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人の命を奪うのが、死刑という刑罰だ。その存廃をめぐり、今なお意見は鋭く対立し、決着をみることはない。凶悪犯にはやはり、死刑をもって対処すべきなのか。賛否それぞれの根拠を問い、多くの人が死刑を支持する真の理由を探究。道徳の根源まで遡りながら、道徳とは何かを明らかにし、さらに政治哲学的な考察へと向かう。これまでの論争を根底から刷新する、究極の死刑論の誕生!
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Posted by ブクログ
死刑反対、あるいは賛成の立場をあらかじめ表明した上で考察される関連書籍が多い中で、あくまでニュートラルな立ち位置から死刑制度について考える書籍。
感情論一切抜きで客観的に議論してて面白かった。死刑と社会への復讐目的で凶悪犯罪に及んだ事件とか詳細に言及されてて衝撃的でしたね。死刑を見直すきっかけになる一冊。
死刑という制度を哲学的観点から考察するという内容だったが、死刑制度に限らず多くの気づきをもらえた。 OECDで死刑制度があるのは日本、アメリカ、韓国の3カ国で韓国では20年以上死刑を執行されていない状況を考えると事実上の廃止しているようなものだそう。 なぜ国際的に死刑制度廃止の流れに向かっている...続きを読むのか? そんな中なぜ日本が死刑制度を続けているのか? 死刑はなんのためにあるのか? 死刑は必要なのか? 様々な疑問があふれてきたが、できる限り中立的な立場で哲学や道徳論など様々な観点から死刑制度について考察されていたおかげで自分なりの答えがみつかった。 個人的には、死刑に対する考えだけでなく、「死刑」という究極のテーマを用いて哲学を今まで以上に深く学べたような気がした。
死刑存置派を、どのように説得するか、そのためにも応報刑の思想は無視できないという分析をはじめ、鋭い分析が多々見られる。
前からずっと読みたかった本。 面白かった。 考え方や問いのたてかたが自分と似ていて、かつ自分よりも深かった。 死刑がどうあるべきか、という問いに対してというより、道徳とはどういったものかという問いに対する考察が深まった。 終盤は政治哲学的な考察になったが、自分は政治には興味が無いので読み飛ばした。
死刑に関して正面からかつ丁寧に論じた一冊。1、2章と死刑の実情と課題を挙げての3章からが本題。道徳で決着がつかないことには肯首できるし、冤罪に関する論は余り意識したことがなく興味深かった。 ただ冤罪の賞はやや急ぎすぎで以下の点などは納得するに至らなかった。 ・死刑は取り返しがつかないことに依ってい...続きを読むるが、他の刑は本当に取り返しがつくのか。確かに終身刑や無期懲役の場合は冤罪が認められた際に社会復帰することも可能だが、それまで拘束されていた期間は本当に償うができるのか。不可逆な時間を戻すことが出来ない以上、経済的もしくはその他補償で取り返しがついたと言えるのか。それを考えるには生や時間の価値にまで踏み込まなければならなくなるが、もし取り返しがつくと言えないのであればこの問題は死刑の是非に閉じなくなるのではないだろうか。 ・足利事件を例に挙げて刑確定後の再審のハードルの高さを論じているが、初めのDNA再鑑定の請求は上告のタイミングである。再審の請求が中々飲まれなかったのは、上告棄却時に判断済であったことも一因ではないのか。この事件に立脚して語る以上、裁判所の判断理由は詳細に語られるべきではないか。 以下、雑感。 元々死刑制度支持派だけれども、このように感情や道徳のみに頼らず廃止や代替手段を検討するのならば廃止論にも耳を傾けたいと思う。 ただ何となく終身刑は死刑より人道に悖るように感じられる。この感覚はどこから来るのか判然としていないが、もし導入するにしても国民の合意形成が難しいようにも感じる。 個人的に極刑は、先天的か後天的かはともかく所属する社会規範の埒外となってしまった人を、その社会を維持する為に隔離する機能ではないかと時々思う。どの時代のどこに産まれるかは選べないがこの不条理は解消しようがない不幸もある。そうすると極刑は必ずしも死刑でも終身刑でもある必要はないのかなあ。もう少し考えてみたい。
基本的にはとても良かった。私は死刑反対派だが、賛成にしろ反対にしろ一分の理以上のものがあるので、どちらの意見に与するにしても難しい。日本では賛成派が圧倒的なので、反対派としてはどう反対するのか、はかなり理論武装しないといけない。本書は著者が反対派寄りとはいえ、結論ありきではないので、賛成派にも自分の...続きを読む意見を確認し、改めて正しいと思えるかどうか考える良い機会になるのではないか。反対派にとって最も困るのは「じゃあお前の家族が殺されてもいいっていうのかよ!」という感情論で、それは家族が殺されたらそりゃ殺したいわ、と思うし、最高刑が死刑な現実の中で、最高刑しか妥当じゃないという判断は当然あるわけで…。また反対派としても「冤罪の可能性があるから」は、「冤罪の可能性が絶対無い事件」の前には論として弱い。当然宗教を絡ませてはいけない。いつだったか、私があるクリスチャン上司に死刑反対を語った所、「お、キリスト教でもないのに珍しいね」と言われ、あぁ通じないなあと感じたことがあったが、そう、宗教的背景を基に論じたって、それを共有していなきゃ何の意味もない。精神科医としての私にとっての死刑反対のための論は、「犯罪志向の高い方向に向かう脳を持ったのは誰の責任なのか」「一定の生物学的条件がある中に環境が整ってしまえば重大犯罪傾向が育つのを本人のみの責任に帰するのはフェアではないのではないか」という疑念から成り立つ。つまり生物学的要因x環境の掛け算が人を犯罪方向に向かわせてしまうので、そういった不幸を死刑という形で本人に一切の責を負わせてはいけないのではということだ。2011年ノルウエーでブレイビクという青年が起こした銃による大量殺人で彼の刑はたった11年だった。遺族の判決自体は受け入れているコメントを聞くと、北欧では殺人者にさせてしまった社会の責任という概念が共有されているようには感じた(正しいのかな?)。そういった側面に対する議論が本書には薄いのは残念だった。
