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Posted by ブクログ
先日読んだ『呪いの時代』はどうもいまいちな感じを多く受けたのだが、この本はとても面白かった。
いろいろな短い文章を集めたもので、時期的には、震災以後・野田政権から安倍政権、維新の会の台頭といった期間にわたっている。
安倍政権に関して触れているのは最初の方に収められた 数編だけで、まだ特定秘密保護法案も出てきていない。アベノミクスにさえ触れていないから、せいぜい政権成立直後までの文章群かもしれない。ただ、自民党の「憲法改正案」については批判的に解読している。
内田氏によると、こういった民主政権後に復活した自民党政権の路線は、一見「復古調」に見えるものの、実は「新しい」ものだということだ。
グローバル企業が経済界を支配し肥大化していくことに伴い、何よりも短期的に利益を上げることが優先され、「国民国家」の解体が目指される。この「国民国家の解体」という思想の登場に、内田氏は驚愕している。もちろん、危機感を持って。
その後の安倍政権の動向についてはこの本ではもちろん語られていないが、内田さんの指摘をふまえて振り返ってみると、確かに、安倍政権は絶え間なく「短期的な経済的利益の追求」だけをやっている。当然、経済格差はぐんぐん広がる。しかしグローバル企業にとって、経済弱者のことなど関係ないのである。貧窮した国民が増えれば、安い労働力を買うことができるようになるわけだから、貧者はどんどん貧しくなってもらった方が都合がよい。
このような「ビジネスマインド」で利益を優先するのは企業にあっては当たり前かも知れないが、それで国の統治をやってもらっては困る、というのが内田さんの主張だ。
円安によってガソリンなどの輸入品を高騰させ、同時に消費税を上げ、さらに「能力給」を徹底し超過勤務手当も扶養控除も廃止する、と重なれば、一般的「庶民」(国民の大多数)はどんどん貧しくなるのが当たり前である。
福島原発事故による賠償や核廃棄物の処理の問題などを考えると、長期的には原発はコストがかかりすぎるので廃止した方がよい、ということになるはずだが、ビジネスマン的に見ると短期的には原発を稼働した方がもうかるんだから、そうするべきなのである。万一また原発事故が起きて取り返しの付かないことが起きても、グローバル企業はさっさと日本を出て行くから大丈夫なのだ。
英語もできず引っ越しのための資本もない庶民のことや、先々の子孫のことなんか、彼らはどうでも良いのだ。
・・・こうした内田氏の批判にはほぼ全面的に共感できた。
著者のいう「国民国家」とは、その国の土地に住む全住民が、きちんと職にありつけて、過度な不自由を被ることなく、そこそこ幸せに暮らしていけるような条件を作っていく国家の施策のことだ。いま、それが、利益優先=「経済的強者」優先のビジネスマインドの絶対化によって、解体されようとしている。
原発推進派、安倍政権支持派が意外にも多いことに私は驚いているのだが、内田氏は彼らは主にビジネスマインドをもった人びとだろう、と推測している。
また、「アメリカを怒らせるようなことをしたらダメだ」というのが強迫観念となって日本人にひろく取り憑いている、という指摘にもなるほどと思った。実際にアメリカが何も要求していないのに、アメリカの機嫌をとるような外交政策をとらなきゃダメだ、というのが、実のところ、政治家やマスコミだけでなく、右派左派含めた国民にまんべんなく広まっている。
ここで恐れられている「アメリカ」というのは現実のアメリカではなくて、日本人がいだいているアメリカのイメージだ。
アメリカの機嫌を損ねた(ように日本人に思われた)政治家は、確かにこれまでもみんな失脚していった。
内田さんはいっそのこと、日本をアメリカの州の一つにしてみれば、とちらっと書いていたが、確かにそうだ。政治手腕もマスコミの仁義も、国民の法意識も人権感覚もいつまでたっても二流以下で、国内でぜんぜんうまく立ち行かないのだったら、いっそのこと、完全にアメリカになってしまえばいいのである。
共感するところが多く、また「そういうふうに切り込むのか」という新鮮な知の喜びも与えてくれた本書だが、もちろん、私は全面的に内田氏に賛成なのではない。
「共同体はダウンサイジングする」「すでに市場を捨てた人びとのあいだで贈与経済が始まっている」といった言説については、理想的には思うけれども、どうも現実的ではないような気がしてならない。
日本のメディアに対する批判の仕方なども、どうも私とは考えが少しちがう。
しかしちがうのはむしろ当たり前だ。内田さんが解き明かし得ていないことがまだたくさんあるのだが、それは私自身が考えていかなければならない。
考えを深めるためのひとつの参考図書として、この本を私は高く評価する。
そして、その後の安倍政権の恐るべき展開についての、著者のより新しい著書を是非読みたいと思っている。
Posted by ブクログ
久々発見、内田さんの本。
ちょっと大きめの本屋さんでじっくり本棚漁る時間は至高ですが、収穫があるとなおよしですね。
「憂国論」というタイトルそのままに、現代日本の様々な問題を独特の視点から掘り下げて意見を述べている本です。
特に強い口調で何度も述べられているのが以下の3点。
・国家のことを考える際にグローバリストの言うことを信じてはならない
・市場開放・自由主義を行政に適用するべきではない
・国の役目は、国民全員をいかに食わしていくか、である(下村 治著『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』参考)
ざっくりといえば、フランスの特徴的な思想のひとつである「自然権」の影響を大きく受けた(と私は感じる)考え方+福祉国家(国民国家)思想がその根幹にあります。
他にも日米関係の特殊性や贈与経済への転換への展望などが書かれています。
著者自身も述べていますが、書籍に書かれた内容は決して一般的な意見ではないでしょう。
しかし逆に言えば、タイムリーで今風でないのに、こうして人が「なるほど」と思える文章を書くことができるということは、読者の視野を広げ、新しい考え方や行動のきっかけとなる可能性を秘めているのではないでしょうか。
個人的には、行政への自由主義的思想の介入度合がここ数年顕著である点は同感ですが、グローバル企業の意見に傾聴するか否かについては自分の知識が浅いゆえに一概に信じられないとも言えません。
また、天からの授かり物である先天的な資源(etc. 身体的特徴、才能)は他の誰かと分けあい、共有すべき、との意見について、後天的な資源(etc. 知識、能力)はどう考えていらっしゃるのか気になりました。
「この本で述べられていることはすばらしい!著者の言うとおりだ!」
というレビューばかりの本よりも、
「著者はこんな風に言っているけど他にはどんな意見があるんだろう or わたしは〇〇についてはこうだと思うなぁ」
といった「その先」につながる感想が持てる本が見つかるとうれしいですね。
こういった、手にとってよかったなぁ、と思える本に出会えるのはしあわせなことです。
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ビジネス・実用
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