高城高のレビュー一覧
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『ウラジオストクから来た女 函館水上警察』文庫化に当たって、書き下ろし短編『嵐と霧のラッコ島』を付け加えた一冊である。オリジナル単行本に、微妙なかたちでおまけをつけて、読者の散財を促すのが商法であるならば、これには賛成できかねるが、こと高城高の短編一つが加わるのであれば、ぼくにとってはそこには市場価格では測れない価値があるとしか言いようがないので、出版社の目論見通りになるのは悔しいのだけれど、この作家の短編一つに740円、別に決して、惜しくはないのである。
さて本書全般の詳細は『ウラジオストクから来た女』のレビューをご参照願うとして、ここで付け加えられた短編『嵐と霧のラッコ島』についてであるが、これは函館というよりも、ラッコ島こと得撫(ウルップ)島を舞台にした水産会社の海獣猟船の遭難事件である。魚とりの漁船ではなく、ラッコの毛皮を求めての海獣猟という辺りに、時代特性の感を禁じ得ないところだが、それ以上に、未だ、千島列島が明治八年以来日本領となっている中、測量もされず、日本の辺境のようなかたちで放置され、経済的にも一部の民間会社しか着目していないという状況、その状況下で起こる海獣乱獲といった未統制の北の海こそが、ここでは浮き彫りにされている。その辺りが本書にて着目されるべきところであろうか。
この事件を通して、日本の政治が眼の届かない当時の領土を放置したままにしていること、一方で遥かに遠い国の英国あたりが先に測量し、各国が乱獲をしている状況について、登場人物のひとりに憂えさせているのだが、現代に移し替えた北方領土問題についても、歴史的に意味するところを見定めてみようとすると興味深いことに、日本の歴史的国策の無雑作であった有様が、今更ながら浮き彫りになってくると思う。
敢えて完了したシリーズに新しい一篇を加えさせたのも、当時より、次の年には渡米を考えていた五条というシリーズ主人公の肚づもりと、その後に彼を見舞う運命との無常を語ると同時に、上のようなニッポン国の、地方を顧みない中央支配的構図に対する、作者ならではの反旗的意味合いがあったのか、と敢えて考えさせられる、これは文庫改訂版なのであった。 -
Posted by ブクログ
2008年に創元推理文庫の面目躍如とばかりに出版された高城高全集全四巻本の、これは第二巻。第一巻は、創作第一期(1955~1970年)に書かれたものでは唯一の長編小説『墓標なき墓場』。第二巻は、東北大文学部在籍中に『宝石』の懸賞に応募して一位を受賞した『X橋付近』を初め、当時比較的陽の当たった作品を収録しているようだ。
ちなみに第三巻『暗い海 深い霧』は、北海道を舞台にした短編を収録。とりわけタイトル通り、深い霧に包まれた、年間日照時間の最も短い街・釧路を舞台にした作品が大半を締める。未読の第四巻『風の岬』は、それらの範疇から外れた作品、陽の当たらなかった作品などをまとめたものであるようだ。
本書は、デビュー当時、即ち1957年の北海道新聞社入社以前の仙台在住頃の作品に加え、北海道を舞台にした作中有名なもの、シリーズものなどを収録している。
シリーズものとは、いわゆる悪女ものである。志賀百合というクールな謎の美女の出る四作は注目。特にフェンシングを得意としていたらしい作者らしく、フェンシング試合中の事故の真相と疑念の『賭ける』に始まり、札幌を舞台にした『凍った太陽』、ヘミングウェイがリヨン駅で盗まえたという原稿の行方に絡んだミステリ『父と子』、スペイン、バスク地方を舞台にした『異郷にて 遠き日々』と通して、志賀百合という死に囲繞されたような宿命を持つ女性の、波乱と冒険に満ちた一代記を見ることができ、興味深い。
さらに私立探偵小説としてシリーズ化を望みたくなるような『冷たい雨』。珍しく私立探偵が登場するのだが、石原次郎という閑古鳥が鳴いているような事務所に始まる厭世観に満ちたような空気が、何だかフィリップ・マーローみたいで、懐かしい。昭和30年代ならではの殺伐感と戦後への期待感が交錯したぴりぴりした街の気配が、鋭い文体で抉られる。
実際、この本は、釧路をはじめとした道東旅行中に読んだのだが、『美しい草原に』はその釧路のバーを舞台にしたまるで日活アクション映画みたいだ。
さらに『ラ・クカラチャ』という短編は、米軍占領下の街で、最底辺の生活と生存を描くハードボイルド。ラ・クカラチャがゴキブリの意味だとわかったのはこの短編により、それをハワイ旅行の折、妻に話しながら、ラ・クカラチャは英語に化けた時にコックローチになったんだ、と気づいたりした。
という具合に私的には、自分の私生活とも関わって忘れがたき短編集となったものである。 -
