メドトロニックの成功の証拠は、時価総額が11億ドルから600億ドルになった事ではなく、健康を回復し、満たされた人生を取り戻した人の数が、30万人から1,000万人に増えた事。
フリードマンの哲学に従い、株式保有期間が平均8年から6ヶ月と短くなった。
経済学者にとっては、フリードマンの言う株主価値のほうがはるかに単純で計算しやすく測定も容易だが、これでは会社の健康度、戦略の有効性、投資の利点、顧客満足度、社員の業務に対する取り組みの度合いや会社への愛着心と言った、長期的で持続可能な価値に影響を与える様々な要素を表示できない。
コンシャスカンパニーとは、
主要ステークホルダー全...続きを読む 員と同じ立場に立ち、全員の利益の為に奉仕するという高い志に駆り立てられ、
自社の目的、関わる人々、そして地球に奉仕するために存在する意識の高いリーダー(コンシャスリーダー)を頂き、
そこで働く事が大きな喜びや達成感の源となるような活発で思いやりのある文化を根ざしている会社。
意識の高いビジネスリーダーが力を合わせれば、企業と資本主義の持つ途方もない力が解放され、あらゆる人々が目的、愛情、創造性に満ちた人生を生きられるような世界を創り出せるはず。
自由競争資本主義の果実例
・200年前まで世界人口の8割は極貧だったが、今では16%まで下がった。
・世界人口一人あたりの平均所得は1800年以降で1,000%増加。先進諸国限定では1,600%。日本では1700年以降で3,500%。平均的なアメリカ人の生活水準は1800年以降で1万%向上。韓国のGDPは1960年以降で260倍。
・公衆衛生、医療、農業生産性の向上により、世界人口が10億人を超え、1804年から70億人まで一気に増加した。
・過去200年の間に平均寿命が30歳未満から68歳にまで伸びた。
・過去40年の間に世界の栄養失調者の割合は26%から13%に下がった。
・過去数百年の間で識字率がほぼゼロから84%にまで上がった。
・120年前には、民主主義国家でさえ、女性や少数民族には参政権がなかったのが、今では普通選挙を採用する国に住む人の割合は53%になった。
・自由経済諸国の上位25%は生活満足度指数が10点満点中7.5点。下位25%は4.7点。
アダムスミスの「道徳感情論」は「国富論」よりも17年前に出版されている。しかし残念な事に道徳に関する方は殆ど無視され、資本主義は歪んだ形で発展し、その人道的側面が欠落してしまった。
経済学者達は、経済システムに関する優雅な数学モデルを作ろうとするあまり、「我々人間は他の誰よりも先ず自己の経済的利益を最大化する存在だ」という偏狭な見方を編み出した。
「ビジネスとはできるだけ多くの金を稼ぐ事ではない。ステークホルダーの為に価値を生み出す事だ。」エド・フリーマン
自由競争資本主義の真善美、高潔さを示せるような、内容の豊かな、道徳的に説得力のある物語を示す事。
イモムシはサナギになるまでの数週間、100倍の大きさになるほどひたすら食べる。やがて細胞が活性化してサナギとなり、蝶となる。蝶は植物の受粉にとってなくてはならない貴重な役割を社会で担う。このたとえは企業にも当てはまる。企業はイモムシレベルの生き方を選ぶ事ができるが、進化して世界を美しくする蝶にもなれる。他の誰もできなかった方法で人間の可能性という「花粉」を相互に受粉させ、自社が関わる全ての人々に多様な価値を生み出せる素晴らしい企業へと進化できる。人間とイモムシの違いは「意志」。我々は進化のタイミングを自然に任せるのではなく、自分が何のために存在しているのかを確認する努力を自らの意志で行い、個人レベル、組織レベルでの成長と発展を図る事ができる。
フリン効果:人のIQは過去数十年にわたって10年毎に4%づつ上昇している。
2001年は世界の電話回線は20億だったのが今や70億以上。
1989年、アメリカで史上初めて40歳以上の人口が未満のそれを上回った。つまり、社会全体の心理的重心が中年期以上に移行した。この時代精神は、他人への思いやりや施し、意味と目的を求める気持ち、コミュニティや過去からの遺産等である。アメリカの成人年齢の中央値は44歳、欧州全体で40代後半、日本は50代。その内世界中でこれが支配的な傾向となる。
ストレスと恐怖ではなく、愛情と思いやりに基づき、社員が情熱的で仕事に熱中しているような企業を思い描いてみよう。集中力、協力、仲間意識が響き合う中で日常があっという間に過ぎていく。しかし社員は1日が終わっても疲労困憊で燃え尽きることはない。自分がこの仕事を始めた時の気持ちを忘れず、次の日の仕事に向けて新たなやる気をかき立てられている。顧客の幸福を真剣に考え、彼らを単なる商売の対象ではなく、血の通った人間、奉仕する事に喜びを感じる相手として捉えている企業を考えてみよう。この会社は顧客を巧妙にあざむいたり、ぞんざいに扱ったり、無視したりしない。思いやりのある人なら、愛する家族を自分の利益の為に利用することなどしないはず。そして社員は顧客に奉仕する事、つまり他人の生活を向上させる事がいかに嬉しいかを経験している。他にも次のような企業を想像してみよう。外部の人や会社を身内として受けいれ、サプライヤーを身内として招待し、自分の顧客や社員に対するのと同様の愛情と配慮をもって接する企業。地元の振興に真剣に取り組み、愛情を注ぐ企業市民として、市民生活の向上に尽くす企業、競合他社を叩き潰すべき敵ではなく、優れた製品やサービスを共に追求する仲間、その過程で様々な事を教えてくれる師として見る企業。カーボンニュートラル以上の事に想いをいたし、生態系を育てて持続的な生命力を取り戻す治癒力にならんとする企業。
社員を大事にし、一度勤めたら殆ど誰も辞める事のない企業。
