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不動産会社の営業で訪れた家の主人が、小学生の頃の自分を知っているという。驚いた自分にその元教師が語ったのは、なぜか20年前に起きた拉致事件の真相を巡る推理だった。当時の記憶が鮮やかに蘇る……(「沙羅の実」)。長い日々を経て分かる、あの出来事の意味。記憶を遡れば、過去の罪と後悔と、感動が訪れる。謎が仕組まれた極上の「記憶」を5つ届けます。
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Posted by ブクログ
過去の後悔、疑念・・・時を超えて知らされる真実。 切なくも優しい、5つのストーリー。 正に過去の忘れ物が見つかったような物語。なんだか小さな刺が刺さっているようで心の片隅で気になっていたことが、ぱあっと晴れるよう。ハラハラしつつも温かい気持ちになれました。 「沙羅の実」 不動産仲介会社で営業をし...続きを読むている『弘司』は、担当先で小学校時代の教師と再会する。すると彼は弘司に関わりのある二十年前の二つの事件について語り始める。 二つの事件とは、当時六年生の児童拉致監禁と、その子の同級生の父親の転落死。切ない事件の真相は何となく察しがついたが、はっきりと書ききってしまわないことと、ミスリードを利用した最後の一押しがなんともいい。物悲しくも優しい余韻を残す。 「君の歌」 高校の卒業式の後、『芳樹』はあまり話したことなない『高崎』に声をかけられる。訝しむ芳樹に彼が語り始めたのは、当時別々だった彼の中学で起きた女子生徒が襲われた事件だった。 逃げ場のない教室から消えた犯人、事件は未解決のまま。謎自体は難しくない。青年期の揺らめく心情を楽しむ話。 「雪の糸」 別れを決めたカップルが最後の時を過ごす馴染みの喫茶店。彼女が告白した他愛もない悪戯に、彼の表情が変わった。 頼んでおいた時間より一時間遅く起こされたことを知らなかった為、先輩に電話する約束を破ってしまった結果になったことに気付く彼。もしかしたら先輩は命を絶っているんじゃないかと想像しドキドキしたけれど、むしろ良い方に変わっていたようでホッとした。 「おとなりの」分譲地に住む『小島』は、商店街の知人に、事件の日息子を見たといわれ動揺する。その事件とは、十年前近所で起きた強盗殺人事件で、熱で高校を休んでいた息子が疑われたのだ。家に一人だった息子のアリバイは、隣の奥さんが証明してくれたのだったが・・・ 本当はむすこはどこに行ったのか、隣の奥さんはなぜ嘘の証言をしたのか?やきもきしながら読んでいたが、一気に分かるラストがいい。小さな布石も見事。 「野バラの庭へ」 回顧録のインタビュアとして、毎週鎌倉にある瀟洒な館を訪れることになった『香留』。上品な老婦人が語ったのは、この屋敷から忽然と姿を消した兄の婚約者について。結婚を目前とした彼女の身に何があったのか、真相を聞く前に老婦人が亡くなってしまう。だが、葬儀会場で目にした遺影は、全くの別人だった。 色々な意味でノスタルジックな作品。基本的に老人が痛い目に遭うのはいたたまれない気持ちになるが、まあそれだけのことをしたので仕方がないか。若さゆえに見えなかったことに後で気づくことはある。
ちょっとした謎解きの短編集。 どれも小気味良く、落ち着いた語調で楽しく読み進められた。 最後の「野バラの庭へ」が一番素敵だった。 良い作家さんを見つけた気がする。 他の作品も読んでみたい。
久しぶりに大崎梢さんを読みました✨ 過去のモヤモヤの真相が長い時間が経った後に解消するという短編集 明るい話ではないけど、はっきりしなかったことがわかったことで、一歩前に進めると思えました
沙羅の実は一回では理解できず、2回読みました 野ばらの庭へ おとなりの が好きです。 過去って忘れがちだけど、大切なことが今になって見えてきた時、心の動きが細かく描写されています
面倒なミステリ、本格と呼ばれるような込み入ったトリックが好きなら、この本に収められている5つの短編のテーマはそう難しいものではない。それよりも後になって思い当たったり、事件の解決後に隠されていた真実が胸を打つものだったりする。女性らしい文章が優しく気持良かった 沙羅の実 今ではサラといっても沙羅...続きを読む双樹と間違える人がないくらい知られるようになった。夏椿というれっきとした名前があっても、なぜかサラと言う音の響きが白い花に似合って、殆どの人がサラの木、サラの花と呼ぶ。 その実にまつわる話。 不動産の営業マンが話を詰めにきた。もう既に気心も知れて親しくなっていたところに、父親が帰ってきた。