池上冬樹のレビュー一覧
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吉村昭『花火 吉村昭後期短篇集』中公文庫。
吉村昭が昭和後期から平成18年に没するまでの後期に発表した作品群より遺作『死顔』を含む16篇を収録した短編集。いずれも身近にある『死』を感じさせる短編ばかり。自らの死期を悟り、描いたのだろうか。
『船長泣く』。三崎から出港した太平洋を漂流するマグロ漁船の中で、飢餓と渇きの狭間に繰り広げられる船長と船員の葛藤を描いた秀作。史実に基づいた記録文学なのだろう。
『雲母の柵』。監察医務院に勤める新米検査員を主人公にしたサスペンスフルな香りのする短編。日々変死体と向き合う中、同期の3人の中の女性検査員が突如辞職する。彼女に僅かばかりの好意を抱いていた主人 -
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吉村昭『冬の道 吉村昭自選中期短篇集』中公文庫。
吉村昭が中期に描いた短編の中から選りすぐりの10編の短編を収録。
吉村昭と言えば、過去に埋もれ行く歴史の断片を描いた記録文学作品の他に、日本人の心を描いた一連の短編にも定評がある。『三陸海大岸津波』『関東大震災』『破獄』『羆嵐』『漂流』は前者で、後者の代表作は岩手県田野畑村を舞台にした『梅の蕾』だろう。『梅の蕾』は何度読んでも泣けてしまう。
本作では刑務所の看守を題材にした短編と戦争に翻弄される家族の姿を描いた短編が収録されている。『梅の蕾』同様、極めて淡々とした洗練された文章が読み手の心を揺さぶる。
『鳳仙花』。四季のうつろいと共に平