人々の肩越しにきちんと仕事をしているか監視する人間を必要としない、管理職の少ない企業。
進化を続ける生物のように、社員一人一人が自らを管理し、動機づけし、組織化し、問題点を直すような企業。
助言を与え、勇気づける事によって人々を導くリーダーを選び、もり立てていくような企業、リーダーは自社の社員や会社の存在目的については情熱的に考えるが、権力や個人的財産の拡大には殆ど関心がない企業。
自社が接する全ての人に、社会面、知性面、情緒面、精神面、文化面、物質面、環境面からの富と幸福を提供しながら、何十年にもわたって毎年優れた業績を達成し続ける、まさに多面的な価値を次々と生み出すという好循環を実現している企業。
地球上の資源が限られているのに対し、人類の創造性は無限大である事を認識し、人々がとてつもない、ほとんど奇跡的な可能性を発揮できるようになるための条件を常に促進続けている企業。
これらを実現しているのが、ザ・コンテナ・ストア、パタゴニア、イートン、タタ・グループ、グーグル、パネラ・ブレッド、サウスウエスト航空、ブライト・ホライズン、スターバックス、UPS、コストコ、ウェグスマンズ、REI、ツイッター、ポスコ、ホールフーズ等。
コンシャスキャピタリズムとは、あらゆるステークホルダーにとっての幸福と、金銭、知性、物質、環境、社会、文化、情緒、道徳、あるいは精神的な意味でのあらゆる種類の価値を同時に創りだすような、進化を続けるビジネスパラダイムの事。この新しいシステムは、今の時代精神、そして変化し続ける我々という存在の本質にはるかに調和している。この目的は善行を積んで道徳的に正しくあろうとする事ではなく、あくまで自社の存在目的、世界への影響、そして様々な顧客層やステークホルダーをより意識した、ビジネスに関する一つの考え方である。
コンシャスカンパニーの4つの柱
存在目的:自社の存在する理由、目的を意味する。これに説得力があれば、全てのステークホルダーの間には驚くほどの相互作用が発生し、創造性やイノベーション、組織全体としての本格的な取り組みが促される。自社はなぜ存在しているのか?なぜ存在する必要があるのか?どのようなコアバリューが企業を活性化させ、全てのステークホルダーを一体化するのか?
ステークホルダーの統合:全員が共有目的とコアバリューによって動機づけられており、全員の価値の最適化を目指すべきである事を認識している。トレードオフの関係が出来そうになると、創造性に関する無限の力を発揮してウィンの6乗(社員、サプライヤー、顧客、地域社会、環境、株主)の解決策を創りだして紛争を乗り越える。
コンシャスリーダーシップ:コンシャスリーダーを支えるのは、自社の存在目的を達成したい、そしてあらゆるステークホルダーの為に価値を創造したいという気持ち。高い分析知能、情緒的知能、精神的知能に加え、高度に発達したシステム知能が備わっている。システム知能とは、互いに依存し合う全てのステークホルダー同士の関係を理解できる能力。彼らの思考方法は、違いや紛争、トレードオフばかりに注目する分析的頭脳よりも、本質的な部分ではるかに高度で複雑。
コンシャスカルチャーとコンシャスマネジメント:コンシャスカンパニーの文化は企業にとって偉大な力と安定の源であり、その目的とコアバリューは時間が経過し、リーダーが変わっても生き続ける。コンシャスカルチャーは、存在目的、ステークホルダーの相互依存関係、コンシャスリーダーシップに資する企業の本格的な取り組みから自然と醸成されてくる。大抵は、信頼、説明責任、透明性、誠実、忠実、平等、公平、個人的成長、愛、思いやりの特徴を共有する。コンシャスマネジメントは、自社のカルチャーを大切にしながら、機能の分散化、権限委譲、協力をベースとする手法で経営される。
代表的なコンシャスカンパニー数社の株価は、過去15年間で市場全体の10.5倍のパフォーマンスを達成している。
人生のすべての結果を完全にコントロールする事などできないが、ビジネスではそれが出来るはずと言う信念に基づく幻想を創りだしてしまった。われわれにできる事は、自分たちの行動と反応をコントロールする事だけ。
従来のビジネスでは市場シェア、利益率と言った具体的な数値目標がマネジャーに与えられるが、このような基準は原因と結果を混同する。単に抽象的な数値にすぎないこうした目標を達成させる為にマネジャーはサプライヤーを絞り込んだり、社員を解雇したりと、ステークホルダーに有害な行動に手を染める。こうした行為は次の四半期には望ましい業績をもたらすかもしれないが、将来にはその利益よりも遥かに大きな問題の種が植え込まれる事になる。ここで重要な事は、自分たちがコントロールできる事に集中する事。それは自分の行動と反応。正しい行動は必然的に良い結果をもたらすと信じる事。
CSRは、ビジネスはそもそも汚れているかせいぜい道徳的に中立だと言う考え方に立脚している。コンシャスカンパニーは、全てのステークホルダーに価値を創りだす事こそがビジネス成功の本質であると考えており、コミュニティも環境も重要なステークホルダーなので、これらに価値を創りだす事は経営哲学の本質であると同時にコンシャスカンパニーの運営モデルである。CSR的な物の考え方にとらわれるのではなく、市民であるという自覚と社会に対する自分なりの姿勢がビジネスの根幹に構築されなければならない。
企業は人々をリソース(資源)ではなく、ソース(源)と見なければならない。力を与えられ、やる気まんまんとなった人間以上に力強い想像力の源泉はない。
「会社よりも大きなミッションを選択せよ」ジェフ・ベゾス
「私たちは人々の身体に心臓ペースメーカーを入れているのではない。人々に充実した生活と健康を取り戻しているのだ」アール・ベッケン