雑談中に、父親が昔勤めた学校に彼が居たことに気がつく、父親は担任ではなかったがその時起きた事件を思い出す。 そして父親は彼を散歩に誘い、心にわだかまっていた話をする。その事件に関係した彼は、今まで大きな心の荷を背負ってきたのではないか、と父は話す。そしてストラップの先についていた、荷物の塊のような椿の実を預かる。 父が気づく切っ掛けになった真実は、椿の実とともに彼の手を離れた。 誰も気づかないかも知れない隠れたある奇遇とともに。 君の歌 卒業式が済んだ後、余り親しくなかった同じクラスの高崎から声がかかった。彼は駅までの道々、昔の思い出話を始める。それは今のモテ男からは思いも寄らない打ち開け話だった。なかなかいい結末。 雪の糸 スマックのカウンターを挟んで、別れるという得意客の二人の話を聞いているパートの女性、その話の中に紛れ込んだ桜と、降っていた花びらのような雪のはなし。そこから、ある事件の陰が見えてくる。美しい背景に溶け込んだ一人の男の姿が、ほっとした結末に描かれている。 おとなりの ひらがなの題名のようにほのぼのとした話。 同じ分譲地内で殺人事件が起こった、泥棒の居直り殺人だったが、運よく通りかかった老人の証言で犯人が捕まった。 だがその時刻に息子が通りかかって、警察の尋問を受けた。だがお隣の奥さんが、息子のアリバイを証言してくれて疑いが晴れた。 風で学校を休んでいた息子がなぜ事件のあった時刻にその家の側の坂道を降りてきたのか。となりの引きこもりがちの奥さんはその時間にたまたま息子を見かけたのか。父親は何か釈然としない気分でいた。 目撃者の老人は、同じ時刻によたよたと同じコースを歩くのが日課だったが、思いがけない特技を持っていた。となりの奥さんは、専業主婦希望で家事に優れ、引っ越してきて言葉を交わすようになった母親がその社交ぶりで自治会に連れ出し、何くれとない細やかな付き合いをしていた。彼女の話は実に信憑性の高いもので、息子に聞いてみると、事件の時間に外に出た深いわけがあった。 転お隣は今転勤で空き家になっているが、近々帰ってくるという。 近隣の付き合い方なども含めていい話だった。 野バラの庭へ 鎌倉の別荘に住む老婦人から自分史のようなものを書いて欲しいと依頼が来た。 イベント企画会社の社員が担当になって話を聞きに行く。 旧市街の高級別荘地帯で、少し奥まったところの広い土地に、緑に囲まれた家があった。 話を聞きに行くうちに、昔、兄の許婚がガーデンパーティーの準備が出来ていた時、二階の部屋から消えてしまった、そのほ行方が知れていない、そのいきさつがいまだに謎とされている。 だが最近解ったところがあってそれも書いてほしいという。 老婦人がこどものころ、二階から手を振っていた直後、どうして消えてしまったのか。家中を探しても痕跡がなく、庭師が男と出て行くのを見たと言うが、その後の消息も知れなかった。 作者が一番力を入れて書いたようで、インタビューに通う女性記者とともに、結末が気にかかる。 鎌倉の由緒ある別荘といい、建物の構造といい、少女マンガのようなところが少し物足りない、ストーリーもありきたりで、残念な気がした。 「沙羅の実」にまつわる話も新味はないが、よく読まないと最後の種明かしが解りづらい。そこが面白い。 「おとなり」も面白かった。
とっても可愛い表紙からファンタジーかと想像していたらミステリー。面白かった。どんどん引き込まれて夢中で読んだ。
トゲのように心に刺さっている過去の事件。それがふとした切っ掛けで浮上してきて、ゆっくりとトゲを抜くように解決されていく。そんな短編集。 収録作のなかでは「雪の糸」が気に入りました。
短編集。 いつもの大崎さんのストーリーより、ほんの少しビターな内容。 とはいっても後味は悪くなくて、事件が起きた時より時間が経過して、今思い起こすと真相が見えてくるといった流れ。 年をとってから振り返る描写に、時間の流れがしみじみ感じられて、それがちょっとビターな感じを出してる。 最初の沙羅の実...続きを読むと、最後の野ばらの庭の話が好き。
面白かった。 ほんわかとしながらも、穏やかでない状況の「忘れ物」たち。 どの作品もなるほどと思うと同時にちょっとあたたかい気持ちになる。 でも「沙羅の実」はイマイチわからなかった。 とても良かったのに、私の頭では??こーゆーこと?とかえって謎が残った。
今となっては昔のことだけど、解決できないままになっていること。 まさに”忘れ物”。 ふと思い出すと、心の中に小さな刺のようにひっかかっていて… 誰にでもひとつやふたつあるのでは… そんな5つの”忘れ物”が届きます。 個人的には『沙羅の実』が一番好みでした。
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