大塚桃のレビュー一覧
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イスラムの文化が現在の資本主義、キリスト教的世界に広がっていく様を、惰性や諦めと共に受け入れる主人公が印象的だった。大きな歳の差のある一夫多妻を最初は軽蔑していたのかと思ったら、最後は期待も込めて受け入れている。
ステータスのある男性目線ならあるかもしれない。一方で、女性の教養、社会進出への抑制が強くなるが、幸福の定義次第で受け入れられる、リアリティーのある内容なのか?分からなかった。
初めてのウェルベック作品。
文体の印象は、性的な描写が多い村上春樹。
なんとなく感じていたが、明文化されるとハッとする表現が多い。
現実的で直接的。表現がシャープで遠慮なし。
比較すると村上春樹のファンタジー性が強調される。 -
Posted by ブクログ
これはただのSF小説ではない。個人・国家・自由といった概念がこれからどのような変貌を遂げるのか、ウェルベック独自の視点で読者に提示する傑作である。私の理解では、この作品のテーマは先進国における個人主義・自由主義の未来であると考える。重要なのは「服従」というタイトルで、多様性の中で自由を謳歌していた個人がその自由によって疲弊し自己を見失い、共同体的なしがらみに「服従」することで「自由疲れ」からの解放と生の実感を得るという筋書きになっている。
「フランスにイスラーム政権が誕生!」「社会をリードする知的エリートがイスラームに服従!」という設定はセンセーショナルだが、よく読むと服従する先は何もイスラームに限った話ではなく、それこそ伝統的なキリスト教でもよかったことがわかる。その証拠に、「中世キリスト教文明が1000年も続いたこと」が、「近代文明が高々200年しか続いていないこと」と対比して描かれ、「近代社会に対する中世キリスト教文明の偉大さ」が賞賛される場面が多くある。本書の主人公はキリスト教の聖地を訪れ心の平安を求めようとするが、上手くいかず修道院を後にする。ウェルベックが「服従先」としてあえてイスラームを設定したのは、人々の思想や行動に対する拘束力・人々が進んで身を委ねようとする求心力を、今のキリスト教に見出せなかったからに相違あるまい。
個人的に尊敬する佐藤優氏が解説を寄せているが、「イスラームによるヨーロパの統合がウェルベックの作業仮説であり、知的エリートはとかく権威に服従するものだ」という氏の見立てはどこか的が外れているように感じる。 私は、本書はヨーロッパ統合の問題ではなく個人の生きかたを問いかけているのだと考える。より正確に言うと、「このままでは本書のような社会がやってきますよ、読者の皆さんはそれでいいんですか?」といった感じだろうか。本書で描かれる世界がすべて現実のものとなるということはないとは思うが、本書を構成する様々な要素は現実社会に大きな影響を与えることとなる気がしてならない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ服従
都市生活の複雑さと無気力と孤独と現代の行き過ぎた個人主義を、イスラム教の台頭を混じえて主人公が改宗する物語に回収する
作中でも様々な哲学者や文豪が出てきたが、特にニーチェと結び合わせて作品が動いているように感じた
現代文明は人間が欺瞞で固めた虚偽の姿であること、厳格な階層性社会が芸術の進歩を齎すこと、現在は苦しみでしかなく過去と未来への回想だけが救済であること
ユイスマンスの博士論文で評価された主人公は、フランスの大学で教授を務めていた
性欲の減退と中年男性の孤独感を感じながら、孤独な者同士でまぐわりあう虚しさをも感じていた
ユダヤ人の床上手な愛人が心の支えだったが、徐々にイスラム教の党首が支持率を増加していく政治状況を前に、彼女はイスラエルへ逃亡してしまった
心の支えを失った主人公は、大きな悲しみを感じるわけでもなく、夜の虚しさと生活の味気なさだけを淡々と、政治への不安、インテリ達の表層的なパーティー、尊敬に値する政治に詳しい友人と過ごしていく
内戦を恐れ田舎のホテルに身を固めて避難するも、数ヶ月ぶりに帰宅すると大学はサウジアラビアの出資を受けてイスラム教育に手がけるよう買収されていて、返事をしなかった主人公は毎月50万の年金を保証して解雇された
そして母親は孤独の中で死に、数ヵ月後に再婚した父親も幸福の中で死んだ
ユイスマンスのように1度教会で修道僧の体験をしてみるも、タバコしか吸えない状態と、ユイスマンスのようにロマン主義的でいられない自分とを堪能しただけだった