存在目的とは何か?単純に言えば、それは自分がどうやって世の中を良くしようとしているのか?についての明確な意思表示である。自社の目的を持ち、それをはっきりと情熱をもって説明できれば、全てが理に叶い、全てが淀みなく進むようになる。自分のしている事が心地よく、達成までの道のりがはっきりと見える。
存在目的の例
ディズニー:想像力を駆使して数百万の人々に幸福をもたらす
ジョンソンエンドジョンソン:痛みを苦しみを和らげる
サウスウエスト航空:誰もが自由に空を飛べる機会を提供する
ピボットリーダーシップ:素晴らしいリーダー=素晴らしい社会
チャールズシュワブ:いつも、いつまでも個人投資家の側に立つ
BMW:車を運転する人々全てに喜びを提供する
米国動物愛護協会:動物を讃え、残虐行為に立ち向かう
アメリカ赤十字:非常事態に直面した時にアメリカ人が崇高な行為を行えるように支援する。
「手段は完璧で、目的が混乱している、というのが私たちの時代を特徴づけている」アインシュタイン
最高の利益を獲得するには先ずは存在目的を意識する事。恐怖とストレスではなく、愛と思いやりでビジネスを構築する事。そして逆境を経験し、そこから成長する事。
企業は利益の最大化から存在目的の最大化へと重点を移す必要がある。意味の渇望は人間が生きる上でなくてはならない欲求だ。企業はこれを認識し、応える事で、社員やその他のステークホルダーの中に殆ど埋もれている、仕事への情熱や真剣な取り組み姿勢、創造性、活力の源泉を大量に解き放つ事ができる。
存在目的を最も重視する会社にとっては、地位や職務に関わらず自社の存在目的と強く調和する人々を雇う事が極めて重要。
誰かを指導的なポジションに昇進させる場合には、社員の情熱と会社の存在目的が一致しているかどうかについてよく考慮すべき。
個人、企業の存在目的は、「真(真実と知識の探求)、善(他者へのサービス)、美、高潔(世界を変える)」さのどれかもしくは複数と繋がっている。
存在目的の探索方法例
社内で指導的立場にある150人に「自社はなぜ存在しているのか?」と質問し、次に、「なぜそれほど重要なのか?」と5回質問する。さらに「自社がなくなったらどうなるのか?」「私が自分の創造的なエネルギーをこの組織につぎ込んでいるのはなぜか?」と質問する。答えが書かれた数百枚のシートを集め、本当に目指すべき目的に到達させる。
残念な事に、多くの企業は時間の経過と共に、生き残り、成長、市場環境の変化への対応、あるいは単に金儲けに心を奪われ、会社を設立した時の目的を忘れてしまう。古い企業を率いている人は、考古学者が都市や文明がどのように発展してきたかを発見しようとするのと同様、一度自社の歴史を振り返って会社の目的を再発見する必要があるかもしれない。
ステークホルダーの中には疑り深い人もいる。成功したければ、その導入に向けた継続的努力を怠ってはならない。この作業は組織の全階層が関わる必要がある。存在目的は入社オリエンテーションや社員教育プログラムに組み込む。顧客やマスメディアにも説明する必要がある。経営トップはあらゆる重要な意思決定で自社の存在目的を念頭に置き、業績評価やR&D、戦略策定の中にも組み入れなければならない。
従来型の企業は、あらゆるステークホルダーの中で投資家が最も有利になるようなトレードオフ関係を作り出すマネジャーが優秀とされる。コンシャスカンパニーはステークホルダー全体のシナジーが見つかる事を知っている。
「私たちは、全てのステークホルダーが同じ種族の一員と感じられるような環境作りを心がけています。透明性、優れた顧客サービス、最高の品質、環境改善に向けた取り組み、、全ては社員やお客様だけでなく、全てのステークホルダーにとってとても重要です。どのステークホルダーにも全く差がありません。ステークホルダー全員が同じ仲間として平等に扱われているのです。」ケイシー・ハーン パタゴニアCEO
経営者の責任は、会社に合った人々を採用して十分に教育し、社員が豊かになり、生き生きと働ける環境を整える事。そうした社員は顧客を喜ばせられる。顧客が喜べばビジネスは成功し、投資家は幸せになれる。この好循環を作り出す事。
大抵の企業内会議には最も重要な関係者が出席していない。それは顧客。そこでベゾスは会議を開催する場合には誰も座っていない椅子を必ず用意し、参加者に顧客の存在を意識させている。
良い品を安い価格で購入する事にしか興味のない顧客がいる一方で、目的や価値観が自分に合う企業と取引をしたいと考える顧客も増えている。
明確な存在目的を持たず、単に顧客が何を欲しいかを理解しようとするだけの会社は本当に重要なものをつかめない。行動に心がこもらなくなり、顧客の望む商品やサービスを言われるがままに提供し、ついには顧客が望むものこそが正しい選択なのだと宣伝するようになる。
顧客の要望に応えるのではなく、顧客を教育しなければならない局面も多い。顧客に私たちから影響を受けても良いと言ってくれるようになる事。
コンシャスカンパニーはマーケティングに対して従来型のビジネスとは異なったアプローチを採る。偉大なマーケティングとは、自分にとって最も重要な、人生にとってプラスとなるニーズは何かを顧客に理解してもらい、それを満たす事で彼らの人生を幸せにする事。自社に都合のよい商業主義に陥るのではなく、本当の価値を提供する。その意味では一種の癒しと言える。
企業が顧客の幸福の為に心から尽くすと、顧客の側から様々な形で報いられる。無償で極めて効果的な営業マンになってくれる。ソーシャルメディアを通して好きな会社に対する支持の声を多くの人々に伝えてくれる。消費者に「売りつける」のではなく、利益を共有する人々の価値を高める方法に長けた存在目的を持つ企業にとって本当の意味でマーケティング上有利な時代が到来している。
