怠け者でひねくれものだが、豊富な知識と優れた頭脳で誰よりも戦略、戦術に秀でる少年が主人公の戦記もの。
激情家でガキっぽい面を除けば、なかなか好みのタイプの主人公。
お話も面白い。キャラの魅力も十分。これは期待できそうだ。
この手のお話では萌え成分が希薄になるけど、まあ話が面白ければいいや。続巻にも期
...続きを読む待したい。
ただ、シャミーユが語る「国を負けさせて栄えさせる」論は正直疑問に思う。
これって敗戦をバネに高度成長を果たした日本と同じ道を歩ませたいんだろうけど、帝国のような大きな国ではじめからそれを狙って行うってのは無理がないかな。
日本はやむにやまれず、他に道がなかったからああなったわけで、もしやり直せるなら最善の一手は「敗戦」ではなかったはず。
ところが、シャミーユは最初から最善の一手として(日本をモデルとしたと思われる)敗戦を選ぼうとしている。
まあ日本の戦後復興がモデルじゃないのかもしれないけど、どうもこのシャミーユの敗戦論はぴんと来なかった。
戦線を縮小する方法はいくらでもあるだろうし、政治改革だって出来ないわけではないだろう。
シャミーユや、今後出世するかもしれないイクタの立場を考えれば、敗戦結論あり気は飛躍しすぎじゃないか?
シャミーユが女帝になる、軍事クーデターを起こす、民衆革命を起こす、国際連盟を構築する、立憲君主制に移行する、などなど、いくらでもやりようはあるのではないかと。
どう転んでも犠牲者を出す「敗戦」を最初から目標に定めるこの思想だけは、どうにも頓珍漢で理解しづらいなぁと感じた。
敗戦により他国から受ける文化、経済、政治哲学といった外圧を利用して帝国を浄化する。
まさに敗戦後の日本がたどった道ではないか?
勝ってはならない。ただし負けすぎてもならない。
上手く負ける。論としては面白いし、結果的にそうなってしまうことはあると思うが、政治や軍事のトップが語っていいことではない。
これが何の力も持たない街娘と不良生徒の幼いたくらみならまだ面白い。
が、持ちかけたのが王族の娘で、受けたのは将来有望とみなされた若き士官。
こんなたくらみに正義はない。
多くの将兵を死なせる戦争には必ず正義が必要で、わざと負ける戦いに戦争の正義など存在しない。
しかも、状況的に追い込まれてやむなく負けるための戦いを強いられたリカン中将と違い、シャミーユとイクタは長期的戦略として負けるために、言い換えるなら多くの将兵を死なせるために戦争を起こそうと画策するわけである。これはいけない。
もっと前にやれることを探るべきだ。
この極論、飛躍論に飛びつき、そこから先へと思考を進めなかったのは、いかにも度し難い。
この一点を除けば十分に面白かったんだけど、同考えてもこのエピローグだけはいただけない。
これさえなければ文句なく★★★★★なんだけど、どうにもこれが受け入れがたくて★★★★★つけづらいな。
思うに、シャミーユの敗戦論は提示するのが早すぎたんだと思う。
この敗戦論を読者に披露する前に、説明しておくことがたくさんあったと思うんだよね。
1.シャミーユが皇帝になる可能性
まずこれが語られなければ話にならない。
シャミーユ自身が皇帝になる可能性があるのなら、敗戦論などぶつまでもなく、自ら皇帝となって国を変えればそれでいい。
つまりは、覇剣の皇姫アルティーナと理想を同じくするわけだ。
シャミーユの王位継承権については語られた記憶がないんだが、果たしてどうなっているのか。
現皇帝が急死すれば、政治の有力者がそれぞれ次期皇帝を擁立して覇権争いすることになる、との記述はある。
その中にシャミーユは含まれるんじゃないか?
であるのあら、シャミーユ自身が権力者を目指すのが正道だろう。
血で血を洗う骨肉の争いになろうとも、「わざと他国に負けて国を変える」などというよりもよほど正義があるというもの。
その道を選べないというのなら、シャミーユには継承権がない、どう転んでも皇帝にはなれないという説明が必要になると思う。
が、そんな記述はなかったはず。説明が不足している。
皇帝になる道があるのなら、なるべき。
「我が覇道に手を貸せ」でいいだろう。
2.イクタの王国に対する明確な復讐心
イクタは両親を国に奪われたようなものだから、国や王族に対する敵意は持っている。
しかし、明確な復讐心があるかというとそんなことはない。
イクタの望みは平和に怠惰に暮らすことであって、立身出世に興味もなければ、国家に対して復讐をなそうという気持ちもない。
もしもイクタが、国や王族に対して弑逆も辞さず!というほどの強い敵意を持っているのなら、「国をわざと負けさせる」というシャミーユのたくらみに乗ってもおかしくない。
その土台はあった。もともとのプロットでは、イクタは国に対する復讐心を燃やす主人公だったのかもしれない、とすら思える。
が、実際のところのイクタは無気力で、王族に対する敵意はあっても害意はない。
イクタが王族に対する復讐心を燃やし、他人を嫌い、隣人を憎むようなダークキャラなら、「最終的に国を滅ぼす」ようなシャミーユのたくらみに乗るのはありだし、その発想も面白いと思う。
3.宗教、哲学、思想の腐敗停滞と自浄能力の欠如
これも部分的には語られているが、敗戦論をぶちかますためにはまだ足りない。
科学的な考察を否定するアルデラ教の存在や、故意の敗戦で有能な将官を死なせる政治・軍部の腐敗は語られるが、それらの是正が決定的に不可能だと結論付けるだけの解説はされていない。
宗教は頑迷で、政治は腐敗し、軍は無闇に肥大している。
ならば打ち壊してしまえ!では何がなにやらわからない。
まず全うな手段での改革や改善を模索すべきだし、それがどうやっても不可能なのだから劇薬投入としての「敗戦論」という持ち出しにならないと共感できるはずもない。
決定的に説明が足りず、持ち出すのは早すぎたと感じる。
他の部分に関してはほぼ満足。
これでヒロインにもう少し愛嬌があり、主人公が激情を制御して子供っぽい感情論に走らなければ、かなり好みな物語だった。
でも十分面白かったので、期待している。
最後に、確かに銀英伝や皇国の守護者のパクリっツーか、影響を強く受けているっツーか、テイストをそのまま使っているのは間違いないけど、まあこれくらいいんじゃね?
ラノベらしい読み安さが最大の長所名わけで、両者の良い部分をラノベに持ち込み消化してくれるのは大歓迎。