小坂井敏晶のレビュー一覧
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死刑制度は、誰もが責任を感じさせないシステムになっているからこそ、維持可能である。
この指摘が、本当にショッキングだった。
第1章で、ホロコーストは、高度な組織化のもと作業分担が行われ、責任が分散化することによって可能だったということを具体的かつ丁寧に論じた後、第2章(表題は「死刑と責任転嫁」)で、終局的な死刑執行場面のまざまざしい描写にはじまり、死刑制度はホロコースト同様、分業体制がこれを支え責任が分散化されているからこそ(あるいは「無責任体制」だからこそ)、維持可能だと説得的に論じていくので、全体として第2章は、心情として読むのが非常につらかった。つらすぎた。
死刑を執行する者、言い -
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近代以降の価値体系の中で育った人間の常識を粉々に粉砕する本。
表題である『神の亡霊』が、この本の重奏低音をなすテーマである。では神の亡霊とはいかなるものなのだろう。それは、近代における神の否定と同時に立ち現れる、自由意志などの虚構のことである。
神の否定は、ニーチェのかの有名な「神は死んだ」
が端的に表すように、科学の発展とともに起こった。しかしながら科学の設定する自然の因果律に取り込まれた人間は、責任の所在を同定出来なくなる。そこで自由意志や主体などの虚構が生成されるのだ。
人間に先立って真理があるのではない。そうではなく、集団が真善美を生み出す。そうして人間社会の秩序は保たれている。 -
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人間社会において”正しさ”は外部からでしか定義できない。かつてはそれを担っていた”神”を人は近代になって殺したとされるが、”正しさ”を定義するモノはやはり外部、”神”の亡霊として存在し続けているといった内容。
かつて公表したエッセイをまとめて、足りない部分に注釈を足した形なのだが、本文よりも注釈の方が多くなってて、良い意味で自分の書いた教科書で授業する大学教授の授業を味わえる本w
文章自体はエッセイとして発表されたモノを基にしてるのでとても読みやすいけれど、理解が簡単かといえばなかなかなモノなんだと思う。少なくとも私は理解したと胸を張れない。
問いと答えが整理されて書かれてる本ではなく、筆者 -
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私たちの生活という営みは、法律や規則、習慣や文化などの様々な体系によって制約を受けている。しかしそれらの体系を、私たちはなぜ遵守するのだろうか。体系の正しさを基礎付ける根拠とはいったい何なのか。
近代以前、それは「神」だった。神の存在が私たちの道徳や価値観、また国を形づくる法などを規定していた。しかし近代以降、明らかになったのは「神は存在しない」。少なくとも現代の科学ではその存在を確かめることができない。つまり私たちの従うルールの正しさを保証する根拠も存在しない、もしくは存在を確かめることができない。なのに私たちはなぜ「正しさ」なる概念が存在し、自分以外の人間とも認識を共有しているはずと信じ -
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「世の中のあらゆることに、絶対的な正解などありはしない」と教える本です。半分は著者の自伝でもあります。
第一章「知識とは何か」、第二章「自分の頭で考えるために」まではまだ大人しいのですが、第三章「文化系学問は役に立つのか」の辺りから過激になっていきます。「大切なのは知識を積むことではない。教育の本質は常識の破壊にある(p92)」、「開かれた社会とは、社会内に生まれる逸脱者の正否を当該社会の論理では決められないという意味である。〔中略〕キリストもガンジーも社会秩序に反抗する逸脱者だった。対してヒトラーやスターリンは当初、国民の多くに支持された(p136)」、「犯罪と創造はどちらも多様性の同 -
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ライフネット生命の出口会長推薦の本。少し前から読みたいと思っていたが、出張の移動時間を利用して読むことができた。作者の学問へのスタイルを形成する要因となった後半部分の作者の半生が、かなりぶっちゃけた内容が続くので、ぐいぐい引き込まれていく。後半スピードアップする感じだ。面白いおっちゃんである。
自他ともに学際的だと思っているところもあり、色々な分野に置き換えて考えることができる内容がある。作者は自分自身の存在価値として、むしろ学際的であるべきとも考えており、まさにイノベーションの定義と同じだなと感じた。また「究極的真理や普遍的真理は存在しない」という現在の哲学の立ち位置を踏まえて、いかに問いを -
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・実験は発見を可能にする技術であり、証明するための道具ではない
・子どもが夜泣きで健康を崩すと、フランスの小児科医は子どもにではなく、親に睡眠薬を与えます。なぜでしょうか。夜泣きのために親が眠れずイライラする。すると親のストレスを敏感に子どもが感じ取り、夜泣きする。そこでまた親は眠れず、ストレスが強くなるという悪循環に陥ります。だから、この悪循環を断ち切ればよい。睡眠剤をもらった親が熟睡してストレスが減れば、子どもに対する態度が変化し、子どもも安心して寝付きがよくなる。
・居合わせる人の数が多いほど、かえって救助行動が起こりにくい。自分がしなくてもほかの人がやるだろうと安心すると責任感が希薄に -
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『世界や歴史の根源的な恣意性あるいは虚構性を熟知していた点がその理由の一つだと思います。
つまり世界に普遍的な真理はない、我々の目に映る真理は人間の相互作用が生み出すという世界観です。
真理だから同意するのではない。悪い行為だから非難するのでもなければ、美しいから愛するのでもない。
方向が逆です。同意に至るから真理のように映る。社会的に非難される行為を我々は悪と呼ぶ。そして愛するから美しいと形容する。共同体での相互作用が真・善・美を演出するのです。』
世界の虚構性といかに向き合うか。奥深く、めちゃくちゃ面白い。
ただ、自明と思われている世界の自明性を一枚一枚剥ぎ取ってしまい、そこには -
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かつて同著者の『民族という虚構』(ちくま学芸文庫)を読んで非常に共鳴するところ多く、感銘を受けたので、この本を買ってみたのだった。「選書」に収まった地味なパッケージで、書名も、心理学に興味のある人以外は手に取らなさそうなものであるが、これは凄く良い本だ。できるだけ多くの方に読んで欲しい。いずれちくま学芸文庫として出版されることを期待する。
自然科学的手法だけでは解読しきれない「心理」の学を、「科学的見せかけ」にとらわれず、縦横に論を展開する本書は、心理学上の豊穣な実験データを収録すると共に、社会論であり、哲学でさえあるような、優れた知的営為の結実である。
ミルグラム『服従の心理』(ハヤカワ文庫