「愛する事と働く事は私たちの人間性を支える礎。」フロイト
仕事にはjob, career, callingの三階層がある。jobは生きていくために金を稼ぐ以上の意味はない。自らの本来の生活は夜や週末にやってくる。careerは出世階段を抜け目なく上がりながら高い責任と報酬を得ようと努力するが、年俸以上の価値を仕事に置いてない。極端な話、キャリア重視の人は自分本位である為、他人に迷惑をかける。callingは天職。社会的意義を実感して夢中になれる。最も生き生きと輝き、自分らしくなる。これこそが人が目指すべき状態。
会社は社員が自主性を発揮できる場を増やすべき。3つの要素(目的の一致、技能向上、自主性)が揃うと、内発的動機づけが高まり、結果、創造性、エンゲージメント、パフォーマンス、満足感が向上する。
ホールフーズでは、CEOから新入社員に至るまでの全員に同一の福利厚生制度が提供されている。この制度に感銘を受けない人はいないようで、社内中に連帯感を生み出している。
自分が誰でどのような価値観を持ち、ビジネスの哲学や目的、戦略は何かを繰り返し伝える努力をすれば、それを共有できる株主や投資家を引きつけ、支持層を拡大できる。
米国の場合、株式保有期間は1940年代には約12年だったのが60年代には8年になり、今や約半年となっている。
ホールフーズでは、常に進化し続ける存在目的やビジネス戦略、私たちが成し遂げようとしていることは何かを理解してもらう為に、少なくとも三ヶ月に一度は業績発表をした後で当社株を長期保有している投資家に向けて話しかけ、常日頃から投資家から見て可能な限りオープンでわかりやすい存在となれるよう努力している。
上場企業のCEOの多くがウォール街や金融アナリストの予想する業績を達成しようと会社を経営し始める。このアプローチは短期的には効くかもしれないが、長期で見ると自社の存在目的を達成しようという意欲が薄れ、ステークホルダー全員の為に長期的な価値を作り出す努力をやめてしまう。アナリストの短期的な投資格付けに振り回されるのは非常に危険。
サプライヤーとの関係には、「取引モード」か「関係構築モード」のどちらかがあり得る。サプライヤーをあたかも自社の顧客であるかのように考えよう。どのサプライヤーとも公平に接し、ニーズを汲み取り、自社とのビジネス関係で利益を獲得できるよう気を配り、時間をかけて関係を向上させよう。
コンシャスカンパニーはサプライヤーに投資して成長の後押しをする。社内にwin win成長局を設立し、十分なスタッフを配置しよう。
ムンバイで自社ホテルがテロに遭った時のタタグループの対応。宿泊客を安全な場所へと何度も案内している時に撃たれた社員も多く、中には宿泊客の前に立って銃弾を浴びた者もいた。総支配人も妻と二人の息子を亡くしたが、お悔やみを述べにきた会長に再建を誓い、テロ襲撃後の僅か21日後に再オープンした。
・死亡した社員の家族に、その配偶者または親が亡くなるまで住居を保証。
・金額に関わらず、あらゆる貸付金の免除
・死亡した社員に支払われていた最も高い給料をその配偶者または親が亡くなるまで支給。
・子供と扶養家族の大学卒業までの教育費を完全保障。
・扶養家族全員に医療費を生涯支給。
・対象者全員に生涯にわたってカウンセラーを提供。
さらに、ホテル近郊や数マイル離れた駅で殺された人々の家族にまで援助金や支援を広げた。同社の人事担当責任者がこの支援プランを会長に示した時、彼の反応は、「それにはいくらかかるのかね?当社にそれを払う余裕はあるのか?我々は悪しき前例を作っているのではないか?」ではなく、「それで十分だろうか?もっと出来る事はないか?」だった。
タタの事業はタタ一族のものではない。親会社タタ・サンズの株式は、三分の二が公益信託に所有されている。タタは、「企業とは社会資本があってこそ栄える。私たちは先ずある会社の社員ではなく、一人の市民である事を認識、行動している。自由企業にとって、コミュニティはビジネスにおける単なるステークホルダーの一つではない。コミュニティの発展こそが私たちの存在目的に他ならない」としている。
食用として毎年屠殺される陸生動物の数は世界でおよそ600億。
一人当たりGDPが2,000-8,000ドルの間は経済成長は環境に有害だが、これを超えると状況は好転する。
対立には「抑圧、妥協、統合」の3つの対応法がある。前者二つは両者が幸せにならないが、「統合」は創意工夫によって、誰もが妥協する事なく、全員にとって機能する解決方法を作り出す。これこそ我々が追求すべき事。
各ステークホルダーを別個に考える事は、要素還元主義であり、ステークホルダーと自社との関係やステークホルダー間の関係を無視している。個別の要素を分析するだけでシステム全体を無視しては、複雑で進化を続ける自己対応型の組織を上手く理解できない。企業はステークホルダーがまとまった単なる集合体ではない。
様々なステークホルダーが共に作り、共に進化させている相互関係、相互協力、共有の存在目的や価値観が企業を成り立たせている。レンガをつなぐモルタルはレンガと同じくらい重要。
活動しているビジネスシステムについて、その中に存在している相互利益を目指す自発的な協力の機会や相互依存関係などの全体像を完全に理解できれば、実に美しく荘厳にさえ見えるかもしれない。
ケンウィルバーが「統合意識」、ドンベックとクリスコワンが「第二層の意識」と唱えた全体論的なシステム知能は、各自の意識にとっても集団の意識にとっても一歩前進した考え方。21世紀に入り、この種の思考法の重要性が高まっている。全体論的なシステム知能をもって考える能力がないと、コンシャスキャピタリズムについて我々が語っている殆どの事が理解できないだろう。ステークホルダー間の分離と対立は認識できても、ステークホルダーをうまく統合する能力で実現する団結と調和の意味が飲み込めないからだ。南洋諸島の出身者に雪とは何かの説明を試みるようなもの。彼らにはそれを理解する必要な経験がない。