その後大変名誉な仕事を貰い受け、大学の新しいパーティーに出席し、そこで権力者にユイスマンスの論文を通じて評価され、何度かの会合で大学に戻ること、つまりイスラム教に改宗することを勧められた
晴れて最後に、自由に抗し続けた主人公はイスラム教に改宗し、システムに服従して幸福になった
ユダヤ人の女の子は主人公とは対照的な自覚的な被害者で、主人公は無自覚な加害者
母親は主人公が改宗しなかった場合の孤独、父親は改宗(大きな心がわり)をした場合の主人公として置かれている
会話の中で主人公は、最初から家族制度の希薄さが齎す宙ぶらりんの個人主義には批判的で、現代の西洋的でいきすぎた多様性文化にも反対的、ユダヤ人の女の子の前で家父長制を賞賛する
全ての主張に論理的整合性はあっても、情熱は無い、あるのは燻る嫌悪感
危険を危険と認識せず、声を挙げず、慣性だけが保証する安全に安心する
やっと危険に気づいて行動したかと思えば、周囲は変わっているし、その変化にも無感動に無抵抗に適応する政府の都合の良いように飼いなされた日和見主義
そんな現代インテリの苦しみと醜さを凝縮したような主人公と周囲のフランス人が、最終的には正義不正義に葛藤することなく、実存を求め最後にイスラム教の家父長制や一夫多妻、そして大学教授という名誉に身を沈めて行った
主人公は一度田舎に逃避したり、協会で暇を取ったり、自ら政治的会話により情報を集めたり、苦しみながら自由意志を獲得するために抵抗を試みていたが、それでも決して明確で継続的な抵抗ではなかったことに作品を通して主張されている無気力と自由による逆説的な抑圧を感じた
現代の違和感を感じる過度な"倫理"に釘を打つ、戸塚ヨットスクール大歓喜物の作品だ
共産主義と同じく、イスラム教も世界征服した時に初めて幸福を達成すると言うが本当かな?
この本のおかげでディストリビューティズムにも興味が出たし、イスラム教にも興味が出た
「後期のユイスマンスは退屈になったが、退屈を台座に書くことで読めなくは無い代物にしていた」とでもいうように、この作品も無気力を題材に書くことによって、情緒にかけた部分も魅力の1部に感じた
好奇心が沢山刺激されたいい読書体験 -
匿名
購入済み発売日がシャルリーエブド事件と重なったこともあってセンセーショナルな売り出しになった本書ですが、読むと基本的には他のウェルベック作品と同じく個人主義の行き着いた先でのインテリの絶望が語られています。
「キリスト教のフランス」ではなく「個人主義的で世俗的なフランス」がイスラームに飲み込まれていく小説なので、その点では服従する先はイスラームと姉妹宗教であるキリスト教でも良かったのだろうと思いますが、現代においてリベラルになったヨーロッパのキリスト教にはそこまでの力強さが無いので最終的にイスラーム(イスラームという言葉自体、神への服従という意味を待ちますね)が選ばれます。
ただ小説なのであまりこういうこと言うのも無粋なのでしょうが、穏健なイスラーム政党が政権握ったからといってただちに一夫多妻制になるかと言われると疑問ではあります(現にトルコも20年以上イスラーム主義政党が政権を握っていますが一夫多妻になりそうもありません)。またサウジアラビアは自国以外にスンニ派をリードする勢力を嫌うので本当ならイスラーム同胞党を弾圧する側に回りそうですが…。現にムスリム同胞団はサウジと関係悪いですし。 -
Posted by ブクログ
(2015/11/19)
なんでこの本を入手したかその経路を全く覚えておらず、
どんな本かもわからないまま読み始めた。
ときおり物凄い性描写があって引きつけられ、
その後政治的な話になって斜め読みし、、、
しかしそこがポイントの本だったようだ。
近未来、フランスにイスラム政権誕生、人が神に服従する。
O嬢の物語は女が男に服従する。
それを大学教授が両方同時並行的に体験する、、、
みたいな本だったような気がする。
シャルリー・エブドのテロがあったり、
イスラム国などが跋扈したり、
ヨーロッパならではの視点。
それにしても女にもてるのねこの人 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「人間の絶対的な幸福は服従にある」。
2022年のフランス大統領選で、ファシスト党とイスラーム党が決選投票に残り、イスラーム政権が誕生するお話でした。
楽しいの意味はなく、面白かった。
知識や教養は、超越神の前では脆い。インテリほど迎合も早いというのは驚きです、フランスはレジスタンスの国だと思ってたけどインテリはこうなのかな?
