2019年にノーベル経済学賞を受賞した、インドの経済学者アビジット・バナジーとフランス人経済学者エスター・デュフロ(二人はご夫婦だそうです)の共著のこの本を頑張って読んでみました。
この本では経済、教育、農業、政治を通し、人間の心理まで考えます。
言葉が非常に丁寧で、貧乏な国や地域の問題を読者の多く
...続きを読むがいるであろう先進国の人たちも身近に感じることができるような説明になっています。
そもそも「貧乏な国、家庭はずっと貧乏である」、つまり貧困の罠に囚われるということはあるのかということは、長年議論されています。
貧しいことに対して他者(他国)からの援助は必要なのか。この問題は「貧困に囚われているなら、一つの世代に“どん!”と後押しをするべきだ」という意見もあるし、「そのようなおせっかいはその国の自由市場を奪う」という意見もあります。
それぞれ調査結果により勘案されてはいますが、数字だけではわからないその国や人の事情があり、それを現地調査しなければいけません。
例えば「マラリアを予防すれば医療費はかからないし将来的に働き手にもなり、経済的に向上する」と分かっていても、蚊を避けるための蚊帳をお金を出して買う人が少ないとする。この結果をどう読み取るか。「蚊帳を買わない人は貧乏な人だ。将来的に良いことだと分かっていてもお金がない」と言う場合もあれば、「蚊帳を買わない人はお金持ちだ。コネで無料で回してもらえるから」という場合もあるというわけです。
こちらの本では、例えば2つの地域に別々のアプローチをして効果を確認したり、数字だけでは見えない実情を現地で調査したりしています。
私自身は世界情勢政治経済がとても苦手なので根本が分かっていなかったり理解できないことも相当ありますが、
しかしこの本を読んで貧しいことへの問題について非常に身近だと感じたことは多々あります。
❐食よりも大切なもの。
・1日1食しか食べられない家庭があったとして、収入が上がった(または補助する)としても、1日2食になるのではなくて、その1食が少し良いものになるということ。
人間は味気のないものをたくさん食べるよりも、ちょっといいものを(高いもの)買いたがる。
⇒私達が「安月給だけどスマホは必需品」と思うのなら貧困の人たちも「1日1食しか食べられないけれどカラーテレビは必需品」と同じように思うのです。
❐教育支援のこと
・子供が複数いる家では、収入が上がったとしても全部の子供を学校に行かせるのではなく、一番できる子供をより上の教育(高価な学校)により高度な教育を与えたがる。
・学校を作っても、子供自身が行きたがらない。
・学校を作っても教師がいない、またはやる気がなければ意味がない。
・「この学校に入りこの技術を身につけたらこの会社で雇い、給料はどのくらいです」と現実的に示せば就学率は上がる。しかし「そこまでおせっかいするのか。その国が精神的に独立しない」ということもある。
❐貯蓄の難しさ
・全員が先の見えない大成功のために努力をしたいわけではない。自分の知っている範囲での成功で良いという考えもあるとなると、貯蓄や融資を利用するほどでもない。
・家庭内で夫のほうが妻より決定権があると、女性の意見は取り入れられづらい。
・融資を受けた場合、返却する、しない、は地域ごとになる。たとえば一つの村はほぼ全員が返し、一つの村はほぼ全員が返さない。人間は周りと同じ行動になる。
・人は、明日の自分は今日よりも立派になっていると錯覚する。
⇒「今日はケーキを食べて、ダイエットは明日から★」が実行できない私たちにも心当たりがありすぎますねorz
・1年間肥料を無料配布し、現実的に収益が上がった。しかしその村で翌年の肥料を買う人は少なかった。現実的に成功を体験したし、収穫直後は「翌年も肥料を買います!」と言ったにも関わらず。調査したら「肥料がある店が遠すぎて行けなかった」「肥料を買いに行くまでに、別のものが必要になり、肥料代がなくなった」
⇒似たような心当たりはありすぎますねorz
ではなぜ「分かっているけれど教育を受けない」「分かっているけれど貯蓄できない」「人は堅実な医療行為を受けるため貯蓄や保険を利用せず、呪いや即効性のある注射を信用する」のか。
それは、教育や貯蓄や保険によった良い結果が現れるのは長い先であり、成功するかもわからないので「賭け」になります。そのため「大変だけれど将来のため勉強しよう」「目の前のお酒を我慢して貯蓄しよう」ということが難しいわけです。…いや、これまさに自分orz
さらには途上国では「安心できる」「強制的な」社会システムが構築されておらず、確実性がないということもあります。
そして先進国では、教育、医療、保険、法律などの「後押し」「おせっかい」を知らず知らずのうちに受けて生きているのです。(同じ国の中での貧富の差も、根本はその「おせっかい」に手が届かないということ??)
…とこのように、貧乏な国の問題と言われると、戦争が〜旱魃が〜などの事情に原因があると思ったり、どうして蚊帳を買わないの?などと考えてしまいますが、
貯蓄や保険や教育などまさに私達と同じ考え方であり、人間の考え方は変わらないのだなと思います。
この本では、どうすればよいというような解決はないし、私自身も自分がすぐできる効果的な行動もわかりませんが、
「貧乏人の経済学」を身近なものとして感じ、そして今自分が所属している社会のシステムを見回してみよう、という気持ちになります。