G・K・チェスタトンのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ――
このあたりでチェスタトンをどうぞ。
英国ミステリってだいたいミステリの全ジャンルを網羅してるなと思うのだけれど、怪奇・伝奇ミステリといえばやっぱりチェスタトンになるでしょう。
これもしかし、誰訳で読むかによって随分印象が変わりそうでもある。注釈の付け方とか――注釈を訳文の中に盛り込んでるイメージの中村訳ブラウン神父譚のほうが、個人的にはスムーズで好きなんだけれど原文派は違和感あるのかしら。
本書は原題を『The man Who Know Too Much And Other Stories』ということで、『知りすぎた男』の訳書から漏れた「Other Stories」を一冊に纏めてくれたものなのだけれど、直接の繋がりはなくてもやはりホーン・フィッシャー感があるので好みの方は楽しめると思います。ブラウン神父もののようなまとまりは無いけれど、その分いろいろな要素に手を出して、それぞれに対するスタンスを示してくれているような感触。
表題の「裏切りの塔」はコンパクトによく纏まった短編だと思います。
トリックはあとがきで「虫太郎のような、物理的にはまず無理と思われるものだ。――虫太郎的というのは言い過ぎで、少なくとも久作程度には実行可能なのだろうか。」と評されているけれど、的確なので笑えた。しかしこの、いかにも実現不可能なトリックをその場所に於いては成立するように見せる、というストーリーテリングの妙が、怪奇探偵小説の名手には皆備わっているような気がします。
そういえば名探偵コナンのトリックは真似されないように奇天烈なものにしてる、みたいなこと云ってるのをどこかで聞いたんだけれど、にしたってなぁというのが多くて閉口。まぁアニメのはね…毎週いちトリックなんて苦行を越えて修行だよね…。
中編「高慢の樹」が、本書の中でベスト。主題も構成も、展開までばっちり。そして痛烈な皮肉で終わるのが真骨頂、という感じがします。是非これだけでも、と云おうとしたけど多分これ読み切るひとは全部読むと思う。
「煙の庭」から、妙に心に残った一節を引用して終えます。まさに人が死んでいる、そして事件の真相が横たわっている部屋に立ち入る娘に向けて。
――「中へ入る前に、外のことを憶えておいてくれ。僕のことじゃなく、君のことをだ」。雲一つない空と、あらゆる平凡な美徳と、風のように澄んだ強いものをだ。信じてくれ。結局はそういうものが現実なんだ。この呪われた家にかかっている雲よりも現実なんだ。それにしがみついていてくれ。神様の風と洗い流す川が実在するんだと自分に言い聞かせてくれ。少なくとも、この部屋の中にある物と同じくらい実在するんだとね」――
☆4.2 -
Posted by ブクログ
チェスタトンの面白さがやっと分かってきた感じがする。
高校から大学にかけて、ドイル、クリスティー、クイーン、カーと読んできて、そこからブラウン神父に手を伸ばした。当時は何かひねった文章というイメージが強く、チェスタトンの逆説というような解説を読んで、こういうものを逆説というのかと、良く分からないまま文字面を追っただけだった。
最近、南條氏訳のチェスタトンの短編集を何冊か読んできて、理性と狂気、信仰と科学、迷信、伝説と論理といったことについて、チェスタトン流の表現方法が漸く分かってきた気がする。
謎を解き明かすといった点からも、本作に収められている各編はとても面白い。
冒頭作の『高慢の樹』では、土地の伝説に彩られた孔雀の樹に登ると言って忽然と消えてしまった大地主の失踪に端を発して繰り広げられる調査、遂に犯人に迫るかと思われたその先にあった事件全体の構図の意外さ、と盛り沢山な内容が詰まっている。
『剣の五』では、賭け事のイザコザから決闘になってしまい、イギリス人の若者が死んでしまった、その直後の現場に居合わせることとなった探偵役が、実際には何があったのかを解き明かすというもの。これも目に見えていた構図がガラッと変わってしまう手際が鮮やかである。
『裏切りの塔』、始めの数ページを読んでいたときには、一体何が起こっているのか良く分からなかった。あるゴタゴタに巻き込まれてしまった人物が助けを求める、かつては国際的にも名を知られていたのに、隠棲生活に入ってしまったスティーブン神父。2人のやり取りにおける神父の言葉は一見突飛なようで、実は論理的なのがチェスタトン流である。謎を解明するために行動に出た神父の最期は痛ましいが、英雄的である。
ボーナストラックの戯曲『魔術』の収録は、実にありがたい。こういった作品を本の形態で読める機会はあまりないからだ。
奇術にはタネがあって、それならば合理的に理解できるが、それを超える現象があった場合に、人間はどうするか?無理矢理にでも理解できる範囲で理解しようとするのか。戯曲ということもあり、登場人物のキャラ立ちがいい。
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Posted by ブクログ
ネタバレ『クレイン大佐のみっともない見た目』
ある日突然帽子の代わりにキャベツをかぶり始めたクレイン大佐。村の人々は気にはなるけど追及はできない状態。隣人の従姉妹で画家のキャサリンが初めてキャベツを指摘する。クレイン大佐が語るキャベツをかぶる理由。
