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Posted by ブクログ
いじめられっこの光輝はある日橋から突き落とされ、アントン症候群という不思議な障害を負ってしまう。
失明しているにもかかわらず、本人には周りのものが見えているという。
触覚、嗅覚、聴覚によって、視覚を構成しているらしいのだ。
そもそも、視覚というのは脳が合成したイメージに過ぎないため、目が見えなくても視覚イメージが存在する可能性があるという。
実在する症状だそう。
そんな少年が絶世の美少女(といっても少年が作り出したイメージの姿)と出会う。
彼の障害は「想像力」という一つの能力であるとも言え、その力を使って少女と二人で数々の謎を解いていく。
それにしても、文章がうまい。
500ページ近いのにすらすら読める。
1ページ当たりの文字数が少ないわけではないし、ラノベみたいなスカスカの文章でもない。
なのにこんなに読みやすいのは、自然な日本語だからなのだろう。
格好つけたり、難解だったり、回りくどかったり、不自然だったりしない。
普通に高校生が話すような、生きた日本語だ。
そんな文章で、きちんとテーマ性とエンターテインメント性を兼ね備えた物語を書くものだから、私は山本弘が大好きなのだが、侮っていた。
SFだけではなくてミステリも書けるとは。
私はミステリはあまり読まないし、本作もすごく複雑なトリックがあるわけではないが、ちゃんと文章内の情報で謎が解けるようにはなっている。
「こんなラノベみたいな人間いるわけないだろ」とか「なんか障害者バカにしてないか?」と文中で気にかかったところは必ず真相に関わっているし、気が付かなかった伏線も出て来る。
作中作のミステリの謎を光輝が解くというのもおもしろい。
物語の中に空想の探偵を登場させてしまうのだ。
設定自体は実在のものでジャンルはミステリでも、その使い方はやはりSF作家ならでは。
その謎は、現実の事件の謎とも関係してくるのだが、米澤穂信の『愚者のエンドロール』と同じ驚きがあった。
作中作で一つだけ気になったのは、織江はそんな危険な場所に美緒を送ったのは不自然じゃないか?ということくらい。
脳に損傷を受けて視覚に異常をきたした世界で美少女と出会うというのは、2003年のPCゲーム『沙耶の唄』を思い出す。
小説の中にも「沙夜の歌」が出て来て、山本弘に限ってありえないと思いつつも、何か関連があっておどろおどろしい展開になるのではとちょっとびくついてしまった。
どうやら関係なさそうで、明るい小説だった。
「いじめ」とか「障害」とか重たいイメージの付きまとうテーマが出てきて、恒例の著者の主張もある。
でも受け入れやすい主張だし、1つの短編に1つくらいなのでそんなに嫌悪感は抱かないのではないだろうか。
私が慣れてきただけか?
全体としてのテーマは『アイの物語』や『詩羽のいる街』に比べると弱かった。
その分連作短編形式なので話は広げられそうだし、シリーズ化に期待。
そうそう、詩羽と言えば第2話でちょろっと出てきて感動した。
物語は終わってしまったけど、まだ人助けしてるんだなぁと。
アニマ・ソラリスの2015年のインタビューでは、著者が以下のように語っていて、ますます続編の期待が高まった。
「実は『僕の光輝く世界』と『詩羽のいる街』を本格的に合体させたミステリを書きたいと思ってるんです。詩羽がらみの大きな事件が起きて、光輝がそれを解き明かす。しかも話全体が光輝の書いたミステリだというメタ設定で……ただ、構想だけ大きくて、まだぜんぜんまとまらない。書くとしても何年か先になるでしょうね。」
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