中丸美繪のレビュー一覧
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良く取材してあり、なかなか読み応えのある本で、読み終えるのに時間がかかった。
小澤征爾というと、世界的な指揮者であり、いつもニコニコしていて人柄も良いというイメージだったが、この本を読んで、そんなイメージが一変した。人柄が良いのはその通りだが、野心家で、非常に政治力もあり、チャンスは、必ず手に入れるという貪欲な人物である。秀吉は信長の草履を懐に入れて暖めたというが、小澤さんはカラヤン、バーンスタインの草履を舐めたと書かれている。
世界で活躍するには、実力だけではダメだという厳しい世界を感じた。
それにしても、小澤さんが日本の音楽界に与えた功績は大きいと思う。 -
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豊臣秀吉が織田信長の草履を温めたことに準えて、「小澤はカラヤンやバーンスタインの草履を舐めるよう」とは言い得て妙。図らずともそうなるのが小澤という人であり、「世界のオザワ」と言われるまでに登り詰めた所以だろうと、若い時の様子から読み進めて腑に落ちた。政治力や人たらしぶりも相当なものであった感は否めないが、一方で、細かな指示を手の動きで表現するために全て暗譜するという相当な努力と、音楽に対する情熱はやはり常人とは一線を画している。
戦後、「日本にクラシック音楽を」と熱い情熱をもって音楽に向き合った当時の人々の思いや当時の空気感を感じたし、N響事件や日本フィル分裂の経緯もとてもよく分かった。 一人の音楽家の生涯と当時の様子をここまで詳らかに表した著者にも敬服する。
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昨年亡くなられた小澤征爾氏の本格的な評伝。小澤氏と言えば、日本人として(東洋人としても)初めて欧米で認められた指揮者、ちょっと型にはまらない指揮者というイメージです。本書は小澤氏が指揮者として生きることを決意し、そして単身ヨーロッパに乗り込んで、巨匠カラヤンやバーンスタインに認められてキャリアを形成する生涯を丁寧にたどっています。
ギリギリの資金を調達し、貨物船にスクーター1台とともに渡欧、そこで指揮者コンクールに優勝してキャリアを積んでいく様子は、読んでいてワクワクします。コンクール課題曲を勘違いし、徹夜で課題曲を勉強しなおして優勝したとか、どんな長い大曲でも常に視線をオーケストラに飛ばすため暗譜しているなど、小澤氏のキャラクターを際立たせるエピソードがたくさんちりばめられています。
一方、NHK交響楽団からのボイコット事件、日本フィルハーモニーの分裂事件などは、”良い音楽”を追求するのに妥協しない小澤氏の姿勢と、楽団員との軋轢が招いた結果とも言えますが、小澤氏の妥協を許さない姿勢を物語るエピソードと言えるかもしれません。
欧米ではカラヤンやバーンスタインが認めたと言っても、耳の肥えた聴衆が無条件に受け入れる訳ではなく、特にオペラの指揮に関しては当初は酷評されたことも紹介されています。そこから猛勉強して、最終的にはその評価を逆転させてしまうのですから、才能だけではなく小澤氏の音楽に対する熱量は凄まじいと感じました。
小澤氏の評伝として本書は完成度が高いと思います。小澤氏が得意とした楽曲などが数多く紹介されているので、これをきっかけにCDなどでクラシックを聴くのも良いのでは、と思います。
本書では小澤氏が日本で最初に指揮の指導を浮けた斎藤秀夫氏という方が登場します。実はこの人がまさにとんでもない人で、日本のクラシックの礎を築いたと言っても過言ではないのですが、小澤氏の評伝でありながら、小澤氏に影響を与えた斎藤秀夫氏の凄さが伝わって来る本でもあります。 -
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日本屈指に有名な指揮者の評伝
芸事の中で指揮者は
生前に評価を得なければ
形として物が残られない
ところから役者俳優演技者に近いものがあるのかもしれない
指揮棒を振っている背中は評価されないので
自分が演奏していない音にどれだけ自分の名前をこすりつけられるか
という点で
評伝にするには興味深い題材であると思う
読んでいるこちらに音楽知識が皆無なので
話題意の取り落とし多そうだが
例えば(当然だが)解説と比しても評より伝よりの評伝
「昭和の企業経営者」伝もの風な日経私の履歴書みたいな書き様は
過不足なく感じた
音楽を文章で伝えろったって無理な話であるそりゃそうだ -
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楽団員が去ったホールに呼び戻され、ステージのすぐ下で拍手する聴衆に軽く頭を下げる朝比奈隆の写真を何かのきっかけで見た。そんな光景は見たことがなくて憧れた。「95歳まで舞台で上がる」と言い続けたのを初めて知った。他の国では生まれえないし、これからの日本でも決して生まれないだろうマエストロの来歴と音楽に対する思いを丁寧に、丁寧に書き尽くしている。筆が走っている部分、止まりそうになった部分もはっきりとわかる。著者の朝比奈に対する敬愛の思いが伝わってくる。表題は朝比奈が語った言葉ではない。けれど、心に秘めていたのだろうと納得させられた。敬遠してた「朝比奈のブルックナー」を急いで購入した。
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2008年9月に文藝春秋から出た指揮者・朝比奈隆(1908-2001)の評伝の文庫化。
朝比奈隆という日本を代表する指揮者の生涯は、とてつもなく長い。
すでに戦前から京大オケ、大阪中央放送局オケさらには上海、ハルビンのオケと指揮者としてのキャリアをスタートさせていた。
そして、戦後にあっては大フィルの設立、育成・発展に尽力すること半世紀。
本書はその出生の秘密から紐解き、朝比奈の暗い生い立ちを描く。朝比奈自身が父母に対して複雑な思いを抱くのは分かるが、それをさらに投射するように息子の千足が父への思いを吐露している。家族に対して愛情を注ぎきれない朝比奈隆の内面である。
一方、表の姿である指揮者としての朝比奈の活躍を支えたのが、東京高校や京都帝大時代の豊富な人脈であったのは、本書で最も興味深かった。ことオーケストラの運営には莫大な費用がかかるものだが、それを引っ張ってくる才能は音楽的な技量とは全く違う次元である。しかし、朝比奈にはその才能が備わっていた。
朝比奈の音楽性は「緻密」とは全く疎遠なものであった。どちらかと言えば、曲の勢いとかスケール感に乗っかっている音作りである。指揮ぶりについても、映像を見ればわかるが、楽団員の証言にもあるように大まかなものに過ぎない。
まして、オーケストラの楽隊に対しては独裁的であり、1980年代末から90年代初頭には組合からの突き上げをくらってストまで打たれて。
そのような素人的な指揮者がこれほどまでに長く指揮台立ち続けられたのはなぜだろうか?
演奏録音だけではなく、その生き様から見えてくることもある。