評価は少し辛口にしましたが、前作『モノグラム殺人事件』に比べれば面白く、星4つの評価にも相応しいと思います。(それを星3つにした理由は後述。)
『モノグラム〜』に出てくる登場人物が揃いも揃って魅力がない、というより嫌悪感を感じる人達ばかり(その最たるものが、今回も語り部を務めるキャッチプール)に比べ
...続きを読むれば、『閉じられた棺』の登場人物はどこか憎めず、アガサ・クリスティーが描いてもおかしくないようなキャラクターが集まっています。語り部のキャッチプールも、前作のようなこちらが辟易するような独白は今回控えているので、その分少しは読みやすくなっていると思います。
『モノグラム〜』のメイン・プロットがクリスティーの《十八番》の応用で興味深いものでありながら、他にも色々盛り込みすぎたために、話が散漫となったのに比べれば、『閉じられた棺』のプロット自体はシンプルであり、
謎その1「なぜ被害者は殺されねばならなかったのか」
謎その2「なぜ被害者の死体はあのような状態であったのか」
という2つの謎で構成されており、その真相もなかなか意外性があります。
さて、ここからは本作の欠点です。相変わらず作品全体が冗長であるのは否めません。1つ1つについて丁寧に書かれてはいるのでしょうが、書き込み過ぎのような感じがします。クリスティー文庫に換算して、前作『モノグラム〜』の487ページ、本作490ページという文量は、クリスティーのポアロ・シリーズの中では格別長いわけではありません。(『ナイルに死す』が573ページ。)しかしながら、クリスティーの諸作に比べて簡潔な文体ではないので、読むのが一苦労です。
《以下、直接的なネタバレではありませんが、物語の構成に関して少し触れているので、ご注意下さい。》
例えば、第34章(405ページ)から事件関係者を集めたお馴染みの《ポアロ劇場》が始まるのですが、第36章の最終行(456ページ)にて「謎その1」が解明し、そこまでの流れは問題ありません。問題は、その後の第37章(エピローグの1つ前の最終章)において「謎その2」が解明するのが474ページ付近、謎その1とその2の解明の間に17ページも費やしているのですが、そこで《ポアロ劇場》の主導権を握っているのは、ポアロさんではなく犯人側。そのせいもあって、謎その2が解明されたときのカタルシスが減弱しています。
これが、本当のエルキュール・ポアロであれば、(すなわち、本当のアガサ・クリスティーであれば、)謎その1とその2の真相をもっとテンポ良く披露することで、劇的な効果を場内に(読者に)与えることを狙うはずです。そういうこともあって、この作品の評価を減点しました。