西東三鬼のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
戦中・戦後の神戸に棲む、ふてぶてしいまでに逞しく生き抜いていく人たち。そんな人たちや当時の神戸の様子を、俳人らしい目線で描かれた作品です。著者当人の言によると「フィクションではない」とのこと。
登場人物達は、今の真面目な日本人にはちょっと想像も付かない人たちだと思います。今の時代だと絶対に受け入れられない人たちだけど、私は嫌いじゃない。
私は神戸で青春時代を過ごしたので、開戦して1年が経とうというのに、大音量のジャズが聞こえてくるバーがあったくだりを読んで、神戸のお役所嫌いや、自由を何よりも尊び、他者に干渉しない気質はこの頃すでにあったのだなと、懐かしく思い出しました。 -
Posted by ブクログ
第二次世界大戦中の神戸、アパートを兼ねたホテルに主人公は住む。そのまわりには日本人だけでなくエジプト、ロシア、台湾、朝鮮、ドイツなど様々な出自の怪しい人々が蠢く。
戦時中だけに物資や食べ物は不足し、住むところに困ったり、体を売ったり、病気で死んだり、という悲惨な状況である。にも関わらず、生々しさがなく別世界の寓話のような仕上がりになっている。
解説で森見登美彦氏が、三鬼とは天狗の異名だという逸話を取り上げ、著者の書きぶりを「フワリと宙に浮かんで人間たちの営みを俯瞰しているようでありながら、俗世で生きる彼らへの愛情ゆえに見捨てて飛び去ってしまうこともできない」と書いている。「千一夜物語」とも書か -
Posted by ブクログ
ネタバレこの頃、生きて明日を迎える事がどれだけ大変だったかがよく分かった。個性豊かで人間味たっぷりの隣人たちがバタバタと死んでいくのはショックだが、それでも人々の毎日は続いていく。あまり感傷的にならずに記しているところが良かった。
この時代を生きている人にとって死とはどういう感覚だったのだろう。空襲で亡くなった描写は現場の様子が目に浮かぶようだった。生きたい人たちの元にも、暴力的な死が一瞬でやってくるのが怖い。
女たちがどんな風に神戸の街を生きていたか、考えるのも辛い。困窮の末に辿り着いた人もいれば、モラルの崩壊した人もいて、実情は分からない。でも戦争がなければこんな事にはなっていないだろう。
どれも -
Posted by ブクログ
何の情報で知ったのだったか、私の好きな作家さんが何人も絶賛してたので、読んでみることにしました。
西東三鬼は俳人で、新興俳句系の句誌を創刊したりしてた。
でも、俳人になる前は歯科医師、その後貿易会社役員など経歴が面白い。
戦時中、京大俳句事件で執筆活動停止処分され、妻子を東京に置いて単身神戸に移住。
これはその神戸の頃の回顧録的な作品。
今まで、映画やドラマや小説で知っている戦争中の苦しさ、貧しさ、暗さ、悲壮感...
その重さで戦争モノは敬遠しがちな私ですが、著者の淡々としていて、ユーモアあふれる文章にぐいぐい引き込まれてしまいました。
しかも生活していたアパートとホテルの間のような止宿人 -
Posted by ブクログ
戦中、戦後を強かに生きた人々の喜怒哀楽が描かれているが、ちょっと不思議な読後感がある。コスモポリタンや自由を愛した人々というと何かが違う。国家の庇護を受けないが、その代わり国家の命令にも従わない。望むと望まざるとに関わらずそういう境涯へと至った人々が力強く生きていく様を、ほとんど心理描写を交えずに断片的に投げ出すように描いていく。この愛すべき人々との交わりに何かしらの感興や心の動きがあって俳人はこの散文を書いたのだか、生涯を損耗させるほど打ち込んだ俳句ではどうだったのか。俳句という器では任が重かったのか。虚子の花鳥風月では描けなかった経験だと思う。ただこれに催された感情の動きを何とか俳句という
-
Posted by ブクログ
『神戸・続神戸』は、新興俳句運動の中心人物のひとりであった俳人・西東三鬼が物した随筆である。太平洋戦争末期、三鬼が下宿していた神戸のホテルにおいて、住人たちが繰り広げていた狂騒的な日常を描いたものだ。
三鬼自身も戦時下で反戦的な俳句を詠んだとして検挙された経験もある人物だが、『神戸・続神戸』に出てくる人物たちは、それに輪をかけた曲者ぞろいである。どこからともなく貴重な食肉を仕入れてくるエジプト人や、体ひとつで渡世している娼婦たち。ロシアの老婆は日本娘をドイツ兵に売りさばき、台湾の青年はバナナの密輸入に精を出す。男たちは闇物資を、女たちは体を売り、特攻や結核や空襲でゴロゴロと死んでゆく。
こ -
Posted by ブクログ
ネタバレお世話になっている古本屋さんからオススメして頂いた一冊。
著者の作品は初読みとなりましたが、著者が俳人だからなのだろうが味わったことのない文体に惹き込まれてしまいました。
タイトルにある神戸は私の地元からほど近く、何度か私の地元の地名が出てきたり、知っている地名や通りが一層親近感を与えてくれたとはいえ、時は太平洋戦争の前後のストーリー。
ストーリーというよりは日記に近い感じと言ったほうが表現としては近い気がします。
登場する人物も個性豊かであり、それぞれの魅力が詰まっていますが、やはり本作の醍醐味は文体だと思います。
日本語って奥が深いなぁ…
改めて実感しました。
説明
内容紹介 -
Posted by ブクログ
太平洋戦時下の神戸を舞台にした奇書。
太平洋戦争さ中、神戸トーアロードにある朱色に塗られたホテル。そこには様々な国籍の人々と、娼婦でもあるバーのマダムたちが下宿人として住んでいた。東京を逃れこのホテルに移り住んだ俳人・西東三鬼が描く、ちょっと不思議な人間模様。
西東三鬼は新興俳句運動の中心人物の一人として、戦意高揚の俳句作成や使う季語すら国から推奨される時代に、厭戦や反戦の俳句を次々と掲載したことから、治安維持法に基づく言論弾圧事件(京大俳句事件)に連座、検挙された人。
そんな人物が描く戦中の神戸のホテルの住民は「エジプトのホラ男爵・マジット・エルバ氏」「通俗小説のヒロインの様な娼婦・波子