孫子のレビュー一覧
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『孫子』十三篇は、中国最古にして、最高の兵法書である。春秋時代に呉王・闔廬(こうりょ)に仕えた孫武によって著されたとされる説が、現在では最も有力である。
本書の内容は、全編を通じて大きく三つの段階に整理できる。
第一は、不戦と慎重論である。
「百戦百勝は、善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」という言葉に象徴されるように、戦わずに勝つことを最善の策とし、これを最上位の戦略目標としている。
また、軽率な開戦を厳しく戒め、国力の消耗を防ぐために「速戦即決」を重んじ、長期戦を避ける点に合理性がうかがえる。
第二は、現実主義と情報戦である。
「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」とあるように、敵味方の状況を正確に把握し、客観的に判断して行動することを兵法の要諦としている。
勝算がある場合にのみ動く姿勢は、理想論にとらわれず、実利を重視する冷静な現実主義の表れである。
第三は、主導権の掌握と変幻自在な対応である。
実行段階では、常に敵を翻弄しつつ、自らは相手のペースに取り込まれないことが重要である。「水に形がないように」状況に応じて柔軟に態勢を変え、固定観念に縛られず対応する姿勢が説かれている。
まず不敗の態勢を整えたうえで、敵の隙、すなわち勝機に乗じることが勝利への道筋である。
約二五〇〇年前に著された書物が、現代においても読み継がれている理由は、物事の本質や原理原則を見極める重要性、そして状況に応じて柔軟に対応する姿勢の大切さを説いている点にある。
『孫子』は戦争論にとどまらず、人間の普遍的な行動原理を鋭く描き出している。複雑な現代社会においても、拙速な判断を避け、状況を冷静に見極めたうえで行動することの重要性を、静かに教えてくれる一冊である。 -
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戦略。それを全うする為の姿勢、或いは哲学的思考。
キング◯ムに孫子の兵法がいくつも登場する。見たことがある人ならすぐ気づくだろう。黒◯丘の戦いは、正にそれである。戦況も見処なので、この本を見た後に読み直したら爽快感が増すのではないかと思う。
それから、風林火山は孫子の兵法の一節の一部分だ。疾風感、無双感がある。また軍を鼓舞する言葉であろう。美徳的雄々しさをイメージするが、実際は断崖絶壁、絶対絶命の中、勇猛果敢一択ではないだろうか。敵も味方も孫子の手の平の内。底恐ろしさを感じる。
違った視点で考えると、組織リーダーの在り方とも捉えられ、学ぶべきことが多い。組織の利益を追求しつつ組織構成員も大事にする。大事にするだけでは組織のモチベーションは上がらず遂行力が低下する為、規則を用いて遵守させる。孫子に至っては恐怖を与える程の厳しさも必要なようだ。有能な将になる道は過酷であり、最後のエピソードは孫子の残酷にもなれる兵法を全うする情熱を感じた。読み終わり、やっと冒頭にある『道天地将法』五事を以て勝負を知るという言葉に辿り着く。自分の甘さに突き刺さり、心に刺さる名言が詰まっている。圧倒され畏敬の念に打たれる人も少なくないだろう。何度も読み返したくなる一冊だ。 -
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古今東西、様々な軍師に読まれてきた戦略書の古典
徹底的な現実主義に立脚し、精神論を排し、どのように戦いに向き合うべきかを説いています。
春秋時代に書かれた戦争に勝つための兵書ですが、人生の様々な場面で応用できそうな示唆に溢れています。特に印象に残った要点は以下の部分です。
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① 敵国を傷つけずにそのままで降伏させるのが上策で、敵国を打ち破って屈服させるのはそれに劣る。百たび戦い百たび勝つよりも、戦闘せずに敵兵を屈服させる方が圧倒的に優れている。
② 敵と味方、そして置かれた状況について熟知するべき。それには観察が大切である。※よく引用される「彼を知り己を知れば百戦殆からず」だけではなく、状況についてよく知ることの大切さも繰り返し述べられています。
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現代日本を生きる我々が「戦い」として最もイメージしやすいのは、スポーツやビジネスにおける競合との争いや、個人や集団間での軋轢ですが、先ずは戦いを避けることに限界まで注力し、どうしても避けられない場合は、①、②の順番で行動するのが良いかなと思います。特に②については急に出来ることではないので、平時から常に観察を怠らないことが大切だと理解しました。
千年以上に渡り、伝え続けられてきただけあり、そのエッセンスが陳腐化することはないでしょうし、定期的に読み直したいと思える内容でした。 -
Posted by ブクログ
会社経営者やコンサルの人たちに『孫子』が好まれるという話は前々からよく聞いてはいたが、今回最後まで通読してみて、なるほどねえ、確かにこういう本は好かれるだろうなと納得した。それは、兵法書でありながら組織論や戦略論として応用できそうなところが多々あるからである。ただ、ここが中国の古典らしいところで、こういう時にはこうせよとは書いてあっても、なぜそうなるのか、では具体的にどのように実施すれば良いのかという記述に乏しいので、耳触りの良い標語としてわかった気になるレベルを越えて実際に実務に活用しようと思えば、読む者、実行する者の理解力と思考力、応用力が試されることになろう。
このように、ビジネス書としてもよく読まれる『孫子』であるが本書はやはり兵法書。私は当初、戦うときの算段や兵の動かし方、攻め方、守り方などがガッチガチに書かれているものだと思い込んでいた。つまり、勝つための諸策目白押しだと想像したのである。ところが、実際に読み進めてみると、例えば「凡そ用兵の法は、国を全うすることを上となし、国を破ることはこれに次ぐ。軍を全うするを上と為し、軍を破るはこれに次ぐ(中略)是の故に百戦百勝は善の善なるものに非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。」(謀攻篇)なんて書いてあって、正直に言って拍子抜けした。戦法の本じゃないのか、と。だが、よくよく考えてみると「戦わずして勝つ」とか「勝利の軍はまず勝利を得てから戦争をする」というのは、戦いや生きていく上での奥義であるということに思い当たった。私はかつてあるお寺の高僧の方から、「弓で的を射るとき(すなわち何か目標を立ててそれを達成しようとするとき)、的を狙うから、私(弓の引き手)と的の間に距離ができるの。的に当たってから弓を引けばいいじゃない?そういう境地があるのよ。できてから仕事をするという境地があるの。」と教えていただいたことがあるが、通ずるものがあるように思う。
ビジネスのみならず、生きていく上においても知恵と示唆を与えてくれる本書。これからも折に触れて紐解きたい一冊だ。
最後に。
本書には「兵の情は速を主とす。」(九地篇)、すなわち戦争の実情は迅速が第一だ、スピード勝負だと書いてある。翻って、ロシアとウクライナの戦争は2022年2月24日開戦で、現在(2024.1)で2年弱。いまだに多くの犠牲を生み、当時国もいよいよ疲弊し、ウクライナの背後で甘い蜜を吸おうと目論んだNATO諸国もその甲斐なくむしろ面倒臭くなっている現状、孫子(孫武か孫臏)が生きていたら、下手くそな戦争と言われるに違いない。