あらゆるステークホルダーのニーズや懸念に同時に対処する事は簡単な事ではないが、間違いなく必要な事。負担と利益をどう分配するのかではなく、全員の為にいかに多くの価値を作り出せるかを問う事。
ホールフーズは5年毎に「フューチャーサーチ」を実施している。社員、サプライヤー、投資家、一部の取締役に経営幹部の全員を集め、毎回100-125名で3日間開催する。会社にはどう進化してもらいたいか?ステークホルダー全員が共有できる夢は何かを皆で思い描く。参加者全員が具体的な視点を持ち寄る。
全員で思い描いたことこそ、創り出し、現実化できる。
コンシャスカンパニーは情緒的にも精神的にも成熟したリーダーに率いられている。このようなコンシャスリーダーを支えているのは、権力や富への個人的欲望ではなく、企業の存在目的とステークホルダーに奉仕したいという強い気持ち。軍隊的でも報酬目当てでもなく、使命感のあるリーダーとして、ガンジーの「世の中を変えたいと思うなら、私たち自身がその先駆けとならなければならない」を具体的に実践する。
過去数千年にわたって、人間社会と殆どの社会制度は、攻撃、野心、競争、左脳支配など、主に「男性的に」運営されてきた。しかし、今では、配慮や思いやり、協力、右脳的な特質といった「女性的な」価値観が大きく注目されている。コンシャスカンパニーはリーダーが両性の特質を具現化した存在であることは間違いない。
リーダーシップは変化と変革を促す力の事。マネジメントとは効率性の高さと実践力。リーダーは企業というシステムを高レベルで設計し、構築し、再設計する。マネジャーはシステムが円滑に動くように働きかけ、正常に動かない時には是正措置を講じる。リーダーの体内にはシステムに関する感受性が備わっていて、人々の集団が一つのシステムとしてどのように動くのか、そしてのその行動を変えるにはシステムをどう変えればよいのかを理解している。
コンシャスリーダーはより良き未来を実現する為に仕え、そのような未来を導き、その実現の為に力を尽くせる機会に大きな喜びと美しさを感じる。使命を実現する為に生き、情熱をほかの人々と共有する事を強く望む。仕事に没頭してもちっとも疲れないどころか元気と活力を回復してしまう。そのような「自分らしさ貫く」人々。
偉大なリーダーシップとは自分らしさを貫くリーダーシップの事。自分らしさとは性格ではなく、自分は何者かという事。自分の存在目的は何かを知っているという事。信念、価値観、情熱、原則などあなたが心の拠り所とする、本当の意味であなたをはっきりと特徴づけるもの。
IQリーダーシップの場合、ビジネスが部分最適、つまり短期的利益、あるいは一部のステークホルダーだけの利益に傾く。21世紀の複雑世界で効果的なリーダーシップを発揮するには、EQ、SQ(精神的知能、、生きる意味、価値観、目的、気高い動機を探求する上で必要不可欠。人生の中で、真善美を実現し、思いやりを発揮する知能)、SYQ(システム知能、、物事を大きな視野で捉え、システムの様々なパーツが互いにどのように繋がり、時間と共にどう動くのかを理解する知能)も必要。
サーバントリーダーは、寛容さという気高い美徳を養い、善、真実、愛、救済や啓発といった意識を高い水準まで押し上げてくれるような個人と個人を繋ぐ価値観を理解する。
コンシャスリーダーが備えるべき最も重要な美徳は誠実さ。それは、どのような環境下でも、自分の価値観に忠実だと思える事をする。仮にかなりの個人的犠牲を払う事であったとしてもなおすべき正しい事をする事。
コンシャスリーダーには愛と思いやりを示す偉大な力がある。リーダー達が自分の知能と自分以外を思いやる能力を組み合わせると本当の力を発揮できる。
「最高の力とは正義が要求し実現する愛であり、最高の正義とは、愛を否定するあらゆるものを正す力である。」マーティンルーサーキングジュニア
愛の対極が恐怖。恐怖に覆われた組織では真の創造力やイノベーションは生まれない。恐れおののく人は驚くほど用心深く、自己弁護的で自分勝手。
コンシャスリーダーは、何かとてつもない方法で世界を良くしたいという情熱を持っている。現状を維持するのではなく、有益な影響を及ぼす責任を自ら背負い、人類の苦しみを和らげ、他の人々の繁栄を手助けしたいと思っている。
コンシャスリーダーは、各個人に備わっている適正や天賦の才能を高く評価し、人の強みに働きかける。そしてその人が成功し、組織に貢献できるような地位や立場に配置する。
コンシャスリーダーはもの静かで落ち着きがあり、個人的な魅力や個性の力ではなく、具体的な事例で人々を導き、長期間保つ偉大な組織の構築に力を注ぐ。一方、カリスマ的なリーダーは自分への依存度がかなり高い組織を作る。
リーダーが成果を上げられたかどうかの本当のテストは、後継者がいかに組織を運営できるかで判断すべきだと主張する専門家がいる。
今後は従来のリーダーシップは通用しない。今世紀のリーダーシップは、存在目的、愛、思いやり、同情の持つ力に基づくものである事。
コンシャスリーダーシップとは、男らしさと女らしさ、感情的な心と知能的な心、精神と魂、西洋のシステムに東洋の知恵を融合させた、完全に人間的なリーダーシップである。
コンシャスリーダーシップは、個人レベルでは平和と幸福、コミュニティでは尊敬と団結、組織にとっては職務の達成が実現する。
自分自身の存在目的を発見する為には、自分が本当に大切だと思っているものは何かを自問すべき。最も情熱を感じる対象は何か?最も強く望んでいる事は何か?何もかも思い通りに出来るとしたら何をするか?落ち着いて自分の心のささやきに注意深く耳を傾け、その指示に従おう。
