本書では初心者が上手になった人を中級者とし、さらに中級者とは
質的に異なって、上達した人を上級者として論を進めている。
そして、初心者から中級者になるためのステップを紹介し
上級者に共通した特徴を、主に認知心理学的な観点から解明し
中級者から上級者になるためのステップについて触れている。
また、スラ
...続きを読むンプの構造や、上級者になるための特訓法についても
書かれており、具体例も豊富なので、ある程度
心理学用語が理解できれば、読みやすい内容となっている。
まず、初心者が中級者になるには、始めてみること、
その頻度と学習の場を決めること、入門書を読むこと、
そしてワクワクしたり心惹かれることが大切であるとする。
ワクワクするとは、上達したい対象に慣れ親しむことであり
こうした感情が起こるのは、今まである現象に対して
自分なりの意味づけをできなかったところで
知識や経験が深まるにつれ、意味づけができるようになったためであり
これが上達の萌芽であると、筆者は論ずる。
また、上級者の心理学的特徴の章では
上級者の記憶のしくみとスキーマについて述べられている。
筆者によると上級者は、記憶力が高く、意図的な記憶ではない
偶発的記憶においても優れている。
そして、記憶の再現が速く正確である。
また、記憶の単位として「チャンク」があるが、これは
作業記憶(一時的な記憶)の容量を指すものであり
通常の人では7±2と言われている。
上級者は、個々の現象や知識を関連づけて記憶できるため
作業記憶が長期記憶(永続的な記憶)に移行するとき
より多くの情報を保持しておけるのである。
したがって、上級者は、技能に必要な知識が豊富に蓄えられており
必要なものを長期記憶から検索でき、それを作業記憶で
有効に活用できるのである。
さらに、知覚、認知、思考が行われる枠組みをスキーマというが
上級者はこのスキーマがよりよく形成されているため
短時間で反応でき、同じ刺激への反応が安定しており、
刺激やそれに対する自分の反応の記憶が正確で、
新しい刺激への反応もスキーマに素早くとりこむことができる。
そして、スキーマ依存的エラーという、スキーマがあるからこそ
犯しやすいミスをしてしまうことがあるとされる。
このスキーマ形成を支えているのが、コード化という
言語化しにくい事柄を、それに近い形で作業記憶を通過させる
現象であり、これが優れているため、上級者は
多くの事象を小容量で記憶できるのである。
ここまでが初心者から中級者へ至るための話であったが
本書のメインである上達の法則は
鳥瞰的認知を高め、理論的思考を身につけ、精密に学び、
イメージ能力を高め、上級者のスキーマに触れ、より広い知識を
獲得することであると紹介されている。
鳥瞰的認知を高めるとは、得意なものを認識の中核とした全体観をもち
ノートをとって言語化しようと試みることで行われる。
また、初心者のときに入門書や概論書で得た知識を
理論書を読むことによってまとめることで
上達したいことの原理を整理でき、理論的思考が得られる。
主に本書はこのような内容になっている。
スランプの構造なども興味深く読めたものの
心理学的知識を頭に叩き込まないと
全体的に読み進めにくかったのと
書いてあることが当たり前であったり、かと思えば
上級者は記憶の構造がちがうなんて、どうしようもないことを
言い出したりするあたりで、星は3つかな。