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貧乏も天災もなんのその! 幕末を生きる痛快女一代記 「人の一生は幸不幸がもつれ合ってできている」――下谷の下級武士の娘・長沼栄津は、隣家の長男・水嶋穣太郎に思いを寄せるが、良い噂を聞かない國木田義三のもとへ嫁いた。大地震や流行り病に襲われるも、武家の誇り胸に歩む栄津だが…… 〈着物始末暦〉シリーズの著者が、波乱の時代を生きる女の人生を描き切った、人情あふれる傑作時代小説。 解説/青木千恵
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Posted by ブクログ
最初は主人公の境遇が哀れだったけれど、周囲の情の厚さにほろりときた。ぐっとくるフレーズがたくさん散りばめられている本だった。
読んでみたら再読だった。再読記録はタイムラインに上がらないので文庫の方で書く。 貧乏御徒の家の娘・栄津の十七歳から五十五歳までの半生を描く。時代は文政から明治まで。この三十八年の間に時代が目まぐるしく変わる。 暴君の兄に良いように使われ、母親は兄の言いなり。兄の妻は家事も育児もせず栄津は女中のよ...続きを読むうな扱い。このまま嫁ぐこともなく一生を終えるのかと嘆く。しかし突如兄が縁談を持ち込み、強引に嫁ぎ先を決められる。 兄に振り回され、隣家の兄弟やその母親に振り回され、耐え忍ぶだけの不幸な女性かと思いきや、栄津は案外言い返している。 嫁ぎ先の姑が相当きつい人かと思ったら実は…だったし。覇気のない、何を考えているか分からない夫も実は…。 結構幸せじゃないの? おたふく顔がコンプレックスの栄津が家を守ること夫を支えること跡継ぎたる子供を産み育てることが自分の使命と必死になる姿と、兄の妻がその人脈であの鳥居耀蔵と兄を引き合わせ兄の出世に繋げる姿は対照的。 栄津は兄が出世し裕福になっていく時は妬み、鳥居の失脚と共に兄の家が没落し兄夫婦が行方知れずになれば兄の妻を恨み…と結構どす黒いところも見せている。 小町と呼ばれるほど美しいが意地悪な兄の妻と対照的に、心優しい不器量な栄津という構図ではないのがなかなか面白い。 隣家の長男といい次男といい、耳に心地良いことを言う者にろくな者はいない。むしろ自己中を隠そうとしない兄の方が清々しく感じる。 逆に三男は時代を見通していて頼もしいし、彼の弟子でもある栄津の長男もまた…。 栄津は『自分の努力次第』で運命を切り開ける男が羨ましい、『男に生まれたかった』と言うが、男は男で苦労もあるし『自分の努力次第』だけではどうにもならないこともある。 控えめなようで頑固一徹な栄津だが、彼女の気持ちも分からないではない。生まれた時から正しいと信じて歩んで来た道を否定されれば拒否反応も出るだろう。それは娘の姑も同じ。 しかしだからと言って男たちを恨むのも筋違い。 結構言いたいことを言って、自分の信じる道を進んでる栄津だが、恩義ある人にはきちんと返してきたせいか、守られたり大切にされたりしている。 やっぱり幸せな人生じゃないか。
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