日本図書センターのキャラクターシリーズの絵を描いているいとうみつるの絵は、個人的には好きでないのだが、地獄をリアルに描くと子どものトラウマになってしまうのでこれくらいコミカルでふざけた感じがちょうどいいのかもしれない。
絵本『地獄』がちょっと前に流行ったが、あれは地獄絵図に文章をつけただけだったので日本の仏教における地獄がどういうものなのか具体的にわかるものではなかった。あれを見て、もっとちゃんと知りたいという子どもがいても子どもに読めるような本はなかったから、これはその点で評価できる。
私も知らないことがたくさんあり、勉強になった。生きている間悪いことをしないようにするため考え出された地獄なので、当時(源信が『往生要集』をまとめたのが985年)の倫理観や犯罪の種類なども推察できる。子ども向けなので「不邪淫戒」を「異性ときよらかなつきあいをする」などソフトな表現となっている。
仏教の五戒「不殺生戒、不偸盗戒、不妄語戒、不邪淫戒、不飲酒戒」をあげ、「それほど難しいことではないんだよ。」「これならできそうですよね!」とあるけど、小学生ならできるかもしれないが(小学生なら気をつけるのは不妄語戒くらいだろう)、大人はなかなか難しいんですよね‥‥。
それぞれの地獄の場所(深さ)を正確に測ったら地球を突き抜けちゃうなんて面白いことも書いてある。地獄の大鬼は牙だけで57.6㎞もあり、「東京駅から八王子市・つくば市・横須賀市・鴻巣市までがそれぞれおよそ50kmありますから、それほど大きなきばをもつ大鬼が、どれほど大きいかわかるでしょう。」(P52)ってそんなに大きかったら全身を目視することは不可能では?というか、現代でも大抵の人は宇宙スケールやナノスケールの大きさや光速などを具体的にイメージできない(私はできない)ため、すごく大きい、広い、速い、小さいで済ませているが、昔の人もそうだったんだなあと、微笑ましい。子どもが友達より優位に立つための自慢「オレ、ミニカー1000台持ってる」みたいな、「すんごく深いんだから、すんごく大きいんだから」っていう。数えたんかい、測ったんかい、見たことあるんかい。
当時の犯罪には、今と同じものも多いが、今はほとんど無いものもある。「普受一切資生苦悩処」は僧でありながら「女の人をたぶらかした者」、火髻処(かけいしょ)は「尼さんに辛い思いをさせた者」がこの苦しみを味わう(どちらもP113)とあり、僧侶の妻帯が許されなかった時代、尼僧の地位が低かった時代にはこういうことが結構あった、ということでしょう。仏様へのお供えを食べた者が受ける責め苦というのもあった。飢饉もあった時代、それくらい許してよ、と思うが。
それにしても、想像力豊かに色んな責め苦を考えたものだなあ、そしてそれを信じた人も少なからずいたのだろうなあ、と感慨深い。今地獄を信じられる人は絵を見た子どもくらいかもしれない。
だいたいにおいて良かったが、火末虫処(かまつちゅうじょ)には404もの病気があり、どれも「世界中の人々を1日で死なせてしまうほど、こわくて苦しい病気ばかりです」はいいけど「新型コロナウィルスも、もしかしたらこの地獄からやって来たのかもしれません。」(P94)は入れない方が良かった。こういう文章をスルーしちゃうすばる舎という出版社はあまり信用ならんなあ、と思った。