中野香織のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
エレガントであるためのハウツー本ではなく、エレガンス思想史の一般向け入門書である。著者はファッション史やダンディズム史などを対象とするラグジュアリー文化の専門家で、企業のイメージアドバイザーや省庁の委員、大学教授などを務めている。
内容としては、エレガンスの定義、西洋と日本におけるエレガンスの歴史、その思想の立ち位置、実践と具体例(ココ・シャネルやダンディズムをとおして)、エレガンスの権力作用と反作用としての逸脱、最近のエレガンス演出についてなどであり、入門書として過不足ない印象を受けた。「ですます調」で、ときおり「私は」という主観を交えて書かれている。かなり文章が上手く、分かりやすいだけでなく、洗練された文体で本書のテーマにもあっていた。
本書曰く、エレガンスというのは選び取ることであり、何を残し、何を手放すか、その判断の連続のことである。判断の痕跡が一貫性を帯びたとき、スタイルと呼ばれる。エレガンスは、趣味やスタイルを超え、どのような世界をつくり、自分をどこに位置づけるかと問い続ける生き方の技法である。また、何を美しいとするか、何を善とするかは権力により決められ、社会や個人はそれを内面化する。逸脱というのは、社会が当たり前に持つ規範への挑戦と規範を逸しても尊厳を保つ覚悟であり、それもまた一方のエレガンスであるとされる。
本書の第7章「誰がエレガンスを決めるのか」にガンディーへの言及がある。宗主国で是とされる洗練された装い、振る舞いを知ったうえで、インドの伝統的な衣装に身を包み、抵抗運動に身を投じた彼の例をとおして、文化的リテラシーを使うことで、文明の内部からそれを相対化する抵抗を試みることができるとしている。
私はこれを読み「ナーロッパ」を思い出した。日本で大量に生産される異世界転生ものや冒険ファンタジー物語の舞台のことである。中世ヨーロッパ風の架空の世界空間で、トールキンの指輪物語がおそらくイメージの源泉であり、ドラゴンクエストなどのゲームをとおして発展したものだ。お粗末なリテラシーが生んだ模倣の模倣のような質の低いものがほとんどだが、ヨーロッパ文化そのものではなく、自分たちにとってヨーロッパ風と感じられることを重視する姿勢がみてとれる。他者そのものではなく、自分たちの夢を映すスクリーンとして相手を眼差してしまう「オリエンタリズム」であると同時に、あの適当に作られた世界がヨーロッパを文化文明の標準とされた周辺の抵抗的な文化運動ともいえると感じた。
すべては流動的で時代の大きな流れによって、その価値は流転していくものなのだろうと思う。エレガンスを軸とした思想史を追うのは初めてではあったが、興味深かった。ただ、ものすごく目新しい視点をや深い洞察を得られたかとえばそうではなかった。「待っていました」の展開はエンターテインメントに欠かせないが、社会科学の解説をする新書も同様で、ぼんやりと考えていたこと、感じていたことが改めて言葉できれいに構成されると爽快であることが分かった。