古市真由美のレビュー一覧
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凄い本に出会ってしまった。という感想しかない。
海獣というのはジュゴンのような〜?という予備知識しかなく、アラスカに到達したロシアの博物学者の冒険譚なのかと思って読み進めた。そしてわかったことは絶滅してしまった動物たち。人間のせいで…ということ。
ほとんど歴史に名を残せなかった人たちで紡がれたこのフィクションは博物学のみならず世界の広さもそこに住まう人間の傲慢さも生きとし生けるものすべての存在価値も考え直されてくれる。そして、訳者先生の淡々としているけれど鋭く的確な品のある文章が私たちに理解の助けを与えてくれた。
著者、訳者、出版社誰も彼にもお礼を叫びたい。 -
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創作童話集。グリム童話をはじめとする昔話のような、苛烈な結末にならずに、心がほっとあたたかくなるようなやさしいしめくくりのお話が多くて、読んでいてとてもおだやかな気持ちになる。それでいてペイッコの物語のようにちょっとハラハラドキドキすっきり、というのもあるし、波のひみつのようにもの悲しい物語もあるし、心のいろいろな場所に働きかけてくるのがとてもよい。
「春をむかえにいった3人の子どもたち」では、最後の添え書き「一八八九年の春に」を見て胸にくるものがあった。この年、ロシア帝国がフィンランドをロシア化しようときびしい政策を採り始めたのだとのこと。つらいなかでも春を待つ心があふれる物語なのだな。今に -
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フィンランドの作家「ティモ・サンドベリ」の長篇ミステリ作品『処刑の丘(原題:Mustamaki)』を読みました。
北欧ミステリは6月に読んだ「カーリン・イェルハルドセン」の『パパ、ママ、あたし』以来ですね… これまで北欧ミステリは数十冊読んでいますが、フィンランド作家の作品は初めてです。
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2014年推理の糸口賞受賞
かつて虐殺の舞台になったことで〈黒が丘〉と呼ばれた場所で、男たちが処刑と称し青年を銃殺した。
警察は禁止されている酒の取引に絡む殺人として処理したが……。
事件の影に見え隠れする内戦の傷。
敗北した側の人々が鬱屈を抱える町で、公 -
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ヘルシンキの自然史博物館に展示されているステラーカイギュウの骨格標本にまつわる人々の物語だ。第一章はカムチャッカ半島の周辺を探検していたベーリング隊の学術員シュテラーさんだ。半島探検中に遭難し、無人島に漂着したベーリング隊は、そこに住むステラーカイギュウを捕獲し命をつなぐ。その肉が美味であることが世間に伝わり乱獲される。同時にラッコが乱獲されることにより、ラッコが主食としていたウニが増殖し、ウニが海藻を食べつくすことによりステラーカイギュウが主食を失った状況も併進する。結果ステラーカイギュウは絶滅する。
100年が経過し、アラスカ総督府夫人と義妹の物語、さらに100年経過し、ヘルシンキの -
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発見から27年で絶滅してしまったステラーカイギュウを巡る物語。探検家、博物学者、最後から2番目のアラスカ総督、昆虫画家、鳥卵博物館の標本管理士…面白くないわけがない。
史実の隙間の誰も知り得ない詳細を埋めるように作られたフィクションであるがゆえに、タイムワープしてその時代を覗き見ているような感覚に陥った。
人類による絶滅、という概念がなかった時代にそれを証明する事自体が困難だったなんて、これを読むまで考えたこともなかった。生物への愛と探究心に溢れたかつての人々の努力によって、いま当たり前に知ることのできる事実がある。彼らに敬服する一方で、同じ人間によって絶滅に追いやられたいくつもの生物がい