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昭和三十三年、夏。北海道。
未明の落石沖で、殿村水産所属の運搬船・天陵丸が沈没した。
積荷過重による事故とみられ、特に不審な点はないと思われた。
その同じ朝、花咲港に入港した一隻のサンマ船が岸壁に衝突した。
こちらも単純な過失による事故と思われたのだが、
天陵丸沈没事故と、サンマ船の衝突事故とを結びつける
不穏な噂が天陵丸の乗組員の遺族から流れ始めた。
そのネタに飛びついた不二新報釧路支局長の江上武也は
独自の取材を進め、ついに特種の記事をあげることに成功する。
だが、何者かの策謀によって、江上は釧路を逐われることに。
そして三年後。
かつての事件の関係者が次々と不審死を遂げたことを知り、
江上は再び事件のことを調べるために、釧路へと帰ってきた。
日本のハードボイルドの礎を築いた伝説の作家・高城高の
唯一にして幻の長編を収録した、高城高全集第一巻。
2008年版の「このミス」にランクインされた「X橋付近」で
初めて高城高という作家のことを知ったのだが、
ランクインを受けてか、創元から全集が刊行されるとのことで
これ幸いとさっそく手にとってみた次第。
「硬質」などの言葉で表現されることが多いその文体の特徴だが
確かに、読んでいてそれに近い感想は持った。
必要最低限の描写のみを残したスリムな文体で、
あれこれ言葉を尽くして説明するということをしていない。
それでいて、その必要最低限の言葉によって、
情景や心理がしっかりと描き出されている。
鋭くて、速い。
そして、確か。
もう少し俗に言うならば、とてもカッコよくて、渋い。
そんな文章だ。
プロットも、意外と凝っていてうならされた。
やや複雑な人間関係を、この文体で説明していくものだから
ついていくのに少しだけ努力を要したが、
その点に対して「わかりにくい」などと文句を言って
この作品を低く見るような愚は犯したくないものである。
とにかく最後まで雰囲気が素晴らしい。
霧に覆われた北海道の景色を実際に見たことはないが、
優れた心象風景を提供してくれる絶好の舞台設定だと思う。
200ページ強と、長編としては短めの作品だが、
そのボリュームもこの作品には最適。
全集の次巻は5月発売らしい。
刊行が待ち遠しい本が、また一冊増えてしまった。 -
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霧の街・釧路がハードボイルドの舞台として格好であった時代。太平洋炭鉱が海底から石炭を掘削し、サンマ漁で港湾は賑わい、街のいくつもの映画館で裕次郎がかかり、繁華街は現在の歌舞伎町のように賑わっていたという。
夜の闇の中で船員同士の喧嘩がマキリによる殺傷事件に変わっても、日常茶飯のこととして警察もろくすっぽ調べもしなかったという。流れ者やヤクザ者が巷に溢れ返っていた昭和33年という時代。
著者は北海道新聞釧路支局に勤務しており、本書の主人公は網走支局に追われた支局長・江口が、釧路での連続殺人事件を探りに、3年前の事件を掘り起こそうと旅に出るところから始まる。
根室や花崎といったさいはての漁港の描写、釧路の太平洋側にある春採湖で出会う少女との束の間のロマンティックな一幕など、映像化されてもいいような生粋のハードボイルドである。
大藪春彦よりも先に日本にハードボイルドを持ち込んだ作家だという意味がよくわかる、著者唯一の長編作品。素晴らしい。
時を超えて甦った本書の企画を立ち上げた人に、とにかく喝采を送りたい。そしてまた現在時点でなお文庫版あとがきを書いてくれた作家その人に対しても。 -
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1955年デビューし、1970年以降は本業のジャーナリストとして生きるため小説の筆を折ったという伝説の作家・高城高。大藪春彦よりも少し前の時代において、真にハードボイルドの創始者であった作家こそこの人であったのではなかろうか。
レイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドを愛読し、一方で、地方新聞社の記者として釧路支局に生きた時期、本書は、その実地体験を活かしに活かしての道東を舞台にした短編集である。
1956年生まれのぼくは、生まれた時代のことよりも自分が社会に興味を持ち始めた時代、文化に接し始めた頃の方がよほど詳しくこだわりをもっている。自分の生まれた時代の、さらに道東を舞台にした極めて特殊な小説集を手に取ったとき、その時代もその土地も、何故か素材としてとりわけ新鮮に感じられてならなかったのは、まさしく己の無知ゆえだったろうと、今さらながらに痛感する。
