはいえ、許しがたい。何だかんだで、じいちゃんを慕っている少年。彼ならたくましく生き、そして大志を成し遂げるだろう。現代社会を問う1編だっ!
4人目。19歳の浪人生。彼の生い立ちを思えば、幼少時から人付き合いを避け、友人1人いないのも無理はない。そんな彼が、小学生時代の数少ない知り合いと再会した。彼は、小学校でのある事件が、ずっと引っかかっていたのだが…。
犯人は分かり切っているという異例のパターン。問題は、ホワイ、動機なのだ。聞いてみれば、そういうネタかと納得するが、それでも君は話がしたいのか。もう十分だろう。彼が持って生まれた人間性が、いずれ運命を切り開いてくれる。
自分はとりあえず普通の人生を送っていると思うが、どこに落とし穴があるのかわからない。徳ばかり積んできたわけではない人生だけに、どういう判定をされるのか…なんてことは思わないが、日常には感謝をしたいものである。
固定フォーマットながら、沙羅と対峙する人間たちの生き様はそれぞれであり、飽きさせないのがこのシリーズの強み。第3作にして、構成面のひねりや工夫も見られる。木元哉多という作家は、もう新人ではないな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『閻魔堂沙羅の推理奇譚』の続編である。前作に登場した4人は、概ね善人であり、こんな死は気の毒だと感じるだろう。「負け犬たちの密室」というサブタイトルがついた本作は、3人とも人間的に問題ありというのが対照的だ。
世の中に完璧な人間などいなければ、誰からも恨まれない人間もいないだろう。3人とも頭は切れて、仕事はできる。人を見る目はそれなりにあると、自身は考えていた点でも共通している。ところが…。
1人目、43歳の叩き上げ刑事。彼曰く、刑事には「毒」が必要。手荒な捜査法も厭わず、家族には逃げられた。当然、多くの逆恨みも買うだろうが…。彼を殺した犯人そのものは、薄々予想できるが、事件の構図には呆れてしまった。あまりにも浅慮すぎる。本作中、この刑事だけは同情の余地があるだろう。
2人目、30歳のゆすり屋。初めての犯罪者である。即刻地獄行きのはずが、沙羅は彼にもチャンスを与える。しかし、見た目は美少女でも、彼女は閻魔大王の娘なのだ。因果応報にして、自業自得。犯罪者としても大成できなかった男の悲哀。このシリーズの中でも、ビターな1編。その刑には、ちょっとだけ同情する。
3人目。34歳の会社社長。元プロ野球選手だった彼は、現役引退後はジム経営で成功を収めていた。勉強と努力を重ねて、ここまで来た自負がある。そんな結果にコミットする男が、かつてのチームメイトに向ける目は、冷ややかだ。
とはいえ、彼は仕事に厳しいだけで犯罪者ではない。富裕層と呼ばれる人たちは、このようにして地位を築いたのだろう。自分には真似できない、ストイックな生き方だ。しかし、人の上に立つことにより、見えなくなるものもあるのか。
3人中文句なしに「負け犬」なのは、ゆすり屋だろう。刑事は家庭生活でしくじったという点では「負け犬」か。社長は野球で「負け犬」になったことをばねにして生きてきた点で、他の2人とは異なる。彼なら再起できるに違いない。
それぞれの人間たちの生き様が訴えかけると同時に、推理の楽しみが味わえるこのシリーズには、さらなる続編を期待したい。次は、全員が犯罪者というパターンを読んでみたい気がする。