トマス・モアのレビュー一覧
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トマス・モアといえば映画「わが命つきるとも」を思い出すのですが、ヘンリー8世の離婚に宗教的な信念から最後まで反対し、最後は斬首されてしまいます。そんなモアが1516年(つまり今からおよそ500年前)、38歳の時に執筆したのが本書になります。ユートピアは「どこにも無い」という意味のモアの造語です。
モアの描くユートピアは、当時の絶対王政下の欧州社会のアンチテーゼ的な意味合いとして書かれていますが、完全なユートピアというよりは「限定的な」ユートピアといった方が正しいかもしれません。たとえば市民には自由と平等がありますが、ユートピアにも奴隷がいて、奴隷は動物のと殺などを担当します。また戦争もします -
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南米のどこぞにある「何もない処」ユートピア
そこの土人は、既製品で皮製の服を與へられるとか、書かれた当初の英国人的に屠畜は調理の醍醐味だと思ふんだけど、ユートピア人は牛を屠る奴隷(はユートピア人一人につき2人宛がはれる)がゐるとか、えーと。
その半月上の島から500マイルの彼方にすさんだところがあって、そこの戦闘民族ザポレットはここの人でないと戦争で使へないとか、他、何ヵ国かの国で当時の英国をDISるらしい。
なので首都っぽいアモ―ロート(暗黒 の意。当時のロンドンぽいんださうで)の近所の川アナイダ川はテムズ川みたいな感じださうであるが、へー。
ラテン語とギリシャ語がぶわーってある上に -
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ネタバレ「ユートピア」は実際には存在しない架空の場所である。この場所では、頭脳と心の豊かさが高いレベルにある人々が、平和に暮らしている。
印象に残ったところは、金がこの世界では、貴重なものだとして、崇められている。しかし、このユートピアでは金を実用性のない、むしろ鉄に劣るものだとして、醜さ、みすぼらしさの象徴とみなしている。
たしかに、金は取れる量が少なく、量的な貴重さはあるけれども、本質的には価値を見出せないものである。金を身につけて、いきなり人間としての格や品が上がるのはおかしいことである。
また、人々は神から、自然に喜びを感じる肉体や精神のあらゆる状態と運動とを快楽と呼んでいる。
その快楽は、 -
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「ユートピア」という言葉は、「空想上の」あるいは「理想的な」という意味で使うことが多いだろう。トマス・モアの造語であるユートピアはギリシア語で「どこにも無い」を意味する。表題の『ユートピア』はどこにも無い国なのである。
『ユートピア』はユートピア国に滞在したラファエル・ヒロスデイが語った見聞をモアが記録したという体裁をとっている。この本の中でモアは共産主義国家であるユートピアを理想国家として描いた。ユートピア国の特徴は様々だが、必要十分な少数の法律を人々が忠実に順守していることや、人々が貨幣をまったく用いずに社会生活を営んでいることはユートピア国に特有な特徴だろう。法制度、例えば刑罰の重さや -
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ネタバレ【不人情な近代国家】
大航海の時代に、アメリゴ・ベスプッチの率いる船にも乗って世界探検を経験したというラファエル・ヒロスディさんが訪れたユートピア国について、全体としては、国家制度の在り方に関する自論みたいなのが語られる。聞いているのは、この小説の語りのトマス・モアさんと、ラファエルを紹介してくれたピエールさんで聞いている、スタイル。
はじめの章は、イギリスの国家としての矛盾を指摘するラファエルさん、合意できない点について問われ、さらに論を深める。
金を盗んだら死刑になる制度を批判。
「人間には自殺する力も他人を殺す力もありません。」
人が窃盗をする環境設定を国家自体が作ってい -
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◯これがなぜユートピアと思えるのか
→あくまで当時の時代を考えなければなんとも言えない。1500年代は暗黒時代?大航海時代に近い。富を蓄えようとしている時代。イギリスではディスクロージャー政策が横行していた頃。
→トマスモアはまさに富の蓄積について疑義を呈している。貨幣の否定、労働者への敬意など。
→また、国家全体を利するように制度を求めるところは、個人主義によって富を蓄積していく不平等が広がっていると分析したか。
→しかし、現代においてこれは社会主義、共産主義国家に思えて嫌悪感すら抱く。共産主義者はこのユートピアをこそ目指しているのでは?国家による婚姻、出産、事物の共有化、まさに共産 -
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思い出したら何度も読み返すとよい作品だなと感じた。人間の営みにおける全ての理想形が『ユートピア』の国では体現されており、それは現代を生きる自分ですらまさに理想だと感じたほどだ。
例えば、金や銀を人は命と同等くらいに大切に扱うが、実際実用的なのは加工しやすい鉄であって、金や銀そのものに価値はない、とか、財産を持っているというだけで愚かな貴族が敬虔な奴隷を従えるのはおかしい、とか、快楽に娯楽はあるのではなく健康的な生活にこそ楽しみを見出す、など、ユートピアの人間は、もし他の国の人々が簡単に行き来可能な場所ならば到底ありえないような、他の世界から全くもって影響をうけてこなかったような場所なのだ。
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イングランドのトマス・モアによる1516年の著作。本書は,エラスムスの『痴愚神礼讃』やアメリゴ・ヴェスプッチの旅行記『新世界』に触発され書かれたものとされる。「utopia」の後世への影響は計り知れないものだ。
「ガリヴァー旅行記」から知った本で,「ユートピア」は文学と哲学の橋渡しに良い本だと思う。
p175「思うにこの国は,単に世界中で最善の国家であるばかりでなく,真に共和国(コモン・ウェルス)もしくは共栄国(パブリック・ウイール)の名に値する唯一の国家であろう。〜何ものも私有でないこの国では,公共の利益が熱心に追求されるのである。」
例えば「何ものも私有でない」という表現に,ユートピ -
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理想郷的な意味合いで使われる「ユートピア」の語源となったのが1516年(!)に出版された同著。本書で示されるその世界観は、奴隷制や相互監視を基本とする社会というのもあり、決して今の時代からは理想的なものと言えるわけではない。
ただ、そういったポイントはもはや5世紀以上も過去に書かれたこの本に対する指摘としては十分ではないかも。何よりも、文芸復興と宗教改革の時代の狭間で、司法官と宗教者としての葛藤に苦しみながら、遂には王に死罪にされた著者、トマス・モアがこの時代に何を思い、限界を感じつつも懸命に理想を託そうとしたその意思に、自分は何よりも興味がある。誰もが希望を持てずに打ちひしがれて、理想を描け