ネタバレ
Posted by ブクログ
2019年02月23日
前作「チポロ」でのヤイレスーホが不憫に思えたので、彼が救われる物語かと思った。
仲良しこよしにはなれなくとも、チポロやイレシュと普通に会話できるくらいの間柄にはなっていてほしいと思っていた。
だがそれはあいつも悪気がなかったんだから許してやれよ、と関係のない第三者が被害者に向かって言うのと同じことだ...続きを読む。
一度異端になった者は狭い村には完全に溶け込めなくなるし、残された家族も深い傷を負う。
イレシュが連れ去られた3年間はなかったことにはならないし、帰ってきたからといって元のままに戻ることなどできない。
納得できず、楽しめず、前に進めない出来事が起こった者はそれを片付けるしかない。そう言ったチポロは力強く明るい若者になっていたが、イレシュもその家族もつらい思いをしたのは自分のせいだという思いは拭えない。
チポロのように強くなって探しに行けなかったイレシュの弟のマヒトの傷もまた深い。
そんな彼らの過去を知らないランペシカは、子供ならではの無遠慮さと単純さで彼らの中に入っていく。
微妙な均衡で保たれていた生活がかき回されるが、彼らが過去の傷と向き合い進む助けになったのではないだろうか。向き合うことと乗り越えることは別だし、トラウマは必ず乗り越えなければならない訳でもない。
ランペシカは人間を信じられなくなった子供だ。でも与えられた好意は受け止めるし理不尽には憤る。人を恨むし強すぎる力を得て復讐することも、代償を払ったことを後悔しない、まっすぐな人間だ。
ランペシカはイレシュたちとは全く違う立場と角度からヤイレスーホに接することができる。
ヤイレスーホの願い通りではないかもしれないが、彼を理解して好きになってくれた人ができたのは良かったと思った。やっぱり不憫なままだけれど。
そしてやっぱりミソサザイの神様はいいキャラクター。
勧善懲悪ではないし、登場人物たちが全て報われる物語でもない。
悩み苦しみ、自分の中で折り合いを付けながら生きていくために選び取る。
そんなことが随所にちりばめられている物語だ。