この時期、まだ戦後を引きずっており、高度経済成長の前段階とでもいうべき時期、占領が解けたばかりの国家で、それでも戦勝国によるコントロールが日本の政治に強い影響力を持っていた時期、そして何よりも日米冷戦による世界緊張が東西国境の一角を成していた北海道という場所、これらがこれほどまでに豊富な素材をこの作家に用意してくれたのだ。
とりわけ表題作『暗い海 深い霧』は、新聞社釧路支局を舞台に、ハードボイルド風に展開しつつ、エスピオナージュの冒険小説という色合いを呈してゆく。さらに他の小説も謎解きの要素、どんでん返しの面白さという醍醐味は残しつつも、いわゆる推理小説ではなく、冒険小説的色合いが非常に強いのである。
一つにはやはり釧路、根室、網走といった地方都市の抱える貧困や、国境としての国際的位置づけ、流れてくる者たちの逃亡の地、流刑の地、地方だからと安易に行われる重犯罪、死体をどこにでも始末できそうなゆえに容易に起こってしまう殺人、といった要素もあろうかと思われる。
しかし、この作品集には、スコット・ウォルヴンの『北東の大地、逃亡の西』とも通じる、地方ならではの荒涼とした痩せた土地、厳しい自然がもたらす圧倒的な貧困感が、重低音となって全体に響き続けているのだ。
もちろん戦争で覚えた暴力がまだ持ち込まれているその時代背景ということもあるだろう。しかしそれ以上に、地方にまで及んでいる戦後の混乱期、一気に一攫千金を狙おうと欲望に溺れ、破滅へ向ってゆく者たちの儚さのようなものが、淡々と描かれているのを見ると、今の時代にはないこの時代の作家しか書き得ないリアリズムのようなものをどうしても感じざるを得ない。
今と少しも変わらぬ土地の描写があり、随分と異なるその時代ならではの北海道の空気を嗅ぎ取ることもあり。北海道が生んだ古い作家の、少しも古く感じられない正統派ハードボイルド&ノワールな作風に、まずは一気に魅せられてしまったことだけは白状しておこうと思う。
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ネタバレ『X橋付近』
入院中同室になった松川精二から妹の様子を訪ねるように頼まれた高城。教えられた住所に妹の牧玲子はいない。ようやく探し当てた玲子。翌日再び来るように言われ訪れた高城か発見した玲子の遺体とヘロイン。
『火焔』
映画館で警察に包囲された不良たちの向こう見ずな行動。
『冷たい雨』
石原探偵事務所に依頼された殺人事件。被害者・木島小夜子の友人・冬村マリオを訪ねる石原。
『廃坑』
『淋しい草原に』
『ラ・クカラチャ』
『黒いエース』
『賭ける』
『凍った太陽』
『父と子』
『異郷にて 遠き日々』
『われらの時代に』
『親不孝の弁』
『Marini veddy,veddy dry. -
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“幻の作家”高城高。
全集第4巻となる本書では、活動休止前の10年に書かれた14編を収録。
麻薬密売にからむ轢死事件を追う捜査官が見た人間模様とは「踏切」。
ある強盗傷害事件を追う新聞記者は、
スクープを狙って仮説を立てるが――「ある誤報」。
小さな企みについて描いた掌編「ホクロの女」。
溺死体となって発見された男は三輪に、
かつて反共産主義の組織の一員として活動していたことを話していた。
その死について三輪は調査を進める「風への墓碑銘」。
無実の罪で投獄された男は、十年前の事件の復讐のため
かつての仲間の前に姿を現すが――「札幌に来た二人」。
雑貨店を営む老女の死の意外な真相「気の毒な死体」。
嵐の中、襟裳岬へ向かう奇妙な二人連れの男。
彼らを待ち受ける結末は――「風の岬」。
ゲイバーのマダムが殺された。
調べを進めるに従い明らかになる人間模様と、
昨年の夏の事故と今回の事件のつながりとは――「飛べない天使」。
ある会社の給料を盗み出すことを計画した弘志ら四人。
しかし、弘志は誰かの裏切りに会い負傷する「ネオンの曠野」。
“星の岬”を目指して車を走らせる夫婦。
夫は秘密を告白するが、妻はそれを受け入れる、が――「星の岬」。
電波基地建設に反対する地元住民。
その裏で暗躍する謎の老人の正体は「上品な老人」。
一年前、ナオミを追ってきた芸能記者は階段から転落して死んだ。
人気にかげりの見えてきたナオミは再びホテルを訪れる「穴無し熊」。
偽造小切手を追っていた上司の失踪を調べるべく北海道に来た朝比奈。
彼を待ち受けていた罠とは――「北の罠」。
佐川のもとにかかってきた殿村輝子からの電話。
以前、失踪した彼女を佐川は探し出したことがあったのだ。
函館に向かった佐川は、消えた輝子の行方を調べるが
きな臭い企みが浮かび上がってきて――「死ぬ時は硬い笑いを」。
これで全集も最後?
