延江浩のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『反骨魂 後藤亘 「ミスターFM」と呼ばれた男』を読んでその著者がもうこの世界から旅立ったことを知り、だけどもう少し彼の文章に触れ続けたくなり、この文庫を手にしました。馴染みがあり、薄くて、すぐ買える本、それが『松本隆 言葉の教室』でした。そしてどれももいつか身体の中を通り抜けていた歌の歌詞、呟くようででも沁み渡る松本隆の語り、そしてそれを流れるように編集する著者の仕事、全部一体となった、まさに「風」のような本でした。今年は大瀧詠一十三回忌、萩原健太の『幸せな結末 大滝詠一ができるまで』の出版、またまさに3日前に『A Tribute to EIICHI OHTAKI』というステージも行われたらしく…『君は天然色』にまた光が当たっているタイミングでした。ということで松本隆の言葉も色褪せないアートワークとして存在感を出しています。そしてそれに寄り添う延江浩の言葉も本書の最後の方に立ち上がり「松本隆をめぐるナイン・ストーリーズ」、なにより「あとがき」も松本隆の「風」を受けた物語として自然に繋がります。そして最後のページに「突然、向こう岸へ旅立ってしまった延江浩さん。薄いセーターにサングラス。ぼくより若いのに、人生を知り尽くし、生き方の趣味の良さったら、もっとずっと 話していたかった。銀座の渋いカフェで酸味の強い珈琲を飲みながら夜更けまでお喋りして。ああ、でも延江さんはお酒を選ぶだろうね。さよなら、我が友よ 松本隆」の文章が。合掌。
-
Posted by ブクログ
昨年の放送100年とは大正14年に芝浦の仮放送局から始まったラジオ本放送から数えてです。時は流れ、そのラジオの世界では2028年までにAMを停波しFMに一本化されると言われています。しかし登場当時はその必要性が疑問視されていたのはFMの方でした。そこをこじ開けたのが松前重義。「今は中波放送全盛で短波放送も始まったが、もうひとつ残されている電波が超短波だ。超短波放送の開発を我々の手で行う。富士山の頂上にアンテナを建て電波を発射する。そうすれば日本列島の半分をカバーできる。その放送で高等学校の授業を行う。高校に進みたくても様々な事情を抱えて通えない日本中の彼ら彼女らに勉強してもらう」なんという壮大な構想。戦後の明るさの根本はこんな気宇壮大な妄想によって生まれたのかもしれません。松前に魅せられ妄想を実装にした男が本書の主人公、後藤亘です。今回、初めて知った人です。成長の時代とは科学技術の時代であって新しいテクノロジーが人々の幸せをつくると信じられていた時代です。それを現場で実現した男。彼には現在のテクノロジーで社会を自分たちの思うように変えてやろう、としているテクノ・リバタリアンたちにはない向日性があるように感じます。しかし後藤亘の向日性はデジタル化以降もFMという帯域を超えてもラジオというメディアからピボットしても変わりません。まだ存命の主人公は、radioのように放送と通信の融合が進む社会の「幸せ」をたぶん、きっと、ずっと考えられているのだと思います。本書の、その先を著者 延江浩に書いて欲しかった。しかし本書を脱稿後に逝去されたとを最後のページで知りました。後藤亘の追悼文にあるいつかなされる二人の会話を読みたい、しかし。
-
Posted by ブクログ
この本は
延江浩さんという方が手掛けた作品
前半は松本さんの語り口で書かれており
後半からは延江さん語りで
松本さんとの思い出も交えて書かれています
作詞のレクチャーとしても
読み応えありますが
常日頃 日本語を大切に使いたいと
考えている私にとって
表現方法など学びがありました
そして
何故 私はあれほど
聖子ちゃんの歌が好きだったのか
曲を聴くと
曲の世界が頭の中に
鮮やかに広がっていったのか
その謎が解けました
それは歌謡曲という流行歌に
松本さんが幼い頃から触れてきた
美しい映画や詩など
文学的要素があったからだと思います
そして聖子ちゃんという天才が
瞬時に曲の世界を理解し
歌で表現していた
私は毎日毎日
聖子ちゃんの歌を聴き
頭の中では
様々な映画が上映されていた
だから曲を聴くと
様々な絵が頭に浮かぶんです
松本隆さんが次々に
素敵な作品を送り出していた
あの時代にリアルタイムで
その作品を聴く事が出来たのは
とても幸せなことだと
この本を読んでいる間中
感じていました
-
Posted by ブクログ
松田聖子「渚のバルコニー」、「赤いスイートピー」や寺尾聰「ルビーの指輪」、Kinki Kids「硝子の少年」などのメガヒットを数多く生み出した日本を代表する作詞家、松本隆のインタビュー。
稀代の天才が紡ぐ言葉はどのようにして生み出されるのか?多くの読者が関心を寄せるところだが、冒頭で氏は言う。自分は、定型やテクニックのようなものからは一番通りところにいる、と。人の心を動かすには、言葉は顕在意識ではなく潜在意識に届けなければならない。テクニックは顕在意識には届くが、ここにいくら届けても感動は生まれないと。
例えばマーケティングなどの世界では、いつの時代もテクニックや定型化に余念がないが、作詞という文学的な世界ではそのようなものに頼っていては、時代を超えて語り継がれるものは作れないという事だろう。一方で、そうしたマーケの世界でも長く親しまれるキャッチコピーなどは存在する。松本氏のような発想で言葉を紡いでいく先にのみ、そのうような境地に至ることができるのかもしれない。
文字の見え方、字面、並び、リズム感など、さまざまな要素を深く考え抜いて、作品に仕上げていくのである。学ぶことはたくさんある。
リズム
語感の気持ちよさ
