買ってから2年ほど放置してたのをようやく読む。横長の版型は持ちにくいのよ。
書名のとおりビジネスモデルを作り出すための方法論がきちっとしたフレームワークのもと展開されている。ビジネスモデルキャンバスを中心的ツールとして、ぼんやりとしたアイデアをいかに形にしていくかとてもわかりやすい。もちろん既存のビ
...続きを読むジネスモデルの分析にも使える。当時評判が良かったのも頷ける。
そうした評価はこれまでさんざんされてきたと思うので、気になった点を2つほど。
ひとつは、中心的ツールであるビジネスモデルキャンバスの扱う領域がかなり狭いこと。環境要因(マクロ経済や周辺産業)はビジネスモデルの設計で当然に考慮すべきだろうが、それらはビジネスモデルキャンバスの埒外に置かれる。ビジネスモデルキャンバスは、あくまで社内の事象しか考慮しない。もちろん、環境要因などを考慮するべきことには文中で言及されているものの、かっちりとしたビジネスモデルキャンバスに比べるとかなりぼんやりしている。考慮すべき事項が明示されず、またビジネスモデルキャンバス内の各要素とどう関連するかはっきりしない。つまり、ビジネスモデルキャンバスが明示的に取り扱うことができるのは極めて狭義のビジネスモデルに過ぎず、その外側は相当程度の補完が必要となる。
このことは、時間的なビジネスモデルの変化・変革を適切に取り扱うことができないということでもあると思う。環境要因と同様に言及されていることはされているが、環境要因以上に曖昧にしか描かれていない。環境要因が明示的に考慮されないのだから、それに応じたビジネスモデルの変化・変革を扱えないのは当然といえば当然の話。ビジネスモデルの動的な側面を描出することはできず、かなり静的な描写にとどまっている。
全体的に見て、外部とのインタラクションがフレームワーク内に取り込まれておらず、そのためにビジネスモデル構築の包括的なフレームワークに至っていないように思う。
もうひとつは、事業活動の過程における創発性や漸進性がほとんど考慮されていないこと。ビジネスモデルキャンバスは、その内部における要素の多くがコントロール可能であることを暗黙の前提にしているように見える。そこには、創発的な戦略の形成や漸進的な変化といったものは存在せず、ひとたびビジネスモデルを設計されればそれは自動的に実行される。こういう視点は、ミンツバーグが言うところの、デザイン・スクールやプランニング・スクール、つまりは20世紀中盤のオールド・スクールにかなり近い。買ってすぐパラパラ眺めたときにそう感じたのだが、今回改めて読んでみてもその印象は変わらない。新しい本ではあるものの、あんがい古臭いパースペクティブに立脚したフレームワークなのだと思う。
多くの要素を盛り込み過ぎて現実的に利用可能な水準を超過して複雑化してしまえば、それはフレームワークとして役に立たない。それでは本末転倒なのだからある程度刈り込むことは確かに必要だとは思う。しかし、特にひとつめに指摘した点は、ビジネスモデルを構築するうえでは不可避の領域であって、それが取り込まれていないのは問題があると思う。そこのところをしっかり認識したうえで利用しないと、ビジネスモデルを構築するにも分析するにも大きな誤りを犯しかねない。見た目のシンプルさとは裏腹に、実はかなり扱いの難しいフレームワークなんだと思う。