おそらく、「凍った太陽」「暗い海 深い霧」のときと
ほとんど同じことを語ることになってしまうので、
今回はできるだけ短めにいこうと思う。
文体と雰囲気は、当然のことではあるが、
これまでに読んだ作品と変わらない。
すでに高城高の文章に魅せられている人間にとっては
それは読んでいるだけで相応の満足感が得られるものである。
似通っているようで多様なプロットの妙もやはり味わい深く、
さらっと読めて刺激的な作品が多い。
いわゆる本格ミステリではないので伏線どうこうというものではないが
だしぬけに真相を明かす手口はいつも切れ味が鋭いし、
それによって人間関係の闇や影が浮かび上がってきて
キレが良くて、なかなかに強い余韻を残してくれる。
今回のお気に入りは、ミステリ好きとしては
この手のプロットにはどうしても反応してしまう「気の毒な死体」、
どこか夢物語のようなロマンチックさを漂わせておいて
衝撃的なラストに持ち込む「星の岬」、
カタストロフが印象的な「死ぬ時は硬い笑いを」あたりか。
もちろんどの作品もそれぞれに魅力があるのだが。
高城高の過去の作品を追うのはこれで終わり。
このあとは、文庫化もされた「函館水上警察」を読みます。 -
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長らく“幻の作家”だったが、近年執筆活動を再開した高城高の
初期の短編13編を収録した傑作集。
スパイとして国後島に潜入し、ソ連の警備隊に拘束された男。
日本に帰還した彼を待っていた真実とは――「暗い海 深い霧」。
移動銀行の車を襲った二人組の強盗の顛末「ノサップ灯台」。
海岸で発見された女の死体。
痴情のもつれが原因と思われたが、
なぜか公安調査官の影がちらつく――「微かなる弔鐘」。
とある男女の修羅場を切り取った「ある長篇への伏線」。
罠にかけられ投獄されたアイヌの青年。
彼は脱獄を実行するのだが――「雪原を突っ走れ」。
バンドマンの町田は、ひょんなことから知り合った
小悪党の犬山という男を追い始める――「アイ・スクリーム」。
浩一は嫉妬から小林という男を殺した。
しかし、隠したはずの死体は消えていて――「死体が消える」。
那須は釣りに行って川に落ちたという。
愛人の信子はしかし、裏に隠された真実を突き止める――「暗い蛇行」。
深夜のデパートから時計や貴金属が盗まれた。
支配人は警備員の犯行を疑っていたが、
警備員には一応のアリバイがあり――「アリバイ時計」。
新聞記者の工藤は、失踪した美人ホステス探しを頼まれる。
怪しい男たちに工藤はあたっていくが、
顔を出した真相は意外なもので――「汚い波紋」。
ある作戦に召集された米諜報機関の日本人工作員たち。
謀略の果てに彼らが見たものは――「海坊主作戦」。
網走市に建つホテルにてひそかに進行する陰謀――「追いつめられて」。
海に街娼の死体が上がった。
彼女には幼い娘と息子がいて――「冷たい部屋」。
高城高全集の第3巻。
短編集としては2冊目。
約一年ぶりに手にとった高城高だが、
魅力は本書に収録された作品でも変わらず。
以前にも書いたが、硬質な文体、それでいて立ち上る叙情。
冷たすぎるほどに冷ややかな文章ではあるが、
しかしそこには豊かな詩情がある。
新聞記者や水商売の女が登場するなど、
各短編の間には共通点が多く存在する。
ワンパターンと評する向きもあるかもしれないが、それは違う。
確かに相似形とも言えるほどに大筋は似通っているが、
その実、盛り込まれたディテールはすべて異なっている。
だからここに収録されている短編には、それぞれ違った味わいがある。
アイヌの人々や、貧しい暮らしを送る者たち、
また夜の世界の女など、弱者たちがたびたび登場するが、
それらの者へのまなざしは優しい。
こうした視点が、高城作品には含まれていると思う。
前述のように、それぞれに異なった趣があり楽しめるが、
個人的なお気に入りは、冷ややかなラストが素晴らしい「暗い蛇行」、
静かな文体ながら緊迫した知略戦を楽しめる「海坊主作戦」の2編。
