高口康太のレビュー一覧
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中国経済は行き詰まっている。住宅バブルは大量の未完成工事物件が、田舎の空を塞いだまま、工事もされずに鉄骨の柱も錆びついているという。一時期は中国のマンションは値上がりを続け、やがては地方にまでそのバブル的な景気が押し寄せるという楽観的な目測の元、庶民が住宅として住むには豪華すぎる物件の投資に、行き場のないお金が向けられていた。いつ頃だったか、巨大不動産企業の中国恒大集団の経営破綻がニュースで流れ、いよいよ中国初の世界恐慌が始まるのでは、と株価を見ながら緊張した事もあった。結果的には裁判による清算もこの2025年8月には完了した(香港証券市場での上場廃止は2025年8月25日)。然程、中国経済に敏感でない人でも、中国が風邪をひきくしゃみでもしようものなら、日本経済が病に伏せる(ただでさえ病人の様な状態では肺炎にでもなるか)程の影響を受けるのは避けられないと思っている。斯くいう私も恒大集団の件自体が記憶からは薄れていたが。思った以上にソフトランディングでもさせたのか、我々の耳には中国経済が破綻する様なニュースは幸にして届く事はなかった。
寧ろ今は、中国と言えば電気自動車が世界を席巻し、バッテリーを積んだ中国車を日本国内でも頻繁に見かけるほど、中国は自動車大国となった。それだけではなく、電気自動車、バッテリー、太陽光パネルの言わば脱炭素社会の三種の神器とでも言えるこの分野では圧倒的な供給力を誇っている。一昔前の中国と言えば、強烈な埃と砂塵(砂漠から)、異臭と空気の汚れた正に発展途上でよく見られるイメージが大きかったが(加えてどんなに混雑してようが人混みで喫煙する人の多さか)、今の中国は綺麗な空気と青空でも見えるのではないかと言うくらいにクリーンな製品を大量生産している。
その様な中国が世界経済の中でも大きな注目の的であるのは間違いなく、それは圧倒的な人口と、国家の集中的に力を発揮させる能力、爆発的な生産力から生み出される供給力の高さにある事は言うまでもない。何せ日本の10倍以上の人口を抱え、日本のような分断されて中々物事が決まらない政治とは真逆の共産党、いや習近平国家主席による即決独断型の政治体制があるから、何をするにも一斉かつ迅速極まりない。これは日本の政治家が見たら羨ましがる環境だろう。勿論その弊害として、民衆は自由を制限されるという条件付きなのではあるが。
中国経済を見た時に、不動産バブルの沈静化、電気自動車を代表格とする「新三様」と呼ばれる新産業構造への変革を眺める事は、それを、支える国家の政策を垣間見る事になる。中国社会が抱える複数の問題•課題としては、元来、中央に権力と財が集中し、地方の財政は厳しい状況にあると言う事。そして一人っ子政策の弊害として日本を超えるスピードで超高齢化が進む事、沿岸部と内陸の貧富の格差、共産党が見誤れば一挙に崩壊しかねない権力集中のリスク、更には債務の罠を併せ持つ一帯一路構想。これらに継続的に同時並行的に向かい合わなければならない中国が、今後どの様な舵取りがされていくのか。勿論船頭は習国家主席である。そして本書でも繰り返し述べられている、「過剰供給力と国内消費需要の不足」(日本でもよくEVの墓場の記事をよく見かけたが)の問題を解消し、持続的な成長が図られるのか。まだまだ予断を許さぬ状態だが、これを見て分析する事は、世界経済の行末を占う上でも重要だ。話によれば、バブル崩壊後の日本の失われた30年を反面教師にしているという事だが、今のところ不動産バブルと高齢化については、同じ茨の道を進み続けている。
本書は前述した様な、近年中国経済と国家の政策などを8つの章に分けて描いていく。章ごとに纏めもあるので、内容はすごくわかりやすい上に頭に残りやすい。中国経済を見ながら世界の動きを学ぶ事は、現代社会の動きそのものを理解するのにも役立つ。そして日本と同じ様な悩みを抱え、日本に先立ってそれらを解決してくれるなら、日本にとってのヒントになるかもしれない。概要を掴むだけでなく、日本のヒントを探しながら読む、という点でぜひ一度手に取ってみては如何だろうか。 -
Posted by ブクログ
専門的な内容が多く完全に理解したとは言い難いが、特定の思想に偏らない中立的な視点で今の中国経済が解説されていて勉強になる。自分では極力偏見を排してニュースを見るよう心がけているつもりだが、それでも古くて一方的な見方で中国を見ていたことに気付かされた。例えばEVの急速な普及はナンバー取得優遇などの政策要因が主だと思っていたが、単にガソリン車よりお得だから売れているだけというのに驚いた。昨年深圳の金持ち社長から「EVなんて不便で信頼できない車は絶対買わない」と聞いたが、そういう安物に俺は乗らないという事だったのか。
