井上光晴のレビュー一覧

  • 眼の皮膚・遊園地にて

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    前半2篇の炭鉱を舞台にした世界と後半3篇の都市の核家族を題材にしたものに分かれる。特に後半では会話の中で次々と記憶が喚起され、表層的に平和な生活の奥に潜むものが暴き出されていく。
    『遊園地にて』の中で主人公が取る突飛な行動は、何に急き立てられたものなのか。半世紀前の小説だが、現在にも射程が及ぶ問いだと感じる。

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    2025年09月23日
  • 眼の皮膚・遊園地にて

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    ネタバレ

    『眼の皮膚』の主人公は、五歳の娘を持つ団地の主婦である。物語は、朝、自分の顔を鏡で点検することから始まる。湯気で鏡が曇り、手でこすり、さらにタオルで拭くという描写があり、「目のまわりの薄汚れた隈」に注目し、おもいをこらす。 団地の主婦の一日が描いてあるのだが、ふつふつと小さな物語の芽が湧き出ているが、それが大きく発展することはない。夫は浮気をしているようだが、主人公はさめている。緊張した文体で主人公のいらだった気分を緻密に描いている。
    『象のいないサーカス』(別冊潮一九六八年夏季号)は、小学六年生の息子を持つ団地の主婦の心理の揺れを巧みに描いている。息子が汚してきた運動着のひざの部分が切れて

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    2019年01月23日
  • 明日 一九四五年八月八日・長崎

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    1945年8月9日11時2分、長崎市松山町上空に原子爆弾が投下されました。その前日、まさかそんなことが起こるとは思いもせずに暮らしていた人々の日常が、記されていました。

    生活のなかで色々なことがあるのは今と変わらず、それぞれの事情を抱えつつも、人々の目は明日へと向いていました。

    前日の月が、不気味なほど赤い月だったことが印象的でした。

    人を愛し、人と関わるなかで、戦時中で閉塞感はあっても、生きていくことを諦めている感じはしませんでした。

    そんななかでこの人達が次の日には···。
    その日が穏やかな朝だったことを思うと、なおさら胸がきゅっとしました。その未来を知った上でこの本を読むことは、

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    2025年08月18日
  • 明日 一九四五年八月八日・長崎

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    1945年8月8日
    その次の日、明日・・・
    長崎に原爆が投下された日。

    戦時下でその土地、長崎で生きる人々の光景

    明けない夜はない、明日は来ると誰もが希望を持ち明日を迎える

    ひたむきに生きる人々、戦争が破壊する光景

    重い話であることは言いようがないくらい伝わってくる・・

    でも忘れてはいけない戦争の記憶

    戦争を知らない私は、当たり前の明日を目の当たりにしている・・・
    生死隣り合わせの明日とは・・・

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    2018年10月28日
  • 明日 一九四五年八月八日・長崎

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    戦時下ではあるものの、ごくありふれた夏の日の日常。
    多くの人命を一瞬で奪った惨禍の前日、人々は極々普通の日々を営んでいた。

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    2015年09月25日
  • 丸山蘭水楼の遊女たち

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    時代は幕末、処は長崎の遊郭。明日のことは誰もわからぬ転換期を描くこの「歴史小説(著者談)」には、歴史上の人物は登場しない。賤民出身の遊郭一番の遊女と、同じく賤民の若者の恋の行方を中心に、何組かの男女の愛憎が描かれている。ある物語とある物語は密接に関連しながら、一方で関係なく進む奉行所による禁教衆徒弾圧、佐幕派弾圧。これらモザイクはさながら長崎の街全体が生命か、と思わせる高熱を発する。ページの尽きることを惜しみながら、全編に登場する長崎ことばの余韻を味わいつつ読書終了。

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    2014年02月09日
  • 明日 一九四五年八月八日・長崎

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    ネタバレ

    1945年8月9日午前11時2分、ボックスカーと名付けられたB29によって長崎に原子爆弾が落とされ、何万人もの人々が亡くなった。
    しかし、その前日、8月8日の時点では長崎に暮らす人々は翌日のことなど知らずに、普通にこれまで通りの生活を送っていた。
    祝言を挙げた若い男女がおり、その席に呼ばれた路面電車を運転する運転士は翌日の勤務途中で妻から弁当を受け取る手配をし、翌日に予定されていた夫の裁判が延期となったと聞かされた妻は、祝言に出された膳から作った差し入れをもう一度持ってこようと考える。
    そして、臨月で祝言に出られなかった女性は、一晩陣痛に苦しんだ末、9日の未明に待望の男の子を出産した。

    物語

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    2023年08月06日
  • 明日 一九四五年八月八日・長崎

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    ネタバレ

     原爆前日、1945年8月8日の長崎における人々の生活について、とある夫婦の結婚式とその関係者を中心に様々な人のそれぞれの一日を描いた作品。
     あえて8月9日のことを触れずに、8月9日の早朝で物語を終え、新婚夫婦、産まれたばかりの赤ちゃんとその母親など、登場人物それぞれの「明日」はどうなったのかを一切触れていないところが、この作品に重みを強く与えている。
     この本を読む際には、併せて、長崎の原爆について少しでも良いので調べてみることをお勧めする。長崎の原爆について少しでも知っているかどうかで、全く感じ方が違ってくると思うからだ。

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    2015年08月30日