小坂井敏晶のレビュー一覧

  • 答えのない世界を生きる

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    ネタバレ

    やはり小坂井敏晶宇治の本は好きだ。
    「社会心理学講義」と重複する箇所も多いが、それだけに理解が促進される。研究者はもちろん、研究者を志す人にも、現代社会を生きながらも苦しさを感じている人にも勧めたい一冊である。
    これまでの価値観が揺すぶられ、未来を見据える礎の一部となるに違いない。
    裁判についての記載は「社会心理学講義」にもあったが、ふと「中東 世界の中心の歴史 395年から現代まで」を思い出した。太古の昔から、人間が人間を支配するために、依拠するべき「真実」の存在が必要不可欠だった。今は違うが、中東においても新たなる支配者は「我に正義あり」と、外在的な存在を示すしかなかった。それは本書だけで

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    2025年12月06日
  • 増補 民族という虚構

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    私は読書の効用の一つは「常識の破壊」だと思っています。

    その点において、小坂井敏晶さんの本ほど常識を鮮やかに破壊してくれる本はないのではないか。そう思わせるほどの筆力があります。

    今回読んだ『民族という虚構』においても、読みながら自らの常識がガラガラと崩れていく音が聞こえました。

    その一つが、私たちは虚構に支えられているという事実。
    虚構を暴くことが正義ではなく、虚構がないと生きていけない現実を直視しながら、世の中の不条理に目を向けなければならないと、背筋が伸びる読書体験でした。

    私たちが何に支配されているかに気づく道具こそが“教養”なのだと思います。
    小坂井さんの本は、間違いなくそん

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    2025年11月27日
  • 社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

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    ネタバレ

    すごく面白かった。
    自分の価値観が広がっていく瞬間が、読書をする中で随一の快感である。

    個人に主体があるという概念が近代以降のものだとは思いもよらなかった。社会あるいは集団の中の個人、そして社会または集団を別個のものとして、もしくは実体的なものとして研究しても答えは出ない。認識とはあくまでも社会と個人の相補的なものである。
    まさに目から鱗だ。だが同時に、納得感が強い。こうして変化することにより、私自身の自己の同一性が保たれているのだろう。そして、認知不協和状態になると、安定させようと自己を変化させる。それの限界が訪れた時に、自身の変化が難しい時や、折り合いがつかない時──人は精神が参ってしま

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    2025年11月21日
  • 増補 責任という虚構

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    「正義論の正体は神学であり、自由と平等は近代の十戒である」という言葉に本書の立場は明確に示される。
    今の世の中に生きていると建前と本音の乖離が大きくなりすぎ、もはや建前が建前として機能していないのではないかとさえ感じることがある。しかし著者の問題意識はより徹底しており、誰もが「〜ということにしてある」と認識する「擬制(建前)」ではなく、その存在や価値を疑わない自由や平等、主体、責任、能力主義といった近代社会を構成する本質的概念の「虚構」性を俎上にあげる。
    責任の議論は自由意思の不在からホロコーストのアイヒマン、麻原彰晃の死刑判決にまで及び非常にスリリングであり、学術界からの反論も多かったようだ

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    2025年11月16日
  • 増補 民族という虚構

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    著者のファンなので議論の雰囲気は知っていたが面白かった

    人種、民族とは何か、どのような意味で存在するのか
    多民族・多文化主義と普遍主義の両者がもつ認識論的問題


    今の情勢だからこその視点で読めた

    誰でも変化を強要されれば頑なになるという話が深く刺さった

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    2025年11月07日
  • 神の亡霊 近代という物語

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    自分以外の他者の存在は、その思考や身体機能と完全には同一化できないという意味で、実はAIと大差がない。また、それは自動運転でもある。

    小坂井氏による『人が人を裁くということ』『格差という虚構』を読んだが、人間のバイアスを取り除いて深く考えさせるのが、著者の面白さだと感じている。本書も例外ではない。また本書は注釈にページが多く割かれ、そちらの重量感もあって、読み応えある本だ。