字数: 7、5調、日本語は3,5,7の組み合わせがベスト
美意識: ガラスの林檎 (x リンゴ)
言葉の並び: 好きよ、でもね、たぶん、きっと
冒頭で否定したテクニックのような話も上記のように解説されているが、これらはいわば後付けの講釈であり、やはり松本氏は自身の感性や感覚的なものを大事にしていたのだと見受けられる。そうしたものを育んだのは、幼少期から触れていたという国内や海外の文学なのであろう。人を感動させるには、まず自分が感動しなくてはならない。
言われてみれば当たり前に思えるが、凡人はなかなかそれに気づくことが出来ない。松本さんから教えて貰った事を生かしていきたいと思わせる、まさに言葉の教室だった。 -
Posted by ブクログ
時宜を得たというか、きっとこの本が出るのが数年早かったら魅力が半減していたように思います。やはり歌詞を読むだけでなく昔の音源にもアクセスしやすくなったサブスクの存在はとても大きいです。
何度も聞いたことのある木綿のハンカチーフってこんな曲だったんだ、みたいな再発見も多かったです。
松本さんが礎を築いた「日本語で歌詞を書くこと」の美しさというのは、近年のJ-POPでもしっかりと受け継がれているように感じます。YOASOBIなどはサウンド面の印象が強いですが、歌詞もとても魅力的ですし、星野源さんの作品などにもその影響をとても強く感じます。
余談ですが松本さんが作詞を始めたのも、星野さんがインストバンドのSAKEROCK後に歌い始めたのも、細野晴臣さんの一言がきっかけだったというのは面白いですね。才能を見抜く目がすごすぎる。 -
Posted by ブクログ
松本隆(1949年~)氏は、言わずと知れた、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、大瀧詠一のアルバム「A LONG VACATION」、寺尾聰「ルビーの指輪」、松田聖子「赤いスイートピー」(ほか、24曲連続オリコン1位のうちの17曲)など、数々のヒット曲を手掛けた作詞家。シングル総売上枚数(2015年時点)は約5,000万枚で秋元康、阿久悠に次いで3位、シングル1位獲得作品数(同)は47曲である。作詞に専念する前は、細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂と組んで「はっぴいえんど」のドラマーとして活動していた。
著者の延江浩(1958年~)氏は、慶大文学部卒のラジオ・プロデューサー、作家。アジア太平洋放送連合(ABU)ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ等を受賞している。
本書は、松本が作詞について語ったことを著者が文章にした、いわゆる聞き書きである。(後半には、著者が松本の音楽・作詞活動について綴った「松本隆をめぐるナイン・ストーリーズ」が加えられている)
前半の章立ては、レッスン1「記憶は宝箱 創作の源」、レッスン2「視点と距離 どこから切り取るか」、レッスン3「光と陰 美しさを際立たせる」、レッスン4「あなたが好きって伝えたい」、レッスン5「リズムとバランスと美意識」、アフターレッスン「松本隆のポリシー」となっている。
いくつか印象に残ったセンテンスを挙げると以下である。
◆「テクニックに頼った瞬間、言葉は浅くなるんです。・・・意識には顕在意識と潜在意識とがありますが、テクニックや定型が向かうのは顕在意識のほうで、ここにいくら訴えても感動は生まれない。言葉は潜在意識に届けないと、人の心は動かないんです。」
◆「夕焼けを美しいと感じるとき、そのまま切り取っても、美しさは十分には伝わらない。・・・いちばん美しく見えるように、光と陰のバランスを調整する。陰を深くしたり、光を強く当てたりするのがデフォルメ(誇張)。針で突っついてやると増幅して波形がおおきくなる。それがアンプリファイ(増幅)。・・・どの角度から、どの部分を、どんな風に切り取るか。・・・コツは説明をしすぎないこと。余白を持たせる。間とか隙間が大事。」
◆「長いものより短いもの、難しいものより簡単なもの、複雑なことより易しいこと。ぼくにとって、世界でいちばん優れていると思う歌詞が、ジョン・レノンの「イマジン」です。難しい言葉がひとつもなくて、シンプルかつ短い言葉で表現が成り立っているでしょう。・・・難しいことを難しく言うのは簡単だけど、難しいことを易しく言うのは本当に難しい。表現を易しくすると、言いたいことが感動に値するか、あらわになる。」
◆「歌の快感は、音にしたとき気持ちいいかどうかで決まります。意味はあとまわしでよくて、大切なのはリズム。気持ちのいい語感かどうか。日本語として気持ちいい語感というのは、リズムやイントネーションによってつくられる。」
私は松本より一回り以上若い世代ながら、今でも、大瀧詠一の「A LONG VACATION」や松田聖子の若い頃のベスト・アルバムをよく聞くし、松本の詩の世界にはとても惹かれるのだが、本書を手に取ったもう一つの理由は、最近短歌を作り始めたことにある。
松本は、はっぴいえんどで「日本語ロック論争」に挑んだ人間だが、その「日本語でロックを作る(歌う)」戦いとは、短歌で言えば「口語で短歌を作る(詠う)」戦いともいえ、俵万智がその戦いで、松本と同じ役割を果たしたのだ(1987年発表の『サラダ記念日』)。その俵万智は松任谷由実に、また、同世代の穂村弘はザ・ブルーハーツに影響を受けたことは有名で、口語短歌は日本語ロックの作詞技術を取り入れて洗練されてきた。よって、松本の作詞の心得が、短歌作りに役に立たないはずはないのだ。
松本の詞のようなかっこいい短歌が詠えるようになりたいものだと思う。
(2021年12月了)