【感想・ネタバレ】冬に散る華のレビュー

あらすじ

侍のごとき刑事あり――激動の明治時代、港町を脅かす大事件に挑む!明治24年10月、函館水上警察署の五条文也警部は、人々の注目を集める見慣れぬ毛皮のコート姿の美貌の女に目を奪われた。函館に生まれながらロシア人の養女になったという彼女の切ない過去を描く「ウラジオストクから来た女」、英露両国の対立が一触即発の状態にまで発展する函館港の危機「聖アンドレイ十字 招かれざる旗」などの4編に加え、文庫オリジナル短編「嵐と霧のラッコ島」を収録。フェンシングの名手五条を筆頭に、函館の平穏を守るべく、日夜街を奔走する刑事たちを活写する、明治警察物語。(単行本版タイトル『ウラジオストクから来た女』を改題・文庫化したものを電子書籍化しました)

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Posted by ブクログ

 『ウラジオストクから来た女 函館水上警察』文庫化に当たって、書き下ろし短編『嵐と霧のラッコ島』を付け加えた一冊である。オリジナル単行本に、微妙なかたちでおまけをつけて、読者の散財を促すのが商法であるならば、これには賛成できかねるが、こと高城高の短編一つが加わるのであれば、ぼくにとってはそこには市場価格では測れない価値があるとしか言いようがないので、出版社の目論見通りになるのは悔しいのだけれど、この作家の短編一つに740円、別に決して、惜しくはないのである。

 さて本書全般の詳細は『ウラジオストクから来た女』のレビューをご参照願うとして、ここで付け加えられた短編『嵐と霧のラッコ島』についてであるが、これは函館というよりも、ラッコ島こと得撫(ウルップ)島を舞台にした水産会社の海獣猟船の遭難事件である。魚とりの漁船ではなく、ラッコの毛皮を求めての海獣猟という辺りに、時代特性の感を禁じ得ないところだが、それ以上に、未だ、千島列島が明治八年以来日本領となっている中、測量もされず、日本の辺境のようなかたちで放置され、経済的にも一部の民間会社しか着目していないという状況、その状況下で起こる海獣乱獲といった未統制の北の海こそが、ここでは浮き彫りにされている。その辺りが本書にて着目されるべきところであろうか。

 この事件を通して、日本の政治が眼の届かない当時の領土を放置したままにしていること、一方で遥かに遠い国の英国あたりが先に測量し、各国が乱獲をしている状況について、登場人物のひとりに憂えさせているのだが、現代に移し替えた北方領土問題についても、歴史的に意味するところを見定めてみようとすると興味深いことに、日本の歴史的国策の無雑作であった有様が、今更ながら浮き彫りになってくると思う。

 敢えて完了したシリーズに新しい一篇を加えさせたのも、当時より、次の年には渡米を考えていた五条というシリーズ主人公の肚づもりと、その後に彼を見舞う運命との無常を語ると同時に、上のようなニッポン国の、地方を顧みない中央支配的構図に対する、作者ならではの反旗的意味合いがあったのか、と敢えて考えさせられる、これは文庫改訂版なのであった。

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2013年05月27日

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