Posted by ブクログ
2021年07月31日
熊本地震から間も無い7月の梅雨明け頃に、熊本市街から植木まで路線バスで移動、植木から徒歩で田原坂へ向かったことがあります。曇り空のなか、移動中の高低差は無く、田原坂を突破されると熊本城まで遮るものが無いため、加藤清正が北の要衝と定めた地勢を足で実感しました。
その後、大河ドラマ「西郷どん」の放送...続きを読むも決まり、西郷隆盛に関連する本を読み耽りました。しかし小説はそれが面白いほど史実が分からなくなるので、愛読の「翔ぶが如く」を除いて読まないことにしていました。
もうそろそろ良いかと思い、遅ればせながら本書を手にしました。史料が少ないため謎多き人物である「村田新八」を主人公とした西南戦争を舞台とした物語。期待どおりに面白い!殺伐とした戦場に新八のフランス滞在時の想出が入り交じるのは、人間新八が感じられて「手風琴」(小説ではコンサーティーナ)を奏でる場面と共に小説を彩っていて素晴らしい。
読み始めるとふむふむと頷く場面が多いですが、佐賀の乱の事後の対応のエピソードで大久保利通がますます嫌いになりました。
田原坂では博物館を見学したあと、激戦地の薩摩軍陣地の田原熊野座神社(宮山)まで10分程歩きました。熊本地震直後の訪問であったので、社殿にも多少の影響が見られました。境内は野球グランドの内野程の大きさで、ここで双方が最新のスナイドル銃をわずか60メートルの距離で射撃を行ったと言います(境内から薬莢が発掘されています)
本書は素晴らしい出来かと思いますが、西南戦争を真正面から語るには短すぎるのではと思いました。
小説でも名前が登場する熊本隊はじめ各地の士族など約一万名が薩軍に参加し、この中には熊本の協同隊、佐土原の佐土原隊など自由民権運動や農民兵も多く含まれていました。今で言うと右派から左派まで、政府打倒の為の呉越同舟でした。もう少し彼らが登場すると、「明治六年の政変」から「最後の内戦」まで、より面白かったのではと思うのは贅沢でしょうか?