あらすじ
世界がキリスト教化する前、ローマ帝国は伝統的なギリシア・ローマの神々に加え、オリエントの神々、さらにはキリスト教、ユダヤ教の一神教に至るまで多彩な信仰や宗教で賑わっていた。そのなかでひときわ勢力を誇ったのがミトラス教である。
キリスト教最大のライバルとまで言われながらも消滅したこの宗教の実態は、文献史料の乏しさゆえに今も謎に包まれている。最新の発掘成果や研究を踏まえつつ、その全体像に迫る。
なぜミトラス教は帝国の数ある信仰のなかで隆盛し、そしてキリスト教に敗れたのか――。
壮大なスケールで異教にぎやかなりし帝国の姿を描き、ヨーロッパ世界の深層を照らし出す。
「もしキリスト教が何らかの致命的疾患によってその成長を止めていたならば、世界はミトラス教化していただろう」。19世紀フランスの宗教学者エルネスト・ルナンはこのように述べて、キリスト教最大のライバルとしてミトラス教を名指しした。
ユピテルやマルスなどの伝統的な神々にエジプトのイシスやアヌビス、小アジアのキュベレアッティスなどのオリエントの神々、さらに一神教のキリスト教、ユダヤ教に至るまで、数多くの信仰で賑わった異教時代のローマにおいて、なぜミトラス教は信仰を広めることができたのか。そして、なにゆえキリスト教に敗北したのか――。
古代オリエントの神々のなかでも例外的に広く東西に伝わったミトラ(ミスラ)の存在は、中央アジアを越えて日本にも伝播しており、平安貴族に日記としても使われた具注暦にその痕跡を残している。
この古代オリエント、ヘレニズム時代に始まるミトラ崇拝とローマ帝国の密儀宗教ミトラス教は、どのような関係にあるのか。いつ、どこでどのようにミトラス教は誕生し、拡大したのか。宗教組織や儀式、神話、信者がこの宗教に求めたものに至るまで、異教時代のローマ帝国の姿とともにその全貌に迫っていく。
オリエントを射程にいれた大きなスケールで歴史を捉え、ヨーロッパ世界の深層が浮かび上がる!
【本書の内容】
はしがき――宗教的カオスの中で
序章 謎の宗教への挑戦――一歴史学者のみた夢
第1章 古代オリエント世界の信仰――密儀宗教化前夜
第2章 亡国の王族か、解放奴隷か――教祖の存在と教線の拡大
第3章 密儀と七つの位階――ギリシア神話との関係
第4章 孤独と忍従――ローマ帝国の兵士と奴隷の人生
第5章 異教の時代の終焉――キリスト教の圧力
終章 世界はミトラス教化したのか――ヨーロッパ世界の深層へ
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ゾロアスター教や仏教の弥勒菩薩などとの関連が取り沙汰されている以外は今一つハッキリわからなかったミトラ神、それを主軸に据えた宗教ミトラス教について、フランツ・キュモンの研究史から始め数少ない文献と各地に残る遺跡を用いることで、その起源や信仰の内容、教徒となった人々の階層、ローマ帝国に及ぼした影響や、ローマの伝統宗教やキリスト教との関係といった様々な側面をつぶさに解きあかそうとしている。
Posted by ブクログ
キリスト教化する前のローマ帝国。伝統的な神々に加えてオリエントの神々や一神教など多彩な信仰で賑わうローマ。中でもミトラス教は際立った勢力を誇っていたが、文字資料の乏しさゆえにら謎の多い存在。
『地中海世界の歴史』シリーズを読んでいて、最近この時代の頭になっているので積読を消化。マズダー教やゾロアスター教との関係やローマの歴史の中でどのように広がっていったかなど、面白くて良い。
Posted by ブクログ
ミトラス教について研究史、資料、儀式や位階、その誕生から終息、どうしてローマ帝国の西側で流行したのか?など網羅的に書かれた本。ただしミトラス教は文献資料が大変少ないために推測に頼る部分も多く、研究者の間でも意見が異なることが少なくないようだ。ミトラス教は兵士に人気だったローマの密議宗教という教科書程度の知識しかなかったので、難しい部分もあったが勉強になった。
Posted by ブクログ
名前は聞いたことがあるが、精々「ミトラ」という名の太陽神を奉じている、ということくらいしか知らない謎多き「ミトラス教」を概説的/網羅的に記述した興味深い本
どうやら、キリスト教が出現しコンスタンティヌス帝が公認するまでは、ローマ帝国で広く信仰されていたという大規模な宗教だったらしい
文献資料がほぼ遺されておらず、神殿に刻まれたレリーフや図像、論駁者が相手(ミトラス教)の主張として出したものを参考に丹念に全体像を描き出していく。
教祖・教義として明らかな物が遺されていないにもかかわらず、ミトラス教がフォーカスした社会階層や、取り入れた思想などを考察していくのが面白かった。
密儀宗教(密教)らしく、位階のシステムや昇格にあたっての秘密の儀式などもあったようで、そういった点でも読んでてワクワクさせられた