東日本大震災、311は日本を変えたのか? それとも変えなかったのか?
米国の知日派という第三者の目から、特に「安全保障」「エネルギー政策」「地方自治」の3つの点に焦点を絞って分析している。
震災から5年目に出版された本書、当然執筆されたのはそれ以前のものであり、2013年頃までの状況を分析したものと
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本書にかかれた状況が、おそらく現在まで継続されているものは、自衛隊、防衛省をめぐる状況であろう。
311による大きな被害に、いち早く組織的に対応したのは、自衛隊と強力な同盟関係にあるアメリカ軍であった。
自衛隊は独立し行動できる部隊として、いち早く被災地に入り、被災者救出から被災地復旧、そして時には行政の支援までを引き受けることにより、多くの国民からの心理的支援を受けるようになり、それは組織、予算そしてステータス向上に大きく資する結果となった。
同時にいち早く被災地入りした在日米軍はじめ多くの米軍人は、やはり被災地支援に力を発揮したことにより、強固な日米同盟関係を確認し、実践対応でも力を発揮できることをしめした。
しかし、その後の国内事情の変化により、在日米軍を取り巻く環境は徐々に変化しつつあり、オペレーションの部分では統合による大きな成果を遂げたにもかかわらず、日米関係の強化については、現在はそのちからが減衰していると言えるかもしれない。
他方、エネルギー政策については、原発事故直後こそ、原発を将来的に廃止していくという機運が盛り上がりはしたが、強烈かつ継続的なロビー活動やステークホルダーの活躍により、本書が書かれた時代からは大きく舵を切り直され、原発中心のエネルギー戦略に揺り戻されていると思う。
地方自治についても、国の下一元化した号令をかけるだけの体制では災害に対応できないことは明らかになり、地方分権が進むかに見えてはいたが、明治以降生き残っている中央官庁の力は未だに強く、やはり中央集権的なちからの構造は変化していないように見える。
本書は、まとめでも書かれているように、書かれた時期がまだ311震災の影響を総括するには早すぎ田のだと思う。しかし、その時点までに何が起きたかを克明に記憶しておくことは、後世研究するのに非常に価値のあることだと思う。
残念ながら、日本国内では、利害関係者の顔色を窺わずに事実を書き残すことは難しい。したがって、公式な記録であっても、時の為政者の都合の良いように記録され、記憶される。
できれば、本書を執筆したような海外の研究者が、その後の日本を研究し、誰がどこで、どのように誤ったか。
そして、今後日本は何をすべきかを、日本人に向けて突きつけてほしいと思った。