雨沢泰のレビュー一覧
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「他者の視線によって人間は自己を形作る」
この小説を読みはじめたとき、一番に驚愕したのは、著しい改行と括弧の排除、登場人物全員の名前が明かされないことでした。
こうした特殊な手法は、読んでいるこちらを有無を言わさずミルク色の海の中に引き摺り込むようで気味が悪く、それでいて登場人物達の内面をこれでもかと描写することにより没入すればするほどにページを捲ることが苦痛に思えるような、他の小説では味わえない読書体験をさせてくれます。
とりわけ、印象深かったのは社会全体が失明してからの街を覆うリアルな悪臭と汚物に覆われた歩道を踏みしめる感触の描写です。
作中の文章を引用させていただくと「その道の権威によ -
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運転中の男が突然失明した。目の前に広がるのは漆黒の闇ではなくミルク色の白い闇。車から助け出した男、失明した男を診た医師、待合室の患者たち……失明は次々に伝染して……。ノーベル賞作家の傑作長編→
怖かった。「地球上のすべての人が目が見えなくなる」と、こんなことになるのか……と、ショックを受けた。まさに、文明の崩壊。
最初は隔離された病院内で、そして、街全体に広がる無秩序の世界。
目が見えないと人はこんなにも残酷になれるのか。動物に近づくのかと思ったが、そうじゃない。→
そんな世界でキーになる人物がいるわけで、その人がいるからこの話は進むんだけど。
ラストよ……いやもう、怖い。本当に怖い。
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ネタバレ初作家。この作品の成功により、ノーベル文学賞を受賞。人間とは、個人と文明について、善悪とは・・・etc。あらゆる物事を全人類(ほぼ)失明という事象を用いて寓話的に淡々と、時に神の視点を挟みながら記された天から人類に齎された(——作者曰く、突然"全人類が失明したらどうなるのか"という…)書物ではなかろうか。作中一切キャラクタ名が出て来ず『医者の妻』『サングラスの娘』『黒い眼帯の老人』…等、眼が見えない世界では名前など不要ですものね。また台詞には「」が使用されておらず、最初は誰が言葉を発しているかわからず、大変読みづらい。しかし二つの事柄を合わせて考えてみると、読者をよりこの世界に取り込む(→読者
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ネタバレある日突然、失明が伝染していく。視界が白の闇に包まれる。
失明も怖いけれど、全ての人が盲目になった世界で一人だけ目が見えているというのも壮絶です。
何も見えない世界で理性を保てるのは、その人自身の理性なのか、やっぱり「彼女には見えている」という“見られている”意識なのか……。
一人だけ失明しない人物である医師の妻は、支援と介護とのプレッシャーも、目の当たりにしている悲惨な世界のストレスも、自分の目もいつか見えなくなるかもしれないという恐怖もかなり強かっただろうと思います。ラストの不穏さも印象に残ります。
地の文と会話文の区別がつけられてない文章で、会話も何人もいるけど誰がどの発言をしているかも -
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ネタバレわたしたちは目が見えなくなったんじゃない。わたしたちは目が見えないのよ。目が見える、目の見えない人びと。でも、見ていない。
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暗い作品の得意な私でも読むのに少々骨が折れた作品だった。読んで、考えて、手が止まる。とても面白く、そして恐ろしい作品。現在のパンデミック下で、状況は違えど同じようなことが起こっている。得体の知れない脅威と背中合わせの生活。いつまで続くかわからない、まさに「闇」だ。
ある時突然視力を失った男。
男を助けたあと男の車を盗んだ車泥棒。最初に失明した男の妻。眼医者の診療所にいたサングラスの娘、斜視の少年、白内障で眼帯をつけた老人。次々と失明していく。失明した人々の視界 -
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ネタバレ【ケア労働の重責】
突然、失明する病が感染爆発する――その中でたった一人、視力を失わない人がいたら……という設定が実に巧妙。しかも、視力を失わない人間が女性ということがストーリーに深みを持たせる。
感染抑制を最優先する政府は患者と濃厚接触者を廃病院に隔離するだけで中の環境が失明者に向いてないことも考えない。そのため、あっという間にトイレは故障、そもそも見えないためにトイレまで行けず廊下で排泄する人も続出する。約束されていた食料も配達が滞り、環境は悪化する一方……たった一人、視力を失わない「医者の妻」は夫である医者にだけその事実を伝え、失明した患者たちをさり気なく支援する。
彼女が抱える葛 -
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だれしも死の次に怖いのは病気、次に盲目になることではないか。
次々と、人々が盲人になっていく話。
見えなくなった目に広がるのは、白の闇。
ヒッチコックの映画を彷彿とさせる、決まり悪い臨場感。
私も目が見えなくなるのでは?と、本から汚染物質を感じるくらいの迫力。
自分も周囲の者も全員盲目になったらなんて、これまで想像してみたことがない。
原始的になるのか?
