堀田善衞のレビュー一覧

  • バルセローナにて
    『――なんという天気だろう。 と、思わず私が声に出して言っていた。』-『アンドリン村にて』

    「ABC殺人事件」を読んでいたら思いがけず堀田善衛に出会ってしまったので、積んであった一冊を手に取る。一九九四年出版の文庫本。すっと、まさにそんな表現が適切な印象で、堀田の文章がこちらの懐に入って来る。当然...続きを読む
  • 若き日の詩人たちの肖像 下
     1936年2月26日、二・二六事件当日の上京から、1943年秋の学徒出陣壮行会後までの時間を切り出した作者の自伝小説。日中戦争・アジア太平洋戦争と続いた「暗い時代」に共に青春を送った、白井浩司、加藤道夫、芥川比呂志、鮎川信夫、田村隆一、中桐雅夫、中村真一郎、加藤周一らとの交流・交友が(仮名ではある...続きを読む
  • 上海にて
    上海の魔力に引き寄せられ終戦前後の2年弱を現地で過ごした27歳堀田青年の強烈な体験と、その10年後文学者代表団のメンバーとして上海に訪問した際の去来する思い。日中国交正常化前、文革前の1959年の著。
    国民党共産党列強各国が入り乱れる混乱とカオスの中、著者は加害者日本と被害者中国の間の矛盾や理不尽に...続きを読む
  • 若き日の詩人たちの肖像 下
    戦間期に青春があった時代とはいかなるものか、内容は面白いわけだが、それよりもその軽快な筆致、話法に面白みがあるように思う。けして軽い話ではないのに、どーんと暗い気持ちにならず、クスクス笑ってしまうのも、いいな。
  • ゴヤ IV 運命・黒い絵
    四部作最終巻。「俺はまだ学ぶぞ。」
    老人の域に入っても創作意欲は衰えず、
    最後まで芸術家として生ききった。
    「気まぐれ」、「戦争の惨禍」、「妄」、「黒い絵」と続き、
    最後の絵「ボルドーのミルク売り娘」には眼を奪われた。
  • ゴヤ II マドリード・砂漠と緑
    ゴヤ40歳からの人生の頂点、
    そして大病を患うことによる絶望、
    その淵から這い上がるまでを描く。

    相変わらずゴヤを中心にそえつつも、
    周辺の人物、そして18世紀のスペイン史が語られる。
    それを通して時代が変わるということがものすごく伝わってくる。

    世紀が変わってしまうことで、
    人は地獄の様な苦し...続きを読む
  • ゴヤ I スペイン・光と影
    ゴヤと彼を取り巻く18世紀のスペイン社会の記述に圧倒された。
    他の紀行と同じく、
    彼の海外に対する見方は独特なものがあったと思う。

    絵は見たことがあるけれども、
    画家本人についてはなかなか知ろうとすることは少ない。
    だが絵を描いた本人、そして取り巻く歴史を知ることで
    絵を見ることがより一層面白くな...続きを読む
  • ミシェル 城館の人 第三部 精神の祝祭
    エセーを読んで断片的には理解できても(そしてまたその断片がまた一々興味深いのだが)モンテーニュという人のトータルな把握に困難を覚えた一読者として、本書は単に有用であるというよりも、なくてはならない副読本だ。
    特に最終巻である本書で扱う晩年に至っての思想形成こそエセーをエセーたらしめている精髄だという...続きを読む
  • キューバ紀行
    「低開発国における状況の論理化・常識化のための革命的運動と、それに対する帝国主義的な先進国の干渉、そして圧迫。これがおそらく二十世紀後半を特徴付ける最大のもの」

    まさに「低開発の国の内側に住む人々にとっては、たまったものではない。自分達で自分達のものを作ろうとすれば圧迫され、攻撃され、いったい、...続きを読む
  • ゴヤ I スペイン・光と影
    たまたまこの夏、NHKの「あの人に会いたい」という短い番組で、堀田善衛の肉声を聞く機会があったのですが、1998年に80歳で亡くなったはずですから、本来は高校生のころにあんなにいろんな講演会や座談会や討論会を聞きに回った私が、彼の声を知らないはずがないのですが、まったく記憶にありません。

