堀田善衞のレビュー一覧

  • バルセローナにて

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    『――なんという天気だろう。 と、思わず私が声に出して言っていた。』-『アンドリン村にて』

    「ABC殺人事件」を読んでいたら思いがけず堀田善衛に出会ってしまったので、積んであった一冊を手に取る。一九九四年出版の文庫本。すっと、まさにそんな表現が適切な印象で、堀田の文章がこちらの懐に入って来る。当然の事ながら推理小説の翻訳文とは全く異なる類の、心象風景を立ち上げる力のある文章。スペインに老後の人生を置きに来た著者の心情がしみじみと伝わってくる文章、と言い換えても良い。

    何気ない日常に静かに佇む奇跡のような事象を書き記すことのできる作家というのが確かにいる。堀田善衛はそんな作家の一人だろう。だ

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    2023年11月23日
  • 若き日の詩人たちの肖像 下

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     1936年2月26日、二・二六事件当日の上京から、1943年秋の学徒出陣壮行会後までの時間を切り出した作者の自伝小説。日中戦争・アジア太平洋戦争と続いた「暗い時代」に共に青春を送った、白井浩司、加藤道夫、芥川比呂志、鮎川信夫、田村隆一、中桐雅夫、中村真一郎、加藤周一らとの交流・交友が(仮名ではあるが)分析的な筆致で、しかし濃密に綴られている。先輩作家として井伏鱒二や堀辰雄、芳賀檀も登場する。
     確か学生時代に一度読み始めて挫折した(当時は何が面白いのか理解出来なかった。。。)が、いま改めて読んでみると、何をするにも国家の眼が光り、自分の身体が自分だけでは始末がつけられないことをつねに意識させ

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    2023年08月16日
  • 上海にて

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    上海の魔力に引き寄せられ終戦前後の2年弱を現地で過ごした27歳堀田青年の強烈な体験と、その10年後文学者代表団のメンバーとして上海に訪問した際の去来する思い。日中国交正常化前、文革前の1959年の著。
    国民党共産党列強各国が入り乱れる混乱とカオスの中、著者は加害者日本と被害者中国の間の矛盾や理不尽に義憤し奔走し踏み込み歴史に立ち会っていく。
    中国と対比することで日本の姿在り方も鮮明になってくる。中国人は戦争終結を「惨勝」と表現して現実に対峙し、日本人は惨敗を「終戦」と表現して現実から目をそらそうとした。中国は独立してその後アメリカの対抗勢力となり日本はアメリカに従属した。
    近代以降の中国の混乱

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    2023年08月02日
  • 若き日の詩人たちの肖像 下

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    戦間期に青春があった時代とはいかなるものか、内容は面白いわけだが、それよりもその軽快な筆致、話法に面白みがあるように思う。けして軽い話ではないのに、どーんと暗い気持ちにならず、クスクス笑ってしまうのも、いいな。

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    2017年09月23日
  • ゴヤ IV 運命・黒い絵

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    四部作最終巻。「俺はまだ学ぶぞ。」
    老人の域に入っても創作意欲は衰えず、
    最後まで芸術家として生ききった。
    「気まぐれ」、「戦争の惨禍」、「妄」、「黒い絵」と続き、
    最後の絵「ボルドーのミルク売り娘」には眼を奪われた。

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    2015年03月26日
  • ゴヤ II マドリード・砂漠と緑

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    ゴヤ40歳からの人生の頂点、
    そして大病を患うことによる絶望、
    その淵から這い上がるまでを描く。

    相変わらずゴヤを中心にそえつつも、
    周辺の人物、そして18世紀のスペイン史が語られる。
    それを通して時代が変わるということがものすごく伝わってくる。

    世紀が変わってしまうことで、
    人は地獄の様な苦しみを経ないといけないのだろうか。

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    2015年02月20日
  • ゴヤ I スペイン・光と影

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    ゴヤと彼を取り巻く18世紀のスペイン社会の記述に圧倒された。
    他の紀行と同じく、
    彼の海外に対する見方は独特なものがあったと思う。