この主人公は、再び大学で教鞭を執って生活していくためにイスラームに改宗するというより、何人も妻が欲しい…の方が強そうなのにもやもやするところがありました。もともとノンポリなのも珍しいかも。
外堀から埋められるみたいなところに寒気がしました。その方向からか、と。
実際にこれが起こるかと言われれば8割方無かろうとは思います。でももしも…となれば、このお話の流れは自然に感じられました。
一神教の国でこうなんだから、多神教だともっと容易そう。だけど、男性観で拒否しそう。。
2024年に読んでいるので、解説にあるイスラエル人のご友人の「ハマスの主敵はイスラエル」がつくづくわかります。イスラーム国とハマスがガザ地区で内ゲバやってたのは存じなかったけれど…どちらもスンニ派なんだな。
世界的に世論はパレスチナ支持に傾いてる。イスラーム支持でなく、イスラエルがやり過ぎという方向で。
でももしもイスラエル側が「敗戦国」とされても、それがそのままイスラーム支持という意味にはならない気はします。見方が甘いかなぁ。 -
Posted by ブクログ
全体的に大きな爆発的なエピソードはなく、ゆっくりと食べ物が腐っていく様を見ているような話だった。
序盤は社会情勢についてどこか他人事で非常に呑気な振る舞いをしているがだんだん自身の生活が変容していき、なすがままに飲み込まれていく様子が異様にリアルだった。
主人公が人生を通しての研究対象としたユイスマンスと彼自身の人生との相似形な構造が生きる事の奇妙さを際立たせるように感じ、惹きつけるものがあったし、宗教の力に国が飲み込まれていく様が流麗で恐ろしさを感じた。
人は抗うよりも順応していった方が生きるのが楽だもんなぁ。それがヨーロッパでいち早く市民革命を起こしたフランスであったとしても。
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Posted by ブクログ
ずっと前に書店で『素粒子』というタイトルの文庫本を見つけ、物理学系の読み物かと思ったら小説らしかった。変わった題のを書く作家だなと思い、その後もあちこちでウエルベックの名を見かけたが、ついぞ読まずに過ごしてきた。
やっと初めて読んだのがこの本。
現在のフランスの大統領選で、極右政党とイスラム教系の政党がぶつかることになり、フランス国民がイスラム教の方を選択することとなって、結果、女性のスカートがなくなったり、一夫多妻が一般的になったり、大学等の教員はイスラム教徒でなければならなくなる、という話。
いま世界中で「あまり頭の良くない極右」が台頭しているので、それを受け入れない場合の選択肢は何が残るのか?という問題を提起している。
実在の現役政治家等の名前が多数出てきており、これがベストセラーになったのだから、かなりリアルな小説なのではないか。
イスラム教は、我々日本人にとってほぼ完全に未知の世界であるが、それよりは長い付き合いの筈の西欧人にとっても「異質な他者」であるようだ。
イスラム教とは何か? ここではルディジェという登場人物が開陳する物語として示されているのみだ。素晴らしい文明ではあったが、結局は敗北した西欧というイメージ。
とりあえず、小説として面白い作品だった。出てくるフランスの政治家の名前にまったく馴染みが無いとしても。
ほかにはどんなものを書いているのか。ミシェル・ウエルベックの小説をまた読んでみたい。 -
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"2017年に行われたフランス大統領選では、中道政党であるアン・マルシェのエマニュエル・マクロン候補と、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン候補の決選投票となり、39歳のエマニュエル・マクロン氏が選ばれ、フランス大統領となった。
本書「服従」では、極右政党と移民系イスラーム政党の決選投票となり、イスラーム政権が誕生するシナリオ。2022年でも極右政党党首は、マリーヌ・ル・ペンさんであり、現実感あるストーリー展開。中盤のパリを離れる主人公の周りで起こっている出来事は、現在テロが頻発するフランスの様子を見事に描き出している。
一つの可能性を提起した小説で、世界中で翻訳され、話題になっているらしい。" -
Posted by ブクログ
フランスにて極右政党とイスラム穏健派政党が首班を争うことになったら、
という設定のもとに、
大学で教授を務める主人公の姿が描かれる。