そして「殺到する経済」というフレーズも中国経済の特色をよく表現していて腹落ちした。中国でビジネスしている人は必読の書、だと思う。
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Posted by ブクログ
本書は昨年(2019年)の8月に刊行されてから、大変話題になり、かつ其の後起きたコロナ禍への中国の対応/管理手法の一つとして個人情報を国が使って監視したことから、さらに注目された本だ。
これについては否定的な視点はありつつも、実は昨今(特にコロナ禍以降)の日本においても、このような手法を肯定的に捉える風潮が強まり始めていることは、政治を司るもののみならず、国民の側にもメリットがあるわけであって、その点を、中国ではどのように捉えられているのか?ということを理解しなければ、この『幸福な監視社会・中国』というテーマを理解したことにはならない。むしろ、この点こそが『幸福な』と付く理由であり、中国に限った話ではないことを物語っており、これこそが、本書の優れて今日的な評価を高めている理由だと、私は理解している。
さて、本書の主題である"国家による個人情報の監視システム"については、正確に(中国で)何が為されているのか?を把握している人は少ない、と著者は説く。
それは、我々読者側が持っている「先入観」による視界の歪み、正確な情報の欠乏、及び、システムの実装のスピードがあまりに早くて専門家でさえ状況を追い切れていない、などがあると言う。
最初に挙げた「先入観」は、『中国の社会体制が普遍的人権や議会制民主主義、法の支配と立憲主義といったいわゆる「普遍的価値」にもとづくものとは根本的に異なるため、変化の激しいテクノロジー、特に「監視社会」に関係するそれが、一体どう使われるかわからないという「不確実性」に対する漠然とした恐れ(p.18)』が、我々に先入観を持たせてしまっており、かつ、昨今議論されている『中国のような権威主義的な国家こそ、これからのAI+ビックデータの時代で覇権を握るだろう、という言説がそれなりの説得力を持って展開それ始めていること(p.18)』もそれらを補強し、さらにコロナ禍で中国政府が見せた"鮮やかな情報管理"が、それらを確信に近いものとして多くの人に印象付けたと言えるだろう。
第6章:幸福な監視国家のゆくえ”にて「功利主義(こうりしゅぎ : utilitarianism)」というキーワードを取り上げている点に、私は非常に妙着した。
この「功利主義」、『行為や制度の社会的な望ましさは、その結果として生じる効用(功利、有用性、英: utility)によって決定されるとする考え方 (Wikipediaより引用)』とあるが、これを別の言い方をすると「最大多数の最大幸福」というベンサムの命題があるが、この考え方は、特にビジネスパーソンにとっては親和性が高く、また、本書の主題である「監視社会」とも親和性が高いということは、次の一節の引用で十二分にご理解頂けると思う。
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つまり、個人の属性や行動パターンによって反社会的行動を取りそうな人たちに対しては、あらかじめ行動の自由を奪っておくことが、違法行為を犯して刑務所に入れられる可能性を減らすので、むしろその人たちのためになる、というわけです。(p.172)
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そして”第7章:道具的合理性が暴走するとき”において、この仕組を最大限生かしている事例として、現在も中国政府が世界各国から非難を浴びている、新疆ウイグル自治区における再教育キャンプの実態について取り上げている。
これは、ウイグル族住民の個人情報のみならず、生体情報(DNAや虹彩のデータ、話し声や歩き方)まで収集して監視網を強化し、かつ、再教育キャンプにて思想矯正を行うという、「現代の民族浄化」とでもいうべき実態について挙げた上で、これら監視システムの道具としての合理性を突き詰めていくと、こういう”暴走”ともいうべき人権無視の状態が生じることに警鐘を鳴らす。
このように否定的な視点はありつつも、実は昨今(特にコロナ禍以降)の日本においても、このような「功利主義」と「監視社会」を肯定的に捉える風潮が強まり始めていることこそが、本書の書名に『幸福な』と付く理由である、と、私は解釈している。