    絵は見たことがあるけれども、
    画家本人についてはなかなか知ろうとすることは少ない。
    だが絵を描いた本人、そして取り巻く歴史を知ることで
    絵を見ることがより一層面白くなる。
    まさにそのことを教えてくれる本だと感じた。

    非常に面白く興味深いのだが、なかなかページが進まなかった。
    それくらい内容が濃いのだろう。

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    2015年01月31日
  • ミシェル 城館の人 第三部 精神の祝祭

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    ネタバレ

    エセーを読んで断片的には理解できても(そしてまたその断片がまた一々興味深いのだが)モンテーニュという人のトータルな把握に困難を覚えた一読者として、本書は単に有用であるというよりも、なくてはならない副読本だ。
    特に最終巻である本書で扱う晩年に至っての思想形成こそエセーをエセーたらしめている精髄だというのが著者の立場であり、モンテーニュ自身の生涯に対する詳細な検証に裏付けられている。

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    2014年03月08日
  • キューバ紀行

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    「低開発国における状況の論理化・常識化のための革命的運動と、それに対する帝国主義的な先進国の干渉、そして圧迫。これがおそらく二十世紀後半を特徴付ける最大のもの」

    まさに「低開発の国の内側に住む人々にとっては、たまったものではない。自分達で自分達のものを作ろうとすれば圧迫され、攻撃され、いったい、ではおれたちに死ねとでもいうのか」ってかんじです。ほんとその通りすぎて。

    (2009年5月23日 記)

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    2013年03月11日
  • ゴヤ I スペイン・光と影

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    たまたまこの夏、NHKの「あの人に会いたい」という短い番組で、堀田善衛の肉声を聞く機会があったのですが、1998年に80歳で亡くなったはずですから、本来は高校生のころにあんなにいろんな講演会や座談会や討論会を聞きに回った私が、彼の声を知らないはずがないのですが、まったく記憶にありません。

    気になるいま現在生きて活動する作家や思想家には、なるべく会って話を聞いておくこと。遠く離れたところからでもいいけれど、出来れば面と向かって質問なり質疑応答をして、彼や彼女の肉声から発せられた言葉をその内実に取り込んでより鮮明なものにすること。そうすれば、自分の頓珍漢な頭にも、少しは偉大な思慮の万分の一でも沁

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    2011年08月14日
  • 上海にて

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    ネタバレ

    <目次>
    はじめに
    上海にて
    惨勝・解放・基本建設
    解説ー大江健三郎

    1959/7筑摩書房より単行本刊行
    1969/11筑摩業書版再刊
    1995/11ちくま学芸文庫刊行
    2008/10/25集英社文庫第1刷
    2020/1/15第4刷

    堀田善衛1918(大正7)-1998
    1945/3上海赴任、1946/12末帰任
    1957に上海再訪した際、赴任時代の記憶や
    現在思うことなど記したエッセイ。
    戦後混乱期の歴史資料でもある。

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    2025年05月10日
  • 広場の孤独 漢奸

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    昭和25年、朝鮮戦争が勃発した頃の日本人を描いた芥川賞作品。
     日本の世情は右でも左でもなく揺れ動いてたのだろう。北朝鮮を民族解放、南を反共の砦ととらえていたのだろう。戦争が終わって5年、上海から引き揚げてきた堀田善衛の葛藤イコール日本人の葛藤なのだろう。右につくか左になびくか。

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    2024年11月02日
  • ミシェル 城館の人 第三部 精神の祝祭

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    堀田善衛の独特の心地よい語り口に導かれて、ミシェル・モンテーニュの生涯をゆっくりと辿ってきたこの長編も、ついに最終巻。
    ラテン語を母語として育ったミシェルにとって、ローマへの17か月にわたる旅は、コスモポリタン的自己を再確認するものでもあったが、フランスに帰国した彼を待ち受けていたのは、ボルドー市長就任の辞令であった。政治的状況に背を向けるのではなく、関わることを否定はしない。しかし絶対的な基準で自己と他者を縛ることを避けようとする中庸の姿勢は、ここでも変わらない。いったん職を引き受けたからには必要な労苦は惜しまないが、それは「臨時の貸付」なのだという。宗教戦争やペストの流行のためにボルドー市

