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Posted by ブクログ
岩波新書のシリーズ中国の歴史全5巻の完結編は、岡本隆司氏の「「中国」の形成 現代への展望」。扱われるのは、清代を中心に現代まで。
16世紀から18世紀までの時代は最近流行のグローバル・ヒストリーでいう「大分岐」の時代に当たるが、著者はグローバル・ヒストリー学説に対しては、「アジアを端から異質で、落伍していた存在とみていた従前とちがって、確かに新しい。西欧中心史観の非を悟りはじめた西洋人なりの反省なのだろう」と一定の評価(?)を与えつつ、しかし、「経済指標に目を奪われるあまり、社会構成・統治体制のあり方に対する洞察に乏しいことがあげられよう」(pp.viii〜ix)と述べる。
17世紀幕開けに混沌としたカオス状態であった東アジア世界が18世紀になるとすべて清朝に合流、しかし、そこに朝貢体制や華夷秩序を当てはめても治まるものではものではなかった(それをやろうとして失敗したのが明)。本書では多元的なアジア世界を清朝がどのように秩序立てようとしたのかを「因俗而治」という概念で捉える。それをイメージで示しているのが、45ページの図11である。
さて明末清初の社会を批判した学者に黄宗羲や顧炎武がいる。顧炎武は官僚制の硬直化・矮小化を指摘し、「盛世には小官が多く、衰世には大官が多い」と批判した。実地に庶民・社会と接して行政にあたるのがここで言われている「小官」である。官吏の不正・非違を監察する「大官」ばかりが増えている世の中は「衰世」なのだ(p.58)。
清朝ははたしてどうだったのか。「第三章 二 経済」「三 社会」と清朝の経済社会発展(乾隆帝時代は緩やかなインフレで経済は大発展を遂げる)の様子が描写される。しかし「四 分岐」で「私法・民法・商法の領域・民間の社会経済に、権力が介入できたかどうか。西は是であり、東は非だった。そこに『分岐』の核心がある」(p.99)と著者は断じている。「世界史上、そうした制度(*ヒックスのいうような公権力・国家による「規則」)を創出できたのは、イギリスのいわゆる「財政=軍事国家」であり、私見ではイギリス・西欧にしか、そうしたシステムは発祥、ひいては発達、完成することがかなわなかった」(p.98)なのである。
本書はこうして「大分岐」の核心を、中国の統治原理・社会構造の歴史的変遷から見事に喝破している。第四章の「近代」、そして現在の習近平体制まで筆が及ぶ第五章「中国」、「おわりに」まではそうした中国社会の基本原理が貫徹している。
「歴史をたどれば、そんな「一体」の「中華民族」は存在したことがない。かつて存在しなかったものをもとにもどす、回復させることはありえないから、「復興」もやはり現実ではない、「夢」だということになる」(p.192)。
※巻末主要参考文献の最後で著者は「人文学とりわけ歴史学は、新しい研究成果ほどよい、依拠するに足る、というわけではない」と述べつつ、「東アジアに関わるグローバル・ヒストリーに代表される英語圏の所説は、その典型といってもよい」とトドメを刺している。
Posted by ブクログ
近代中国史は、それ自体としてだけでなく「なぜ、こうなってしまったのか」という視点から見ると面白い。
本書では、西洋列強(と日本)と中国の明暗を分けることとなった、19世紀の「大分岐」について、経済史家らしく構造的要因から分析がなされる。
「因俗而治」「貯水池連鎖モデル」「督撫重権」などのキーワードから、高校世界史では見えてこなかった清朝の立体的な姿がわかる。
明清時代についての類書や、ちくま新書の『近代中国史』など岡本先生の他著は読んでいないため比較はできないが、明末清初から康熙雍正乾隆にかけての国内史の記述が特に興味深かった。康熙帝と雍正帝についての碩学・宮崎市定の評価など、コンパクトに深掘りがされており読み物として非常に面白い。
もっとも紙幅の都合上、日清戦争など清末の国際関係史や辛亥革命、中華民国以後についてはごく簡潔に触れられるのみ。講談社学術文庫の中国の歴史シリーズ等でいずれ補完したい。
Posted by ブクログ
シリーズ最終巻。
明清交代を経て、以降清朝は最大の版図を獲得し、中華民国を経て、現在の中華人民共和国へと繋がっていく。
中国の度々の王朝交代を見てきたから、明清交代もそういうものかと思ってきたが、著者は言う、明清交代は、よく考えてみれば、奇蹟ともいえる。明朝は、当時の東アジアで圧倒的な大国であり、人口を比較しただけでも、清朝は1億人の明朝の1%にも満たないし、経済・文化は明朝が凌駕していた。明末の政権、組織がよほど疲弊、頽廃していたわけで、李自成等流賊を鎮圧できなかったのも、その現れである。(確かに!)
明朝の衰退は、明朝の取った朝貢一元体制が、北虜南倭に示される多元勢力との相剋を解消できなかったことにあり、その解消が清朝の歴史的役割だったとする。
本書は、個々の事件史的記述は最少に留め、藩部に対する統治の基本姿勢「因俗而治」、交易についての互市、商品や貨幣の流通、官民、中間団体等社会構成の仕組み、等についてコンパクトな説明をしてくれており、清朝体制の基本的仕組みが非常に分かりやすく整理されている。
そして、アヘン戦争に代表される西洋列強の進出に対する反作用として、「領土主権」の考え方が出てきて、新疆、モンゴル、チベットへの支配を強化する動きとなった。その後、清朝時代は倒れるが、民国、人民共和国を経て、正に現代史の問題となっている訳である。
現代に繋がるアクチュアルな問題を考えさせられる、歴史を学ぶ醍醐味を味わえる一冊である。
Posted by ブクログ
紀元前から現在までの中国の通史のシリーズ「中国の歴史」第5巻(最終巻)。最終巻は、清朝の始まりから現在までの通史が書かれているが、通史のため教科書的に事実を中心に解説されているため、それぞれの内容は薄い。残念ながら、岡田英弘氏や宮脇淳子氏の著作ほど興味がわかなかった。
「自らを「支那人」、自国を「支那」と呼んだ。China/Chineを漢字に置き換えた語であり、西洋人・日本人が当然と考える国民国家を含意する。だから当時の「支那」とは、まったく差別用語ではない。清新なニュアンスをもった新語・外来語であった」p161
「「社会主義市場経済」とは、依然として「社会主義」を信奉する共産党が、政治を一手に独裁的にひきうけ、民間が「市場経済」を取り入れて経済を立て直してゆく、という趣旨である」p186
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