    気になる...続きを読む
  • ミシェル 城館の人 第三部 精神の祝祭
    堀田善衛の独特の心地よい語り口に導かれて、ミシェル・モンテーニュの生涯をゆっくりと辿ってきたこの長編も、ついに最終巻。
    ラテン語を母語として育ったミシェルにとって、ローマへの17か月にわたる旅は、コスモポリタン的自己を再確認するものでもあったが、フランスに帰国した彼を待ち受けていたのは、ボルドー市長...続きを読む
  • ミシェル 城館の人 第二部 自然 理性 運命
    フランス王室と宗教戦争の行方がますます混迷をきわめるなか、ミシェルはボルドー高等法務院裁判官の職を辞してモンテーニュの塔の一室をわが城とし、いよいよ『エセ―』の執筆を始める。
    エセ―とは、随想であり試みの意であるという。ここでミシェルがおそらくヨーロッパ世界で初めて試みたこととは、自らを研究対象とす...続きを読む
  • ゴヤ I スペイン・光と影
     読んでいる途中の感想だけれど、からだごとその場所にもっていって書く。そういう、身体性というか、現場主義というか、実感から生まれてくる描写。ポストモダンは、実感主義と否定したのかもしれないが、堂々たるモダニスト、近代主義者。40年ぶりの再読の快楽。こんなに面白かったことに気づけなかった浅はかさを、若...続きを読む
  • ゴヤ III 巨人の影に
    近代の波に呑まれていくスペインとゴヤ。
    絵からも時代の変わり目を読み取ることができる。
    ゴヤよりもスペインという国家,
    そして民衆の変化に焦点が当たった巻なのではないだろうか。
    耳が聞こえないことが、彼にとってどう作用していたのだろう。
  • キューバ紀行
    キューバ危機から数年後の紀行。

    国名を聞いて思い浮かぶものは、
    キューバ危機、カストロ、チェ・ゲバラ位である。

    日本とは縁遠い国のイメージだったが、
    すでにこの時期から技術協力などが進んでいたことに驚きを感じる。
    極めつけは紡績工場の名前に浅沼稲次郎の名がついていることだろう。
    2009年時点で...続きを読む
  • 上海にて
    戦後日本の最良の知識人(少々古い表現ですね!)である著者の実体験をベースに書かれたエッセイ。エッセイとはいっても、歴史と時代状況を踏まえて、物事の本質に迫ろうとする堀田善衞の姿勢には感服する。とは言え、あくまでも文学者の視点からの批評であり、経済、政治のトータルな視点からの中国理解は、別の本できちん...続きを読む
  • 広場の孤独
    1951年下半期芥川賞受賞作。佐藤春夫や川端康成等、選考委員の多くから高い評価を受けての受賞だった。物語の構造は、19世紀末フランスのユーモア作家アルフォンス・アレエの『腹の皮のよじれるほど』と同じ。今、聞いている物語が、まさにそのものだというもの。すなわち、私たちは読者であると同時に、まさにこの小...続きを読む
  • ゴヤ IV 運命・黒い絵
    500頁超える巻を4巻、漸く読み終えた。ゴヤがこれほどの数の作品を残したとは驚きである。
    ゴヤはと言えば、エネルギッシュで、野心家である。
    スペインの時代背景とともに、ゴヤの生涯とその作品群を紹介していく大作を読みきった満足感で一杯である。
  • ゴヤ III 巨人の影に
    ゴヤの生涯とその時代背景を追っていく。ヨーロッパはまさにナポレオン戦争の時代であり、スペインも戦禍に見えて行く。ゴヤの「戦争の惨禍」といった版画集がその悲惨さを描いていく。ゴヤの作品といえば、「着衣のマヤ」「裸のマヤ」のイメージしかなかったが、戦争に苦しむ民衆を描くことこそ、むしろ近代的画家として、...続きを読む
  • ゴヤ III 巨人の影に
    いよいよゴヤの晩年に近づいていく。ゴヤの人生とともにスペインの激動の歴史も知れるという一鳥二石なこの本。ややこしくて分かりにくこの辺りの歴史を読み物としても面白く、知的かつ情緒的に描き出しているのに、なにゆえこんなに読み進めないのか不思議。私にとって高尚すぎるだけだけど。けど面白いのは事実。少しずつ...続きを読む