心の声に耳を傾け、それに従う事には二つの重要な意味がある。先ず、自己を知る能力を高め、自分の心に本当に従っている時と、迷っている時が判るようになる事。心の核心に謙虚に従っていると、人生の真の情熱に触れる事になる。二つ目は、恐怖との付き合い方を学ぶ事。実は、恐怖を感じる瞬間に自分が「怖い」と思う対象が存在している事は滅多にない。恐怖とはほとんどが将来に関する不安。自分の意識を今この瞬間に集中すると恐怖は急速にしぼむか消える。自分自身の心の声に改めて耳を傾け、自分の存在目的を見つめ直す事。
成長する為に有効な方法はロールモデル、つまり自分が最も尊敬でき、是非とも真似をしたいと思う人物を見つける事。その人々の良い面を真似する努力を続ける事。
「意識が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。」ラルフ・ワルド・エマーソン
ネガティブな感情が生まれた時は、それに気付いた時に中立化する方法を学ぶ事。
システム知能は関係性を見る知能。物事がどのように繋がっているのか、その関係を見る。
現在の自分よりも高レベルの複雑な発展段階を完全に理解したり評価する事はできない。高いレベルは下から見てもよく理解できない為、大抵は無視されるか否定されるか、軽蔑される。自分は人間の発展段階の最高位には達していないのではないかと考えるだけで自尊心は脅かされる。だが、コンシャスリーダーは、いかなる種類の教条主義にもはまらず、自分の意識を様々な方法で高めようと努力する。個人的な意識が進化すれば、個人的に利益となるだけでなく、他の人々や組織の意識変革にも大きく貢献する。
出会う全ての人々を自分の師と仰ぐ。他人から何を言われたりされたりしても、自分を育てる為にそうしてくれていると考えるようにする。すると、予想もしなかった面白い事が起こる。多くの人があなたの姿勢や態度に応えてくれるようになる。そう行動する事によって、周囲の人々が一段高い人になる機会を与えているのだ。
1日の最後に感謝日記を書く。寝る前にリラックスできるし、人生や他の人々との関係について新たな視点を得られる。
瞑想やヨガ、太極拳、呼吸法、アファーメーション、ビジュアライゼーション、祈りといった行為はコンシャスリーダーへと成長するのにとても有用。一瞬一瞬にしっかりと意識を向ける訓練を積む事。
コンシャスカルチャーの7つの特徴(TACTILE)
・信頼(Trust)
・説明責任(Accountability)
・思いやり(Caring)
・透明性(transparency)
・誠実さ(Integrity)
・忠誠心(Loyalty)
・平等主義(Egalitarianism)
愛とは高いレベルでの共感、感謝、団結心、他者を受け入れる気持ち。
会社が愛と思いやりを表現できる2つの事。
愛と思いやりのある人を採用して昇進させる事。
愛と思いやりを公然と表現する事を認める事。
ホールフーズでは、あらゆるミーティングを自発的な感謝の表明で終わらせる。ミーティングの最後に時間をとって参加者の誰かが別の参加者に感謝する機会を与える。
コンシャスカンパニーでの経営者の役割
会社にふさわしい人、個人的な情熱が会社の目的と一致しているような人を採用する。
それぞれの強みを十分に発揮してもらえるようその人に合った役割を与え、自分のやりたいようにできる自由を与える。
社員が思い切り活躍し、成長しながら組織が効果的でしかも効率的に目的を達成できる機会を創り出す。
コンシャスマネジメントの4要素
分権化
エンパワーメント、、説明責任、運命共同体
イノベーション
協力
「どうすれば社員がもっと組織に尽くしてくれるだろうかではなく、社員が仕事に傾ける並外れた資質に見合う組織をどう築くか。」と自問する事。
コンシャスマネジャーは殆ど統制しない。自己管理の余地が広がるような条件を整える事。
自社をコンシャスカンパニーへの変革に本気で取り組もうと決めた場合、外部コンサルと契約して、コンシャスカンパニー監査を実施してもらい、TACTILEの7つをどの程度実現しているのか等を評価する。次に存在目的を検討する。自社は明確に定義され、誰もが心から共感できる目的を持っているのか?その目的は今日の世界に何らかの関係があり、本当に世の中から求められているのか?全てのステークホルダーを奮起させるのか?。次に、ステークホルダーに向き合う姿勢を見直す。ステークホルダー自身が気付く前にそれを予測できる能力を身につける事。相手からなにかを引き出し、利用するのではなく、価値を創造し、奉仕するという姿勢へと転換する。次に、文化を変える。リーダーが魅力ある目的を明確に説明し、ステークホルダーに心からの決意表明を行っても、会社の文化がコンシャスカンパニーの原理に無関心、あるいは敵対的である場合、恐らく不毛な結果になる。コンシャスなあり方に特に有害であるか逆行している側面が自社の文化に潜んでいればそれをよく認識する事。
「未来とは無秩序だ。人類は二足歩行を始めて以来、5度や6度は歴史的大転換に遭遇してきた。自分がわかっていると思っていた殆どあらゆる事が間違っていた。それに気付いた時こそが素晴らしい。発展のチャンスなのだ。」
ミレニアム世代(1980-2000年生まれ)から、将来、社会や経済の進化を劇的に加速させるようなコンシャスカンパニーやコンシャスNPOを作る企業家が現れるはず。ミレニアム世代は、仕事を「生活とバランスを取らなければならないような」別個の活動とは考えていない。仕事は重要な生活の一部なのだ。職場とは、新しい友達を作り、新しいスキルを身につけ、大きな目的へと繋がる機会を与えてくれる場であってほしいと考えている。我々の研究によると、60年代以降で最も社会的にコンシャスな世代。
