高城高のレビュー一覧
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『ウラジオストクから来た女 函館水上警察』文庫化に当たって、書き下ろし短編『嵐と霧のラッコ島』を付け加えた一冊である。オリジナル単行本に、微妙なかたちでおまけをつけて、読者の散財を促すのが商法であるならば、これには賛成できかねるが、こと高城高の短編一つが加わるのであれば、ぼくにとってはそこには市場価格では測れない価値があるとしか言いようがないので、出版社の目論見通りになるのは悔しいのだけれど、この作家の短編一つに740円、別に決して、惜しくはないのである。
さて本書全般の詳細は『ウラジオストクから来た女』のレビューをご参照願うとして、ここで付け加えられた短編『嵐と霧のラッコ島』についてで -
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2008年に創元推理文庫の面目躍如とばかりに出版された高城高全集全四巻本の、これは第二巻。第一巻は、創作第一期(1955~1970年)に書かれたものでは唯一の長編小説『墓標なき墓場』。第二巻は、東北大文学部在籍中に『宝石』の懸賞に応募して一位を受賞した『X橋付近』を初め、当時比較的陽の当たった作品を収録しているようだ。
ちなみに第三巻『暗い海 深い霧』は、北海道を舞台にした短編を収録。とりわけタイトル通り、深い霧に包まれた、年間日照時間の最も短い街・釧路を舞台にした作品が大半を締める。未読の第四巻『風の岬』は、それらの範疇から外れた作品、陽の当たらなかった作品などをまとめたものであるよう -
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昭和三十三年、夏。北海道。
未明の落石沖で、殿村水産所属の運搬船・天陵丸が沈没した。
積荷過重による事故とみられ、特に不審な点はないと思われた。
その同じ朝、花咲港に入港した一隻のサンマ船が岸壁に衝突した。
こちらも単純な過失による事故と思われたのだが、
天陵丸沈没事故と、サンマ船の衝突事故とを結びつける
不穏な噂が天陵丸の乗組員の遺族から流れ始めた。
そのネタに飛びついた不二新報釧路支局長の江上武也は
独自の取材を進め、ついに特種の記事をあげることに成功する。
だが、何者かの策謀によって、江上は釧路を逐われることに。
そして三年後。
かつての事件の関係者が次々と不審死を -
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霧の街・釧路がハードボイルドの舞台として格好であった時代。太平洋炭鉱が海底から石炭を掘削し、サンマ漁で港湾は賑わい、街のいくつもの映画館で裕次郎がかかり、繁華街は現在の歌舞伎町のように賑わっていたという。
夜の闇の中で船員同士の喧嘩がマキリによる殺傷事件に変わっても、日常茶飯のこととして警察もろくすっぽ調べもしなかったという。流れ者やヤクザ者が巷に溢れ返っていた昭和33年という時代。
著者は北海道新聞釧路支局に勤務しており、本書の主人公は網走支局に追われた支局長・江口が、釧路での連続殺人事件を探りに、3年前の事件を掘り起こそうと旅に出るところから始まる。
根室や花崎といったさいは -
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1955年デビューし、1970年以降は本業のジャーナリストとして生きるため小説の筆を折ったという伝説の作家・高城高。大藪春彦よりも少し前の時代において、真にハードボイルドの創始者であった作家こそこの人であったのではなかろうか。
レイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドを愛読し、一方で、地方新聞社の記者として釧路支局に生きた時期、本書は、その実地体験を活かしに活かしての道東を舞台にした短編集である。
1956年生まれのぼくは、生まれた時代のことよりも自分が社会に興味を持ち始めた時代、文化に接し始めた頃の方がよほど詳しくこだわりをもっている。自分の生まれた時代の、さらに道東を舞台にし -
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ネタバレ『X橋付近』
入院中同室になった松川精二から妹の様子を訪ねるように頼まれた高城。教えられた住所に妹の牧玲子はいない。ようやく探し当てた玲子。翌日再び来るように言われ訪れた高城か発見した玲子の遺体とヘロイン。
『火焔』
映画館で警察に包囲された不良たちの向こう見ずな行動。
『冷たい雨』
石原探偵事務所に依頼された殺人事件。被害者・木島小夜子の友人・冬村マリオを訪ねる石原。
『廃坑』
『淋しい草原に』
『ラ・クカラチャ』
『黒いエース』
『賭ける』
『凍った太陽』
『父と子』
『異郷にて 遠き日々』
『われらの時代に』
『親不孝の弁』
『Marini veddy,ved -
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“幻の作家”高城高。
全集第4巻となる本書では、活動休止前の10年に書かれた14編を収録。
麻薬密売にからむ轢死事件を追う捜査官が見た人間模様とは「踏切」。
ある強盗傷害事件を追う新聞記者は、
スクープを狙って仮説を立てるが――「ある誤報」。
小さな企みについて描いた掌編「ホクロの女」。
溺死体となって発見された男は三輪に、
かつて反共産主義の組織の一員として活動していたことを話していた。
その死について三輪は調査を進める「風への墓碑銘」。
無実の罪で投獄された男は、十年前の事件の復讐のため
かつての仲間の前に姿を現すが――「札幌に来た二人」。
雑貨店を営む老女の死の意 -
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長らく“幻の作家”だったが、近年執筆活動を再開した高城高の
初期の短編13編を収録した傑作集。
スパイとして国後島に潜入し、ソ連の警備隊に拘束された男。
日本に帰還した彼を待っていた真実とは――「暗い海 深い霧」。
移動銀行の車を襲った二人組の強盗の顛末「ノサップ灯台」。
海岸で発見された女の死体。
痴情のもつれが原因と思われたが、
なぜか公安調査官の影がちらつく――「微かなる弔鐘」。
とある男女の修羅場を切り取った「ある長篇への伏線」。
罠にかけられ投獄されたアイヌの青年。
彼は脱獄を実行するのだが――「雪原を突っ走れ」。
バンドマンの町田は、ひょんなことから知り合っ -
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日本ハードボイルドの黎明期を支えた作家・高城高の
名編11編にエッセイ3編を収録した作品集。
入院中、同室となった男に、盛り場で雀荘を経営する妹の安否を
確かめてほしいと頼まれた私は、彼女を追い調査をするが、
会う約束を取り付け、時間に訪れた私の前に
彼女は死体となって現れ――「X橋付近」。
不良少年たちの、包囲された映画館からの脱出劇「火焔」。
私立探偵の石原が久々に受けた依頼は、
木島という男の妹が殺された事件の調査。
その陰には市会議員とキャバレー経営者の女が――「冷たい雨」。
荒れ果てた炭鉱に住む家族の肖像「廃坑」。
不自然な難破事件の真相を調べるべく釧路に向か -
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ハードボイルドの持つあくの強さや独特の世界観は感じられなかった。筆致は淡々としていて至極シンプル。事実のみを追いかける温度差の少ない展開は社会派のよう。本作品が作者の唯一の長編らしいが、そう思って読むと、どこか荒削りな出来も仕方ないのかなと諦めもつく。ひとつひとつのエピソードは丁寧にきっちり書いてあるのだが、その繋ぎが決してスムーズとは言えない。沈没事件から三年後に事件は動き出すが、この三年間の空白の必然性もあやふやである。主人公が足を使って関係者の証言を追う姿勢は好きなのだが、これだけの規模になった事件を、駆け足で終わらせるようなラストにはさすがに首を捻ってしまった。もう少し余韻に浸ってもよ