政治の動きを実名政治家も用いながら説明しており、
フランス人にとってはかなりリアリティの高い作品なのだろうと思わされる。
正直なところ、読後感はすっきりしない。
これが実際に起きる出来事なのか、
といわれるとかなり確率が低いのでは、とも思う。
しかし本題は、その政治・社会的な混乱の中、
「服従」を選択するエリート層に対する批判なのではないだろうか。
日本だとここまでの思考実験は難しいのだろうな、とも思う。
左だ右だという形式にとらわれて、
本質的な危機があることに気付けない。
申し訳ないが、エンタメ・純文学を望むのであればお勧めしない。
ヨーロッパ圏での危機感やイスラムに対する不安感を感じたい方に教養の本としてお勧めする。
フィクションながらもノンフィクションのように感じさせる、
なんとも言えない小説。 -
Posted by ブクログ
ネタバレどうしても惹かれて、本当は本を買っている余裕がなかったのに、一冊なら!と購入。
呼ばれたなー。
というのも、直前に萩耿介『グレイス』を読み。
その前にフリードマン『新100年予測』を読んでいたんですねー。
フリードマンの方は読み終えていたので、ドイツとフランス間のアレコレが気になって手に取ったのは間違いない。
ただ、『グレイス』に出て来たデュルタル神父が、まさかユイスマンス経由でこの作品に繋がってくるとは。呼び本、恐ろしや!
そんな訳で運命的に手にした一冊なのだけど、なかなかすごすぎる。
国民戦線とイスラム党の決選投票。
そこから目まぐるしく変化するフランス内部。
主人公が車で移動するときの、情報から断絶された静かな狂気のシーン。かなり怖い。
選挙ってこんな暴力的に破壊出来るのか!そりゃそうだわ!という発見。
ユダヤ人の彼女はイスラエルへ引っ越してしまうし、女性達は服装もキャリアも穏やかに退去させられることになる。
主人公の最後の決断がまたエグい。
私はユイスマンス読んでないから分からないけど、『グレイス』で感じたデュルタル像から安易に対比させるのに抵抗がある。
なんだかんだ右往左往して、彼が守ったのは女性達が「信仰上」心から捨てなくてはならないものだった訳で。
つまりは孤独を貫くではなく、孤独を癒やしてくれる救いが欲しかったわけですか……。
他の方のレビューにもあったけど、描写が村上春樹に似ているからか、飄々とエグかったわ。
なのに、ディストピア小説って言えるほど、かけ離れた嫌悪感がないこともまた怖し。
これをディストピアと感じる人は、マジョリティかマイノリティか。
選択することで、放棄しなくてはならないものの存在がある。
それは一人一人が自発的に行えることが理想なのだろうけど、国や宗教といった集団に属する限り、個人は時に無視されてしまう。
そうした世界に溶け込み、無視されたものを敢えて見ないようにする力に服従することは、幸福なのか。
何かと考える。ユイスマンスも読みたくなる。
フランス選挙の結果も気になる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「女性が投票できること、男性と同じ学問をし、同じ職業に就くことが本当に良いことなのか」という考えを女性の前で平然と語る大学の准教授であるフランソワ25歳。彼はなぜ家父長制が批判されるようになったのか、女性の権利がどうして拡大してきたのか、歴史的にどのような問題があったのかを考えず、昔の男女の役割のほうが自然だったのではないかという、自分に都合のいい部分だけを切り取って見ている。彼の女性観も女性を一人の人間として見るのではなく、男性との関係や役割から都合よく捉えているように思う。例えば、家父長制が復活すれば出生率が上がるという考え方は、女性が自由な意思で選択することを前提としていない。女性の選択肢を狭めることで社会的役割を固定する発想であり、その結果として生じる女性の権利侵害については考えていない。彼は政治や宗教そのものよりも自分が安心できる男性中心の社会を求めているように見える。イスラームへの接近も男性としての地位が保証される社会への憧れに近い。自分に都合のいい秩序なら受け入れてよしとし、その負担を女性に負わせても構わないと思っている。このような若い男性のみ優位に立てる社会は、いずれ弱い立場の人を切り捨てる社会へ進むだろう。女性、子ども、障害者、高齢者へと広がった権利侵害は、最終的には男性自身の自由や選択肢も狭めることになっていく。他者の権利を軽視して築いた社会は、最終的には自分自身の首を絞めることになる。