いつかあらゆる企業が存在目的を意識して活動し、全てのステークホルダーの利益を統合し、コンシャスリーダーを育てて登用し、信頼と説明責任、思いやりの文化を築き上げる日がやってくる。
1776年、トマス・ペインが発行した「コモンセンス」は、「恐らくここに述べている意見はまだ世論になっていないので、一般から支持される事はないだろう。物事を間違っていると考えようとしない長い間の慣習によって、全てのものが表面上正しいかのような様子を示すものだ。そして初めはだれもがこの習慣を守ろうとして恐ろしい叫び声を上げるのだ。だがまもなく、その騒ぎは静まる。理屈よりも時の方が考え方を変えさせるのだ。」の一節から始まる。この16ヶ月後、独立宣言が発表される。
コンシャスキャピタリズムが支配的なパラダイムになる日はいつか必ずやってくる。理由は単純、そちらのほうが優れたビジネスのやり方だからだ。
なるべく早くチームメンバーを全員集めて次の質問をする事。自分たちの会社はなぜ存在しているのか?どのような価値を創り出しているのか?ステークホルダー全員にとっての価値を高める為にはどうしたらいいか?トレードオフの状態からどうやったら脱却できるか?愛や喜びや意義に満ちた職場をどうやって作るのか?顧客やサプライヤーに愛情と思いやりをどうやって示すのか?採用や昇進のシステムをどう変えればよいか?コンシャスキャピタリズムの4つの柱に照らしながら企業のあらゆる側面を密接に検討する必要がある。
意識の高くない企業は、投資家の為にいかに多くの金融資産を生み出すかに全力投球する。それ以外の誰もこの目的を達成する為の手段に過ぎない。ところが利益ばかり追い求めているにも関わらず、次第に目標を達成できなくなってくる。次に経営者がやる事は目に見えている。経営者が「利益の最大化を目指す」と誇らしく宣言し、大々的に内外に伝えられる。「諸君らもまた、自分の利益を最大化する為に全力投球してほしい」と言った時、社員はなるべく働かずになるべく多くの報酬を得ようと心に決める。サプライヤーはできる限り商品を顧客に押し込み、手間を省略して自社の利益の最大化を目指す。政府とコミュニティはどうすれば企業からなるべく多くを獲得できるかを考える。顧客は隙あらば会社を利用しようと手ぐすね引いている。こうして、誰もが「何かを与えよう」ではなく、「何かを奪い取ろう」という集団になっていく。自分だけよければという雰囲気が隅々にまで行き渡り、会社の能力はやがてなくなる。
コンシャスカンパニーは、社員、顧客、投資家、サプライヤー、コミュニティといったステークホルダー全員の為に金融資産や知的財産、社会的富、文化的資産、情緒的資産、精神的資産、物理的資産、環境に優しい資産を創り出したいという想いが強い。どのステークホルダーも手段であると同時に目的でもある。各人の幸せは全体の幸せと密接に繋がっているため、トレードオフの関係は殆どなくなり、ビジネスの仕組みが自発的に繁栄し育つ。誰もが意欲的に情熱を持って企業の取り組みに大きな貢献を果たそうとする。
ビジネスの気高い精神を解放しよう。
今日に生きる人々は人類の歴史上最も意義深い人生を生きる機会を与えられている。私たちには殆どあらゆる問題を解決する為に自由に使えるツールや技術があるし、必要だがまだ手にしていないものを創り出す能力と創造力もある。一人一人の中に眠っている潜在エネルギーを結集し、創造的な組織形態にそれを流す事ができれば、今世紀中に貧困を撲滅させ、もっと平和に惑星にし、環境を回復し、危機に瀕している種に活気を与え、主要な疾病の多くを無くし、全ての人類が健康的で生き生きとし、生産的で意義深い人生をいつまでも送る事ができるだろう。子供や孫達は現在は想像すらできない方法で皆が一緒になって繁栄の道を歩む事になる。これがコンシャスキャピタリズムの力、約束、美である。
今の私たちは歴史上のどこに位置しているのか、現代世界はどういう状態にあるのか、ビジネスがこの世界にどのような影響を及ぼせるのか。コンシャスキャピタリズムとは、このような視点から資本主義とビジネスを捉える考え方である。
ラジェンドラ・シソーディアらが人道主義的な特性から抽出した企業の特徴
・株主利益の最大化を目標にしていない
・社員を大切にし、手厚い福利厚生制度を提供している
・競合他社よりも遥かに多額の法人税を払っている
・サプライヤーに値下げを強要せず、サプライヤー側もイノベーションを絶やさずに収益をあげている。
・地元のコミュニティや環境保全に多額の投資を行っている
・顧客価値を高め、傑出した顧客サービスを提供している
1996年から2011年までの間に、株価パフォーマンスはS&P500の10.5倍になっている。
NYのシンクタンクが2007年から毎年発表している道徳的企業ランキング。評価基準は、シチズンシップと社会的責任、企業統治、公的福祉に貢献するイノベーション、業界でのリーダーシップ、経営トップの質と姿勢、法律や規制の遵守状況と社会的評価の実績、内部システムと道徳的行動または法令遵守プログラムの7つ。ここに選ばれた企業の株価は、S&P500を平均して年率7.3%上回っている。
「稼ぎ方を尊敬できなければ何の価値もない。家族や愛する者達の人生を良くするために使えなければ金には果たすべき目的がない。」グレゴリー・デビッド・ロバーツ
コンシャスカンパニーは業界平均を大幅に上回る給料と福利厚生費をかけているので粗利益は低い。一方で、マーケティング、経営管理、弁護士費用、役員報酬にはコストをかけない。人材、質の高い投入資本、目的の明確な文化への投資を行う。一般管理費を下げるためのアイデアを社員やサプライヤーから集める。全面的な節約運動はせず、winの6乗(社員、サプライヤー、顧客、地域社会、環境、投資家)を達成できる創造的な方法を考案する。