いずれ劣らぬ良作ぞろいだが、この2編は特にオススメと言えよう。
ハズレのない全集である。
最後の「風の岬」も遠からず読む予定。
そのあとは、近作の「函館水上警察」などにも手を出していきたい。 -
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日本ハードボイルドの黎明期を支えた作家・高城高の
名編11編にエッセイ3編を収録した作品集。
入院中、同室となった男に、盛り場で雀荘を経営する妹の安否を
確かめてほしいと頼まれた私は、彼女を追い調査をするが、
会う約束を取り付け、時間に訪れた私の前に
彼女は死体となって現れ――「X橋付近」。
不良少年たちの、包囲された映画館からの脱出劇「火焔」。
私立探偵の石原が久々に受けた依頼は、
木島という男の妹が殺された事件の調査。
その陰には市会議員とキャバレー経営者の女が――「冷たい雨」。
荒れ果てた炭鉱に住む家族の肖像「廃坑」。
不自然な難破事件の真相を調べるべく釧路に向かったまま
消息を絶った幼馴染を追い、男は釧路に向かう「淋しい草原に」。
日本人娼婦と米兵の、炎熱の夏の悲劇を描く「ラ・クカラチャ」。
バーテンやクラブ経営者らの思惑が絡み合い、
カード賭博の場で起きた惨劇「黒いエース」。
フェンシングの試合中に起きた事故で命を落とした男と、
志賀由利という女の悲しき関係――「賭ける」。
フェンシング事故で親友を失った岡田は、
映画スターのスキャンダル事件に巻き込まれるが、
そこで志賀由利と再開を果たす「凍った太陽」。
北海道の地で、アメリカ人と何らかの取引を目論むパリのギャング。
由利はギャングに付き添いながら、取引の場で
品物を強奪することを仲間と企むが「父と子」。
年老いた男は、かつて若き日にスペインの地で関わった
独立を求め活動するバスク人たちの間で起こった事件と、
志賀由利という女について語り始める「異郷にて 遠き日々」。
そして高城氏のハードボイルド感が直接的に語られたエッセイ
「われらの時代に」「親不孝の弁」と、
ドライ・マティーニにまつわる
若き日の思い出を綴った「Martini. Veddy, veddy dry」。
2008年版「このミステリーがすごい!」に、
短編集「X橋付近」がランクイン後、刊行された全集の第2巻。
硬質かつ鋭敏な文体は、第1巻「墓標なき墓場」と変わらず。
手数は少ないものの的確な筆さばきで、
鮮やかに景色を、人間を、心情を刻みつけていく。
ほぼすべての作品が、北の地を舞台としている。
冷え冷えとした土地の空気が、
荒涼としたハードボイルドにはよくなじむ。
一方で、燃え上がるような暑さの夏を舞台とした作品もあり、
こちらも、登場人物たちの寂寥感、頽廃的な雰囲気とよく合う。
結果として、不思議な冷たさと熱とが同居する作品集となっている。
最後に収録されたエッセイ3編も短いものながら、
高城氏の作品を支える思想背景が述べられており、
作品の味わいを深める効果を発揮している。
良作揃いの作品集。
一冊としては結構なボリュームだが、
少しずつ読み進められる各作品のコンパクトさもありがたい。
全集はあと2巻あり、どちらも購入済み。
焦ることはないので、しばらくしたら第3巻を読んでみよう。 -
Posted by ブクログ
ハードボイルドの持つあくの強さや独特の世界観は感じられなかった。筆致は淡々としていて至極シンプル。事実のみを追いかける温度差の少ない展開は社会派のよう。本作品が作者の唯一の長編らしいが、そう思って読むと、どこか荒削りな出来も仕方ないのかなと諦めもつく。ひとつひとつのエピソードは丁寧にきっちり書いてあるのだが、その繋ぎが決してスムーズとは言えない。沈没事件から三年後に事件は動き出すが、この三年間の空白の必然性もあやふやである。主人公が足を使って関係者の証言を追う姿勢は好きなのだが、これだけの規模になった事件を、駆け足で終わらせるようなラストにはさすがに首を捻ってしまった。もう少し余韻に浸ってもよかったのではないか? 一作だけでこの作家を評価するのは勿体無いので、いずれは短編にも目を通してみたい。