本書には、結論は無く、以下のまとめの言葉がある。
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これらを踏まえた上で、私達はどのようにすればよいのでしょうか。月並みかもしれませんが、やはり重要なのは、テクノロジーの導入による社会の変化の方向性が望ましいことなのかどうかを、絶えず問い続ける姿勢をいかに維持するかということに尽きると思います。(p.239)
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本書を読んで語りたいことは多々あるが、この中国の監視システムを「気持ちが悪い」と言いながらも、その基盤があって生ずる便益を羨望(せんぼう)する私達自身が、果たしてどのような社会を望むのか?という問いを投げかけられているのだ、と私は理解する。
そして、このようなテクノロジーの発展というものについては、『確かにテクノロジーを敵視して、その導入を拒むのは「ラッダイト運動」(産業革命期のイギリスで起こった機械の破壊運動)の頃から繰り返されてきたことであり、同じことは監視技術の導入についても言えるでしょう。(p.239)』と喝破している。
そうなのだ、我々は、いずれこれらを、喜んで受け入れていくのだ。今持っているこれら社会システムへの嫌悪感を忘却した上で。 -
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少しタイミングが遅れて読みました。著者の1人の高口さんが最近ネットで語られていました。曰く「この書籍を書いていた2024年末頃は、中国の経済対応パッケージも実行されており、本当にピークアウトするのか分からない部分もあった。しかし、2026年8月現在でも基本的な状況は変わっておらず、2025年以降の1年超を中国としては無為に過ごしてしまった様にも見える」と言った趣旨でした。
経済学的な分析も踏まえて、中国は基本的に供給サイドの政策が多く、消費喚起など需要側の対応は限定的とするのが基本的なスタンスである、と言った点等々、勉強になった。
不動産や家計消費の低迷を輸出で牽引する構造が続いたいますが、欧米は中国からの輸入品に対する厳しい姿勢をより強めて来ていますので、今後どうなるか継続ウォッチしていきたいです。こちらの本は、折に触れて読み返してみるのが良さそうです。 -
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本書はジャーナリストと中国経済の学者がタッグを組んで書いた本です。そのため現地での具体的な取材に基づいた記載と、学術的な抽象的なフレームワークに当てはめた議論の両方が盛り込まれていて、私は大変満足しました(どちらか片方よりも示唆が多い)。
印象に残った点は、本のタイトルにもあるように、中国では功利主義的な価値観から、監視されることがむしろ大多数の人々にとっては功利主義的な幸福の向上につながっているということでしょう。信用スコアの上下に伴って生活の利便性の向上/低下が起き、それが犯罪の抑止だけでなく、マナーの改善につながるなど「お行儀のよい国民」へと変化が進んでいるということです。
もちろん負の側面もあります。それは少数民族に対する「過度の」抑圧で、新彊ウイグルでの知識人の「再教育キャンプ」への連行など、漢民族に対しては起こらないであろう過度の抑圧が行われていることです。これを著者は「道具的合理性の暴走」と呼びます。近視眼的、功利主義的な合理性です(その上位概念的なものが「メタ合理性」)。またネット上にポジティブな情報を意識的に増やそうという「正能量」という概念については、その意図は理解できるけれども、長期的には国民の批判的思考力をかなり弱体化させるのではないかと思いました。批判的思考力が弱くなってしまうと、今後ますますAIのいうことに従うようになるでしょう。
今後のAIの発展の影響という意味では、本書で取り上げられている心の二重過程理論との絡みが興味深かったです。心の二重過程理論では、人間の思考はシステム1(速い思考)、システム2(遅い思考)の2つがあることを示し、システム1が直観的かつ道徳的な思考(オートマチックモード)をさし、システム2が功利主義的で合理的な思考(マニュアルモード)に該当します。そして今後AIが進化すると、人間は負荷の大きいシステム2についてもAIに任せることがあるかもしれない、しかしそれは本書が呼ぶところの「アルゴリズム的公共性」を肥大化させるとともに、「市民的公共性」をやせ細らせることになるだろうということです。これが現在の中国で起こっていることになるわけですが、本書が指摘するように、中国における公共性が欧米的な「市民的公共性」ではなく、儒教的な「天理」に適っていることを意味するとすれば、道徳や倫理が埋め込まれた「アルゴリズム的公共性」が、好き嫌いにかかわらずAIの進化とともに世界中で浸透していくのかもしれないです。いろいろと考えさせられる良書でした。 -