コンシャスカンパニーの大半の社員は互いを管理するのではなく、顧客の為に真の価値を創り出す作業に積極的に参加する。
トリプルボトムライン
英国サスティナビリティ社が1994年から提唱した言葉。企業は、人々、地球、利益という3つのボトムラインに注意を向け企業活動を財務、社会、環境面から長期的に評価すべきだと主張した。ただし、この運動はステークホルダーの存在を無視している。さらにコンシャスキャピタリズムを支える4つの柱に関するビジョンもない。
シェアードバリューキャピタリズム
マイケルポーターとマーククラマーが2011年に提唱した、ビジネス活動が行われるコミュニティの経済的福祉や社会福祉の向上を図りながら競争力を高める方法。企業は、3つの方法でシェアードバリューを創り出せる。1. 顧客に利益をもたらすだけでなく、社会的にもプラスとなる商品は何かを考える。2. バリューチェーンの効率性と持続性を高める。3. 地元の産業クラスターの発展を促す。だが、目に見えないが重要な情緒的、精神的な動機づけを欠いている。今日の世界で求められているのは根本的な意識の変化。SVCは小手先の調整に近い。
クリエイティブキャピタリズム
ビルゲイツが2008年に提唱した。ソフトウェアや医薬品などの変動費の低い製品はBOP層に投資すべきだと主張した。この主張の限界は、CSRと同様、伝統的なビジネスモデルへの追加という性格が強い。これまでの市場獲得戦略を低所得者層にも広げようと提案しているにすぎない。
Bコーポレーション
ここ数年で注目を集めている企業形態。社会問題や環境問題に取り組むと明確に謳った憲章を採用、非営利団体の「Bラボ」が認定を出す。認定を受けた企業は明確に定義された社会上、環境上のパフォーマンス基準を満たす事が求められる。2013年時点で450社の中小企業が認定を受けている。だが、これはオーナーが経営陣に法的権利を明け渡すも同然の制度でもあるので、非営利団体に近く、主流派にはならないだろう。
幸福とは、人生の目的を持った者が生きたり、他の人の為に奉仕したり、優れたものを作ろうと努力したり、個人として成長したり、友達と交わったり、子供達を養育したり、愛情や寛容さを示したり示されたりといった行為の副産物。利益もこれと同じ。利益とは、存在目的、素晴らしい商品やサービス、顧客満足、社員の幸福、社会や環境への貢献の副産物。何を差し置いても利益を追い求める企業はそうする事がいかに愚かなことかにいずれに気付く事になる。
景気が悪くなった時にこそコンシャスカンパニーは機能する。コアバリューを一層重視しながら、人間味のある姿勢を崩さない。苦境を乗り切る為の行動が本当の意味で団結させ、企業文化を強化する。
コンシャスカンパニーは経営資源一単位当たりの売上高が多く、生産性も高く、社員が効率的に働き、顧客に本当に素晴らしい体験をさせ、価値を生まないものに資源を浪費せず、無駄の無い運営をしている。
目的はビジネスの気高い精神を解放する事。こうした精神は活動していないだけで殆どの会社に常に存在する。
現代経営の大きな誤った考え方の一つは、重要なものは全て測れなければならず、客観的に測定できないものは重要ではない、というもの。これは分析的知能が私たちの思考法にいかに大きな影響を与えたかの証拠。しかし、愛や自分らしさを貫く姿勢といった、文化を形作る最も重要な要素には、具体的に測りにくいものが含まれている。
「何事も出来る限り単純化しなければならないが、必要以上に単純化してはならない。」アインシュタイン
コンシャスキャピタリズムを理解するにはシステム知能が必要だが、多くの人はこれをまだ身につけていない。しかし、大規模なビジネスシステムの相互依存性を確認できるだけの包括的にものを見る目があれば、「ビジネスとは答えがはっきりと出る数学の問題ではない」事に気がつく。一つの価値だけを最大化すると、必然的に他の重要な要素がないがしろにされ、場合によっては致命的な打撃を被るかもしれない。
ビジネスリーダーは一部のステークホルダーだけに短期的な利益を与えようとして、会社全体に被害を与えるような事態を決して招いてはならない。そんな事をすれば、組織は一種の癌に冒され、ゆくゆくは破滅の道を辿るだろう。
野田稔教授
昨今の日本企業に見えるのは過度のリスク回避志向と過剰管理。新しい事業が初期フェーズから成功するのは数パーセント未満である事を忘れている。
各社とも立派なビジョンを掲げ、企業理念を打ち出し社会貢献を口にするが、社員がそれがお題目であり、目先の利益を上げる事が最優先される事を知っている。だから下手に挑戦して利益を失う事を恐れる。
戦後当時の企業目的は先ず強くなる事。強くなって日本を豊かにする事が共通の目的である、「強い会社」パラダイム。オイルショック以降、省エネや公害防止、環境対策、海外展開や多角化等、企業経営は一気に複雑化する、それに対応した「賢い会社」パラダイム。バブル崩壊で追い打ちをかけられ、企業はますます筋肉質化する事を求められ利益志向を強めていく。結果的に長期的視点が失われ、挑戦意欲の減退に繋がった。「賢い会社」というよりも「小賢しい会社」パラダイム。これは完全に行き詰まっている為、これからは、「存在目的とコアバリュー」を持つ「志の高い会社」パラダイムが始まるだろう。
鎌倉投信の選択基準
雇:人財の多様性
感:感動サービス
現:現場主義
創:市場創造
縁:地域を大切に
技:技術力
貫:オンリーワン
志:経営理念
W:グローバルニッチ
炎:モチベーション
直:製販一貫
愛:社員を大切に
革:変化し続ける力
循:循環社会創造