『オーウェン・フッド氏の信じがたい成功』
テムズ河の河畔にできた工場からの排水で汚染される河川。地元の有力者たちと議論を交わすオーエン・フッド氏。論的であるハンター医師の国会議員立候補の応援に回るフッド氏の目的。クレイン大佐との賭け。
『ピアーズ大尉の控えめな道行き』
クレイン大佐とフッド氏が食事中に聞いた「家庭での豚の飼育を禁止する法律」。議会の横暴に怒るピアーズ大尉。会話に加わったアメリカ人イノック・オーツ氏に中世の建物として豚小屋を紹介するピアーズ大尉。ピアーズ大尉の議会に対する抵抗。
『ホワイト牧師の捉えどころなき相棒』
クレイン大佐とフッド氏の友人ホワイト牧師からの手紙。手紙の中に書かれているスノードロップ氏の正体についての議論。様子を見に行くピアーズ大尉。
『イノック・オーツだけのぜいたく品』
アメリカ財界の大物イノック・オーツ氏を「法螺吹き友の会」に招待したクレイン大佐とフッド氏、ピアーズ大尉。
『グリーン教授の考えもつかぬ理論』
ピアーズ大尉に説得され英国の持つ土地を使用人たちに分け与えたイノック・オーツ氏。村に現れたグリーン教授。学会での発表で牛を星だとして学会から追放されたグリーン教授と下宿先に娘マージェリーとの会話。
『ブレア司令官の比べる物なき建物』
英国首相イーデン卿が進めるすべての土地を国有化する政策。ピアーズ大尉を助けるベリュー・ブレア。「法螺吹き友の会」と英国政府との戦いの幕開け。
『〈法螺吹き友の会〉の究極的根本原理』
首相イーデン卿の土地の国有化政策から起きた地方の小作農の蜂起。「法螺吹き友の会」とイギリス政府との間に起きた農民戦争。農民戦争の経過を妻に語るピアーズ大尉。
『キツネを撃った男』
『白柱荘の殺人』
『ミノスの仮面』 -
Posted by ブクログ
◼️ ギルバート・キース・チェスタトン
「ブラウン神父の童心」
対極のヒーロー?やっぱりブラウン神父はめっちゃ独特。すっとぼけた鋭さ。
若い頃にはイメージだけでやめるものがある。いまは鼻歌で出るショパンのピアノ協奏曲1番も、昔は弦だけの出だしを聴いただけで、なんて暗い曲なんだ、とストップボタンを押し、その後何年も聴かなかった。小説の「オペラ座の怪人」も芝居めいた、西洋風のセリフの羅列がどうにもいい感じがせず途中で投げ出した。
ブラウン神父も、ミステリ好きとお互い分かってすぐの先輩に昔借りた。楽しみに読み始めたものの、構成やストーリーの流れについていけない面があって途中で読むのをやめた。以来、多くの作家が影響を受けた作品、と挙げられてるたびになんか古傷がうずく感じがしたものだ。大人になった今は、どうか?たまたま手にしたのでウン十年ぶりに読んでみた。
ブラウン神父。同じイギリスを舞台にした、発表年代がホームズ後期とかぶっている探偵もの。長身痩躯、鷲鼻、鋭い目、精力にあふれるホームズに比してブラウン神父は小さくて丸顔に丸い鼻、眼鏡をかけ、みすぼらしい身なりに蝙蝠傘、動作もゆっくりなイメージ。ヒーローのイメージとはまさに対極。物語の作りもホームズものとはまったく違う。
奇妙な事件が起きて、捜索して手がかりを集め、それを元に人が予想できていなかった明瞭な解決を見せる、のがホームズもの。ブラウン神父は犯罪界の大立て物フランボウを、パリ警察主任のヴァランタンが追いかけている最中になぜかフランボウと行動をともにして、行く先々でおかしな手がかりを残す、という初出演の仕方でフランボウを出し抜く。しかも2人の間で交わされている会話が、理性と宗教について、といった具合。(青い十字架)
フランボウはやがてこの短編集中でブラウン神父のよき相棒になっていく。
上の会話のように、事件が起きた時のブラウン神父の語りは抽象的で幻想譚のような雰囲気を醸し出す。手がかりの中から必要なものを選り分け、真相を組み立てる。ホームズのように調査結果から分かりやすく意外な結論を導き出すのではなく、想像性が強く演繹的な、ズバッとした結論。「イズレイル・ガウの誉れ」など、最後の見開きページで全解決。また「飛ぶ星」も同じような感じで、年老いたフランボウの回想であり劇中劇、という味のある変化球をかましている。
なるほど、意外性といい、改めて読むとその特徴はよく分かる。確かにおもしろい。しかし「見えない男」のようなトリックはちょっと手垢がついていて、あまり感心しなかった。中には、いきなり何人も関係者が出てきて、どうも状況がつかみにくく、集中できない、という話もあった。たぶん前回はこの辺で挫折している。
いまの目で改めて読むと、謎そのものの魅力、漂う幻想性、だからこそ鮮明に浮かびあがる真相の意外性のほか、そしてできるだけ短いタームで一気に解決を図る手法などはかなり特徴的で計算されている。論理だけではなく、証拠にある程度基づいている。外面と英知のギャップを持つ探偵のカリスマ、また仲の良いわけではなく、ずっと緊張感がありながら噛み合わせの良い、のっぽの元大泥棒フランボウと短躯の神職のコンビはユーモラスで、ちょっぴりアンチテーゼを含んだ設定のような気がする。
確かにおもしろい、かも知れない。多くの作家さんが影響されたという探偵もの。さてしかし、若い時分と同じく、やはり途中躓いて時間がかかってしまったのもたしか。良い折りがあれば続きを読むかも、というところ。ただ、結局未完読の「オペラ座の怪人」はいつか最後まで読もうかな。