Posted by ブクログ
現代中国を特に経済状況の変遷から俯瞰する良書。
基本的に中央政府は財政健全策を取っており、景気刺激策を地方財政に過度に依存した結果、不動産価格高騰を招き、不動産好況時は経済成長の原動力となったものの、不動産不況下では経済停滞や地方財政破綻を生んでいる。
巨大な国内市場を背景にした優位な自国市場効果により(巷間囁かれる不正な補助金支給は実は限定的)EV、太陽光パネル、リチウムイオン電池は世界的に圧倒的なシェアを誇るが、裏を返せば「供給能力の過剰と消費需要の不足」という中国経済の宿痾の象徴ともいえ、その解決策として打ち出した一帯一路も奏功せず、同国経済は踊り場を迎えている。
客観的には国内需要喚起策の必要性は明らかだが、竹中平蔵の供給サイド改革が意外なほど高く評価される同国の経済政策は供給サイドに極端に偏っている。
不動産への過度な依存がなぜ起こるのか、それが現在国際問題となりつつあるEV等の過剰輸出とどうつながるのか、合理的にわかりやすく解説されている。
各章の終わりに簡潔なまとめがついているのも親切。 -
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コロナ禍に行った追加的財政支出は総額7710億ドル、GDPの約4.8%に相当する。
日本では8440億ドル(対GDP比16.7%)、米国は5兆3280億ドル(同25.5%)と他国と比べてかなり控えめなものだった。
中国では政府の財政政策は消費を下支えするには不十分だった。金融政策は積極的に緩和を続けたものの、財政政策が消極的だったため、行き場を失った資金は不動産市場へ向かい、一時的な不動産価急上昇へとつながった。
不動産危機の引き金になったのは「三つのレッドライン」と呼ばれる債務削減義務が原因。
習近平政権が2014年に新型都市化政策と呼ばれる新政策を打ち出した。
それは、農民が都市住民となるための条件整備を明確にし、都市化を加速させるもの。
都市化といっても大都市をさらに巨大化させるのではなく、中規模の都市を大きくするもの。
その弊害として、中小都市の建設にこだわるあまり、大きな非効率を生んでいる。
都市建設が「低密度」であることによって、サービス業の発展が抑えられる、労働者の実質賃金が抑えられるなど。
そのため今後は500万人以上の都市に人口を集中させるよう都市化政策を見直すべきだという話も出ている。
合理的バブル崩壊しても、日本で生じたように低金利の国債を広く国民が保有するか、賦課方式の公的年金を全国民に拡充するなどの手段で世代間の資源移転を図れば、しばらくは低金利の下で人々の不満を抑えつつ、一定の経済成長を実現することは可能だが、中間層の間で混乱と社会不安が長期化する恐れがある。
政府が金融緩和に消極的なのは
①米国が高金利を続けている状況下で金利を下げれば、ドル高人民元安になり、資産を海外に移すより一層キャピタルフライトが懸念。
②緩和により金利が下がれば、銀行の利益が減少し、トラブルにおいて銀行を都合よく使うことができなくなる。
中国経済の回復には積極財政への転換が必要だが、均衡財政に偏重しており、現時点では行われる様子はない。
不動産市場の低迷と地方政府の債務問題を解決するには、積極的な財政・金融政策によって当面の経済成長率を維持しつつ、稼いだ時間で社会保障制度の拡充と整備を行うこと。
「自国市場効果」=ある産業について大きな国内市場を擁する国には、その需要を満たす以上の企業が集積するようになり、その結果比較優位を持つようになるメカニズム。 -
Posted by ブクログ
伊藤計劃『ハーモニー』を読みながら思い出したので、改めて手に取る。中国におけるテクノロジーを用いた「監視社会化」の進展は、『1984』的な権威主義的全体性というよりは、ハックスリーの『すばらしき新世界』のイメージで捉える方が適切であり、主にデータを譲渡することと利便性の向上とのバーターが意識されているという意味で、データ資本主義とAI/ITを用いた統治をめぐる世界史的な同時性の文脈で理解すべき、という議論が展開されている。中国の事例を理解する上では、市民的公共性という問題意識の稀薄さという論点だけでなく、統治者に「徳」を求める儒教的な価値観の回帰という契機が重要だという記述も。