否、ベクトルが違う。
無秩序とも違う。
獣みたいになる、というのも違う。
名前が意味を失う。形容詞が役にたたなくなる。言葉への信頼がなくなる。
面白いと思ったのは、ひとりだけ、なぜか盲目にならない「医者の妻」が、盲人たちよりも地獄を -
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ある男が交差点で車を待機させてる間、唐突に視界全体がのっぺりとした白に覆われるという形で失明したことをきっかけに、国中でこの失明が伝染した。
この荒唐無稽な設定の上で、全ての人が失明したら何が起きるのか、目が見えることを前提として作られた社会はどのような事態に陥るのか、を残酷なまでに克明に描き出した。さらにこれを通して、目が見えているように思われる私たちの日常の中における捉えがたい(見えない)現実をも鮮やかに表した
この小説の特徴はなんと言っても、登場人物の名前がついぞ判明することの無いまま物語が終わることと、鉤括弧を用いずに会話文と地の文が入り交じって記述されることであろう。それに加え段落 -
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ネタバレ最初の1ページから、これは面白いぞ!という予感。「」のない台詞も、違和感なく、というか、むしろ引っ掛かりがなく流れるように読めた。時々、あれ?これは誰が言っている?となる時もあったけれど。
眼の見えない人々の(時々滑稽にも見える)動作が、演劇や映画を見ているように思い浮かべられる。目が見える医者の妻を通して伝えられる、嗅覚や触覚の表現も、とてもリアリティを持っている。
レイプや殺人シーンの描写があまり具体的でなかったのはよかった。もし他のシーンと同じように描かれていたらちょっとトラウマになりそう。
絶望感漂うストーリーだけれど、なんだかんだで悪人は粛清され、最後は突然に人々の眼が見えるよう -
Posted by ブクログ
ある日突然、失明し視界がまるで「ミルク色の海」のように真っ白になる奇病が爆発的に流行する。運転中の男から車泥棒、患者から眼科医へと。
失明者を隔離したものの感染の連鎖はやまず、政府も対策の取れないまま社会機能は麻痺していく。
善意と悪意の狭間で試される、人間の価値とは。
ほとんどの人が視力を失う奇病にかかった中、ただ一人だけ目の見える眼科医の妻とその周辺人物を中心に、その生き様と秩序の崩壊を描くパンデミック、ディストピア小説です。
映画『ブラインドネス』の原作本。
目が見えなくなることも怖いけれど、周囲が全員目が見えない中、一人だけ視力を失わないというのもまた怖い。
作中の主人公のような -
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始まりはかなり面白くて、読むのが楽しかったのだが、途中から何故か苦痛になってきて、後半はまた、面白く読めた。
自分が失明してしまったら、それはもうものすごい悲しいことだと思うのだけれど、この物語のように、一人を除く全ての人が失明している世界に身を置かれたら、俺はどうなってしまうのかな。
会話にカギカッコがなく、段落もないから、かなり読みにくいのだが、なんだかそれはそれで一つの味のようで。
登場人物も、医者の妻とか黒いサングラスの女とか、固有名詞がついていない。こんなの読むのは初めてだったかもな。
最後まで読むと、見えているのに見えていない、という深遠なテーマが通じていたんだな、この小説は。