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    2022年03月18日
  • ミシェル 城館の人 第二部 自然 理性 運命

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    フランス王室と宗教戦争の行方がますます混迷をきわめるなか、ミシェルはボルドー高等法務院裁判官の職を辞してモンテーニュの塔の一室をわが城とし、いよいよ『エセ―』の執筆を始める。
    エセ―とは、随想であり試みの意であるという。ここでミシェルがおそらくヨーロッパ世界で初めて試みたこととは、自らを研究対象とすることであった。「ク・セ・ジュ(われ何をか知る)」というモンテーニュの言葉は「懐疑主義」と一般に言われているが、それは、わたしが本書を読むまで想像していたような、すべてを疑い自らが恃みとする理性の力で「真理」を明らかにしていこうとするような重く暗く硬い思想のことではなかった。それはむしろ、どこまでも

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    2022年02月20日
  • ゴヤ I スペイン・光と影

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     読んでいる途中の感想だけれど、からだごとその場所にもっていって書く。そういう、身体性というか、現場主義というか、実感から生まれてくる描写。ポストモダンは、実感主義と否定したのかもしれないが、堂々たるモダニスト、近代主義者。40年ぶりの再読の快楽。こんなに面白かったことに気づけなかった浅はかさを、若さというのだろうか?

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    2019年02月23日
  • ゴヤ III 巨人の影に

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    近代の波に呑まれていくスペインとゴヤ。
    絵からも時代の変わり目を読み取ることができる。
    ゴヤよりもスペインという国家,
    そして民衆の変化に焦点が当たった巻なのではないだろうか。
    耳が聞こえないことが、彼にとってどう作用していたのだろう。

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    2015年03月11日
  • キューバ紀行

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    キューバ危機から数年後の紀行。

    国名を聞いて思い浮かぶものは、
    キューバ危機、カストロ、チェ・ゲバラ位である。

    日本とは縁遠い国のイメージだったが、
    すでにこの時期から技術協力などが進んでいたことに驚きを感じる。
    極めつけは紡績工場の名前に浅沼稲次郎の名がついていることだろう。
    2009年時点ではまだ稼働していたらしい。

    小国故の悩み。特に共産主義にはNOを突き付けつつも、
    結果として旧ソ連に近づいていかなければなかったという経緯は興味深い。

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    2014年07月24日
  • 上海にて

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    戦後日本の最良の知識人(少々古い表現ですね!)である著者の実体験をベースに書かれたエッセイ。エッセイとはいっても、歴史と時代状況を踏まえて、物事の本質に迫ろうとする堀田善衞の姿勢には感服する。とは言え、あくまでも文学者の視点からの批評であり、経済、政治のトータルな視点からの中国理解は、別の本できちんと学ばねばならないだろう。

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    2014年06月02日
  • 広場の孤独

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    1951年下半期芥川賞受賞作。佐藤春夫や川端康成等、選考委員の多くから高い評価を受けての受賞だった。物語の構造は、19世紀末フランスのユーモア作家アルフォンス・アレエの『腹の皮のよじれるほど』と同じ。今、聞いている物語が、まさにそのものだというもの。すなわち、私たちは読者であると同時に、まさにこの小説の生まれる瞬間に立ち会っている目撃者でもある。世界情勢の混沌としていた1950年を描くが、主題上の核となる言葉は、"commit"。おそらくはサルトルの"engagement"を作者流に受け止めた結果だろう。
     なお、"commit"が、

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    2014年03月30日
  • ゴヤ IV 運命・黒い絵

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    500頁超える巻を4巻、漸く読み終えた。ゴヤがこれほどの数の作品を残したとは驚きである。
    ゴヤはと言えば、エネルギッシュで、野心家である。
    スペインの時代背景とともに、ゴヤの生涯とその作品群を紹介していく大作を読みきった満足感で一杯である。

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    2013年08月10日