政治や国家といったプラグマティックな問題についての論考で知られる哲学・社会理論研究者の著者による死刑論。 本書の前半は、カントの思想をベースにしながら、道徳的な観点から死刑の是非を考えるところからスタートする。そうした議論の中で、道徳とは普遍的なものではなく、状況により変化するものであること、道徳...続きを読むの根源とは人間の”応報論”、つまり「やられたらやり返す」という極めてプリミティブな心情にあることを明確化した上で、そうである以上、重度の犯罪に対して、死刑により天秤が釣り合うと考える人もいれば、死刑では釣り合わないと考える人もおり、必然的にどちらかに決まるということはあり得ないということが見えてくる。このような”価値の天秤”を前にしては、論理的に死刑賛成もしくは反対という結論を出すことはできない、となる。 続く後半では政治哲学の観点から、死刑の是非が論じられる。ここでのポイントは、死刑と切り離すことができない冤罪の問題をどう考えるかである。政治哲学の観点から考えるということは、言い換えれば国家による権力執行の1手段として死刑を考えるということであるが、そうすると「公権力の自己防衛」、つまり公権力は自らの無謬性を常に完璧に証明しなければいけないがために、冤罪は必然的に生まれてしまうのではないか、という疑念が提示される。我々がよく想起しがちなように、冤罪とは決して人為的なミスにより発生するのではない。公権力は常に自らの力を国民に対して示す必要性がある以上、一度誤った判決を下してしまった後にそれを認めるということは極めて困難であり、だからこそ冤罪が発生する、ということである。 よって、後半の議論を受けた本書での結論は、死刑における冤罪の問題は公権力のメカニズム的に不可避である以上、死刑は廃止すべき、となる。ただし、前半の議論を受けて、応報論という道徳的感情も関係する以上、現在のような釈放の可能性がある無期懲役ではなく、その代わりに実質的な終身刑の導入を提案する。 本書は死刑の問題を道徳と政治哲学の観点から考えるという一見まどろっこしいように見える議論を踏まえた上で、提示される結論は極めて現実的、プラグマティックなものである。本書では、ジャック・デリダのように「死刑に対して無条件の赦しを与えるべき」という考え方がいかに現実的にはバカらしく、デリダをありがたがる日本の現代思想家をコケにするような箇所が出てくるが、そうした議論も含めて、思想の分野でありながら極めて地に足のついた論理展開がなされる点に非常に好感を持った。
死刑という制度を道徳的視点と政治哲学的視点から論じた書籍。 平易な文章かつかなり細かい部分に関しても抜けが無いように落とし込めており、決して少ないページ数ではなかったが、一気に読み通すことが出来た。 唯一の欠点としては一度脱線するとかなり長いページ数が割かれてしまうこと。一瞬本題を忘れてしまうぐ...続きを読むらい脱線してしまうので読む際には注意が必要。
2023/12/22 気になっている萱野稔人さんの著作ということで購入してみたが、読み進めている今の段階では論理の飛躍や意味不明な説明が目立つ。 いたずらに残虐な殺人事件の詳細を述べたりするワイドショー的なノリ。 「宅間」という特殊な事例を一般的な事例に適用しようとしている。演繹法にしてもあまりにお...続きを読む粗末過ぎる。 「国家とはなにか」「カネと暴力の系譜学」で見せていた強烈な論理的流れはこの中には見られない。 まだ1/4(78/318)ほど読んだだけだが非常に残念な気分である。 今後の展開に期待して⭐️2個に。 2023/12/29 前半の非論理的に見える部分が前振り。論理の流れを優先したために非論理的になっていたということらしい。 道徳論の展開を読んで少し納得。⭐️は3個に。 2024/01/01 読み終えた感想を。 中盤カントの定言命法の説明あたりから冤罪を問題として取り上げている部分は説得力があるし惹きつけられる。 公権力の下では冤罪が必然であるから死刑を廃止すべきという論理も良くわかる。 ただ、宅間守にこだわり過ぎた感あり。 著者も説明する通りの人物であるこの死刑囚が言うことを全て真に受けるのはどうかと思う。死刑になるため。自分以外の人間を苦しめるため…本当に事件前からここまで考えてから犯行に及んだのか? 『死刑になりたいが故に殺人を犯す者が相当数存在する』という前提で話の骨格が形成されているが、そこに違和感を感じる。罪を犯した本人にしか分からない動機。全面的にその本人の弁を信じて良いのか大いに疑問に思う。可能性としては存在することではあるが。 統計データの引用も逆に説得力が無い。この時たまたまこういうデータが出ただけかも知れない。一般化するには無理がある。 勉強になった部分も多々あったので⭐️は3個のままにします。 著者のデリダ嫌いはよく分かった^^; 2024/01/02追記 「責任という虚構」(小坂井敏晶)をもう一度読もうと思った。
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