永幡嘉之のレビュー一覧
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読み進めるにつれて、著者が被災地に配慮してあえてオブラートに包んでいる“本当の意図”がいろいろな行間から滲み出てくるような気がしてならなかった。
東北地方の海岸線には、防風や防砂、そして景観維持目的でクロマツが多く植えられていた。緑が濃いその景観は、一見、豊かな自然が残されているように見える。しかし、本当の自然界-東北地方に本来生息すべき動植物の眼から見た場合、クロマツだけが勢力を広げ繁殖するのは「人間の作為」によるしかありえず、ある意味自然に反した姿だ。
「多くの動植物の絶滅が心配される状況は、津波だけによって引き起こされたものではなかった。『この程度なら大丈夫』という小さな開発が重ねら -
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津波による被害の報告という内容以前に,ナチュラリストがどんな視点でフィールドとそこにする生物を見ているのかがよく分かって興味深かった.
読むまでは気付かなかったが,津波による物理的な力だけでなく,水圏の塩分濃度が高くなることによって,生息できない・卵が孵化しないといった影響が出ることが分かった.考えれば当たり前なのだが.
また,著者が本書の中で,「人間の開発(農業関係も含む)によって生息地がちりぢりになったことで,(そうでなければ移入によって回復したであろう)生態系の回復する見込みが低くなった」という点を何度も強調していた.津波自体は自然災害であるものの,人間活動が生態系の頑強性・脆弱性に大き -
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ネタバレ山形県を中心に活動されている写真家の永幡嘉之さんによる、東日本大震災の津波被災地の生き物たちの報告。
昨年の大津波では、砂浜や松林が消滅し、内陸にまで海水が到達した地点が数多く見られたが、報道は人間の生活が中心で(当然といえば当然だが)、津波被災地の人間以外の生き物たちの様子についてはほとんど触れられてこなかった。ときに福島第一原発事故の影響で立ち入り禁止区域に指定された地域における、ペットや家畜の惨状を伝え聞くことはあっても、それ以外の被災地における生き物の様子については、あまりに情報が乏しかった。
あれだけの大津波が各地を襲い、産業が壊滅的なダメージを受けたのはもちろんだけれども、では -
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冷静で、客観的で、そして視点の面白い「環境書」。扱われている事象が事象であるだけに、手放しで「面白い」とは言いにくい。
しかし3.11はつまり、「自然環境」と「生態系」を巡ってビッグバン的大事件が起こったということは言えるわけだ。その中で生命がどう生き抜き、どう死に絶え、そしてそこに人間がどう関与していくのかという内容が、ある意味で残酷に描かれている。そしてその残酷さが興味をひきつける。
生態系が破壊されたと、単に嘆く本ではない。動植物が戻ってきつつあると、明るくはしゃぐような本でもない。そして「復興」によって希望の持てる未来がやってくるなどという楽観論もない。かといって環境愛護一辺倒でな -
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ネタバレほんとうの「豊かな自然」とはどういうものか?
震災後の秋、三陸の河川を多数遡上したギンザケはメディアなどに「生命のたくましさ」などとして好意的に取り上げられた。しかしギンザケは外来種であり本来そこにいるはずのない生物だということを、本書を読んで初めて知った。他にも様々な例が提示され、自分が知っているつもりだった「豊かな自然」はただのイメージでしかなかったのだと気付かされた。
筆者が吐露する「こんなときにこんなことをしていていいのだろうか」という煩悶は、その時その場で「命を救うこと」に関わらない学問や職業に就いている人間なら誰しもが感じることだろう。でも、胸をはってほしい。その土地の表情を守るた