井上文則のレビュー一覧
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一般的にはシルクロードといえばNHKの番組などからユーラシア大陸を横断する陸路をイメージする。しかし古代のシルクロードは海路が主流だった。ゆえにペルシャ湾、紅海がいかに重要だったということは驚きで、ローマがパルティアやササン朝と死闘を繰り広げた意味が理解できた。そして国の存亡は軍事やリーダーの資質の前に確固たる経済力が何より必要だと学んだ。
初めて知った知識がディオクレティアヌスが始めた人頭税、地租のカピタティオとユガという制度。ここで思い出さされたのが、後年マホメットが制定したジズヤとハラージュ。マホメットはディオクレティアヌスを参考にしたのか? -
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宮崎市定の著作を愛好し、評伝まで著した編者によるアンソロジー。
古代、中世、近世、最近世及び現代という時代区分と、東アジア、西アジア、ヨーロッパという地域区分を組み合わせて、歴史の骨太な見方を論じた『世界史序説』から始まり、宮崎の専門とする中国史について、古代、中世、近世からのセレクション、さらには全集未収録作品まで収録された、宮崎愛読者にはたまらない贅沢な一冊。
編者により宮崎の歴史の見方、捉え方や、選択された各論考の紹介がされているので、宮崎をあまり知らない人は、是非そちらを読んで興味を持っていただきたい。
「条支と大秦と西海」、「晋武帝の戸調式に就て」などは、一般読者が読むにはしんどいが、このような史料に即した本格的な論考もあれば、こういう歴史の捉え方ができるのか、現代につながる歴史学としてこういうものもあるのかを考えさせられるものなど、多様な作品が収録されている。
個人的には、「歴史と塩」、「王安石の黄河治水策」、「シナの鉄について」などが、非常に面白かった。塩といい鉄といい、経済社会生活に非常に重要なことだけれども、専門的な論は一般読者には取っ付きにくいものだが、宮崎の論は視点は明確であり、言わんとすることが明瞭な文章で書かれているので、グイグイ引っ張られるように読み進めることができる。
なお、「歴史と塩」は、正に日中戦争中、中国に勝利するためにはどうしたら良いか、日本軍に協力する意図でも書かれたものであることが、編集部注で分かった。
時局に迎合した戦時中の作品は、戦後不都合な箇所が削除、修正されているということは良く聞くが、こうした形で残してくれた方が歴史を知る上で大切だと思う。
編者の解説の最後に、宮崎は講談社が大嫌いであったと記されている。学術文庫という手に取りやすい形で出してくれた、講談社に感謝^_^ -
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軍人皇帝時代に焦点を当てたローマ帝国(文明)衰亡論。
衰亡の原因を元老院貴族から軍人への支配層の変化に求めた一冊。
五賢帝時代までに政治的支配層である元老院身分の制度化に伴い文人化が加速した一方、領土拡大に伴う外圧・内乱の可能性は帝国全土に広まった。
その中で軍事経験に乏しい元老院身分に代わって、たたき上げの軍人が帝位に就き、かつ高い軍事能力の持ち主が抜擢され、ポストを得られるように変わっていったのが軍人皇帝時代であった。
外圧はこれにより凌いだものの、軍事力こそ権力の源泉という構図が明確になり、帝位の簒奪・僭称が頻発。帝国の分裂傾向が加速することになる。
その混乱のなかでローマは決定的な分裂、滅亡への道をたどっていくこととなる。
著者の視点のユニークなところは、ここで中国の歴史と比較することである。
中国では後漢末の混乱期以来、ローマ同様、文人に成り代わり武人が政権を担う時代が続いた(魏晋南北朝時代)。
ところが、中国では武人が政権をとっても、支配者層は依然として文人層が占めており、政権をとった軍人王朝の人間も、政権を安定させる過程で文人化するのが常であった。(北魏の孝文帝ほか)
この差異が、中国は統一王朝が滅びても中国文明は連綿と続いたのに対して、ローマ文明は帝国滅亡後、文明が承継されなかった要因と、著者は見る。
では何故、ローマでは政権をとった軍人が文人に同化されなかったのか?
著者は元老院貴族との物理的な距離(ローマ市と帝国全土)、婚姻関係が無かったこと、また当時世間一般に広まっていた元老院階級への嫌悪感をその理由に挙げる。
この末尾部分の主張はやや弱く感じたものの、筋は通っている。
全体に、軍人皇帝時代というあまり脚光を浴びない時代の概説書として貴重であること、かつその政治支配構造の移り変わり、五賢帝時代から末期ローマ帝国への変遷が分かりやすいこと、
それに加えて、中国文明との対比などユニークな視点が盛り込まれていることなど、
少し文章が冗長なのを差し引いても、十分に刺激的で面白い一冊だったと思う。 -
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名前は聞いたことがあるが、精々「ミトラ」という名の太陽神を奉じている、ということくらいしか知らない謎多き「ミトラス教」を概説的/網羅的に記述した興味深い本
どうやら、キリスト教が出現しコンスタンティヌス帝が公認するまでは、ローマ帝国で広く信仰されていたという大規模な宗教だったらしい
文献資料がほぼ遺されておらず、神殿に刻まれたレリーフや図像、論駁者が相手(ミトラス教)の主張として出したものを参考に丹念に全体像を描き出していく。
教祖・教義として明らかな物が遺されていないにもかかわらず、ミトラス教がフォーカスした社会階層や、取り入れた思想などを考察していくのが面白かった。
密儀宗教(密教)らしく、位階のシステムや昇格にあたっての秘密の儀式などもあったようで、そういった点でも読んでてワクワクさせられた