    ― 内視鏡検査のために全身麻酔をかけられたことがある。目が覚めた時、検査終了を意識すると共に、このまま死んでしまえばよかったという不思議な気持ちが浮かんだ。麻酔から醒めぬまま命が尽きれば、自分の死を知らず、それ以降の幸

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    2025年07月23日
  • 増補 責任という虚構

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    私が普段から感じていた科学の限界について、とてもわかりやすく言語化してくれていて腑に落ちることが多かった。

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    2025年07月08日
  • 増補 責任という虚構

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    責任とは、何らの実体ももたない社会的現象=虚構であり、近代的な自律的個人像は根拠をもたないイデオロギーと断じる。
    自由に伴う責任、という因果律的な認識は単なる誤謬であり、人間が何らかの内因で行為できるような自発的主体という観念も幻想であると説く。

    普遍的真理など存在せず、その時代・社会ごとに受け入れられる価値観が存在するのみだ。人間が集団の中で生きるために〈外部〉と〈内部〉を虚構として創りだしてきたということを、決して否定的に述べることなく個人から集団への変遷において必然的だと主張する。
    「虚構のおかげで現実が成立する。」

    目を背けたくなるような事実、あるいはそれとして認識できないような事

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    2025年05月14日
  • 格差という虚構

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    近年よく議題に上がる格差について論じた本。とはいうものの経済格差や教育格差などによる問題に焦点を当てたというよりは、格差というのはそもそも何かなぜ生じるのかを様々な観点から述べている。
    印象的だったのは、能力主義や法の下の平等は格差を覆い隠すためのイデオロギーだという主張。実際には環境と遺伝によって最初から差が生じているにもかかわらず、形式的な機械の平等を与えることで現状の格差は自己責任だ・努力の結果だと思わせることができる。すなわち、自由のための自己責任ではなく、格差があるからこそ自由だとされるのである。また、現状に不満を抱き民衆が行動に移すのは差が縮まった時だとの主張もあった。フランス革命

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    2024年08月20日
  • 答えのない世界を生きる

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    作者の思考されたものではなく思考の仕方が自伝がてら語られる。
    答えのない、正しい答えが存在しない世界だからこそ問い続けなければならないこと、この世界を異端、異邦として見つめることで、画一化される正しさに疑義を与える。
    今、この世界に生きるとき、大事な姿勢。

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    2024年04月18日
  • 答えのない世界を生きる

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    「解のない世界に人間は生きる。・・・
         (中略)
    ・・・考えることの意味を知ることが重要だ。」

    この世界で生きていく上での答えなどない。
    自身の問いに向き合えているのか、そう著者に問われている気がした。

    とても読みやすく、何度も読み直したい本だ。

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    2024年01月12日
  • 増補 責任という虚構

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    一般的には自由と責任は表裏一体の因果関係であり、なので法や規範の判断の元になる自由意志によって罰される。

    ただ、人の行動は脳の信号を起点に人が意識を持つ以上、自由意志はないので責任はないはず。それにもかかわらず規範で人を罰する矛盾をつく。

    結局自由も責任も、社会が決めた虚構であり、自由意志みたいな内側にあるものじゃなくて外側にあるもの。普遍的な規範を追い求めても袋小路じゃないかと問題定義している。

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    2023年08月22日
  • 答えのない世界を生きる

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    同著者の『社会心理学講義』や『責任という虚構』読もうとしたが重かったので、ちょっと寄り道。紆余曲折の末にフランスで社会心理学者として教鞭を執った著者の半生を振り返った本。
    異文化の中で培った普遍性を疑う感性から見た世界を綴る。

    「文科系学問は役に立つのか」という章の〆の一文が象徴的だった。
    「文科系学問が扱う問いには原理的に解が存在しない。そこに人文学の果たす役割がある。何が良いかは誰にも分からないからだ。いつになっても絶対に分からないからだ。(···)技術と同じ意味で文化系学問の意義を量ってはいけない。」

    文科系学問の意義は「人間の原理的な限界に気づく」ことにあるいう。
    その認知は知識

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    2022年06月08日
  • 答えのない世界を生きる

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    考えるとは悩むこと。
    人は他人の頭で考えることができないのだから、借り物の知識だけでなく、”不思議だな”と思うことをしつこく追及していくしかない。しつこく悩み考えるなかにスッキリした瞬間があらわれる、たとえそれが大したことない”なーんだ、そんなこと当たり前じゃないか”と言えるものが、実は思考の結果だ。
    劣等感と劣等は違う。理想と現実の乖離があるからこそ悩む。悩みが多いということは野心を持っているということだ。
    本書を読んで、目の前が明るくスッキリしたという読者は少ないだろうが、確実に自分の体内に小坂井さんの毒素が回っていくとこは実感できる。

    10年後にまた再読したい。

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    2022年01月07日
  • 格差という虚構

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    今までの世の中の見方を揺るがすような知との出会いが大きな生き甲斐で、この本はそんな出会いの1つ。
    メリトクラシーについてや学校が格差再生産装置であることについては、サンデルの最近の著作で読んでいて既視感があったが、そもそも格差とは何かということについて深く掘り下げており、しかもその過程で話題が広範に及ぶので面白い。他の虚構について論じた著書も併せて読んでみたい。民族という社会現象を生む集団同一性の虚構、責任という社会装置を機能させる自由意志の虚構、格差のヒエラルキーを正当化する能力という虚構。
    能力は生じた格差の裏返しで、格差を正当化するための政治装置に過ぎない。貴族制が家系を持ち出して正当化

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    2021年12月19日
  • 社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

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    社会心理学と聞いて心理学の一部門というくらいにしか考えていなかったけれど、社会学や哲学にも造詣が深い著者の目線からの話が全体像を把握しやすかった。
    volumeも多く読むのに時間がかかったけれど、どの章もとても内容の濃いものばかりで、改めて読み返したいと思うほどだった。

    読み終わって改めて感じたことは、世の中を一つの真理で説明することはできないと。多様性や自由が大事だというけれど、社会で揺るがない普遍的価値があるとすればそれはもう閉ざされた社会になってしまう。
    開かれた社会というのはあらゆる法律ルール道徳、いずれにおいても変わることのない絶対的なものは存在しない。全ては相対化されたものに過ぎ

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    2021年10月20日
  • 増補 民族という虚構

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    筆者の本を読むのは10年ぶり,自分の美意識と完全に嵌るまごうことなく最高の本だと思う(というか10年前に筆者に影響されて今の感覚がある気さえする)が,だからこそこれをそろそろ切り崩す必要があると感じる

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    2021年08月30日
  • 増補 責任という虚構

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    本題は4章からだが、個人的には1.2.6章が1番面白く感じた。社会秩序というものがいかに根拠のないもので支えられていて、薄氷の上に成り立っているかという事がわかる。絶対的な神が消えた現代において法や道徳、自由、責任、これらのものを証明する根拠は存在しない。だが虚構は(たとえそれが虚構だとわかったとしても)それが真理であると信じないと社会が成り立たないため、そういう意味ではこの本は役に立たない。しかし、この本は確実に新たな視座を読者に与えるだろう。

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    2021年08月13日
  • 答えのない世界を生きる

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    尊敬する出口治明氏が推薦しているので読んでみた。
    近代以前ならば、物事の是非を判断するのは「神」だったが、近代では人間が決めなければならない。
    「人間が決める以上、その先に待つのが〈正しい世界〉である保証はない。」
    知識の欠如ではなく知識の過剰が理解の邪魔をする。ペルーの農村の話は分かりやすかった。
    名言がたくさんあって、メモを取るのが忙しかった。
    「行為が正しいかどうかは社会的・歴史的に決まる」という言葉に唯幻論を思い出してたら、中盤で岸田秀氏の名前が出てきて嬉しい。
    難しいけどおもしろく読めた。血肉になるまで何度も読み返したい。

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    2021年07月08日
  • 社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

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    人間社会を生きる全ての人に是非読んでほしい!!
    後書きまで含めて最高すぎた。
    未来は誰にもわからない。だから希望を持ち続けられる。多くの絶望や虚無の先に見えたのは、原始から続く当たり前であった。陽はまた昇るのだ。

    アイアムアヒーローは、そういう話だったんじゃないかと思う。批判の多いエンディングだけど、希望に満ちていた。

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    2021年04月13日