Posted by ブクログ
2016年07月07日
東京大学史料編纂所教授の山本博文(1957-)による、日本の官制を中心とした位階・身分制度の概説。
【構成】
序章 時代をあらわす「格差」と「序列」
第1章 部族的社会から官僚制へ-古代
1 大王家と豪族
2 「律令国家」とは何か
3 摂関政治の官僚たち
第2章 血筋から実力の世へ-中世
...続きを読む1 院政と私的主従関係
2 鎌倉武士たちの官僚制
3 朝廷権威の失墜と室町幕府
第3章 武家の論理と政治の安定-近世
1 織田・豊臣の中央集権
2 江戸幕府の政治組織
3 旗本、御家人の出世
4 幕府制度の近代化
終章 格差解消の時代-近代・現代
本書が扱うのは、各時代の政務・行政を担う貴族、武士たちがどう格付けされ、それがどのように固定化・流動化していったのかという点である。
律令国家の官制、摂関政治下での成功、売位売官などは高校レベルでもそれなりに時間を割いて授業を受けることもあるが、五位以上の貴族=殿上人の中での合議制や六位以下の専門官僚の形成などは、大学レベルに踏み込まないと聞かない話だろう。
『源氏物語』『枕草子』などメジャーな作品に登場する場面などを引き合いにだしているところは、読者の理解を助ける著者の工夫だろう。
本書は、比較的制度がよく知られている前半よりも,後半の方が価値が高い。室町幕府における取次となる有力守護大名と遠隔地の大名との関係、管領の位置づけなども面白い記述。
そして、やはり著者の専門である江戸時代は、武士の中でも細かく序列が規定され、格差が固定化した時期ということもあり、記述の濃度がぐっと増す。江戸期の研究では常識なのかもしれないが、有力大名が目指す老中へのコース、旗本が目指す目付から遠国奉行を目指すコースなど出世街道の典型が示されているのは面白い。特に老中、若年寄の目につきやすい目付での働きがその後の出世を左右するという記述などは、幕府機構の行政官(サラリーマン)としての旗本の立ち位置がよくわかる。
御家人と旗本の格差は、時代劇でもお馴染みのものであるが、御家人の中でも御目見得を獲得する可能性のある家柄もあったというのは、本書で初めて知った。
総じて、政治が安定した時代には格差序列が細分化・固定化されていき、乱れた時代はそこが流動的になるという当たり前と言えば当たり前の。だが、それが具体的にどのような秩序を形成していたのかということは、日本史を勉強する際に基礎知識として必要だろう。
本書は、受験で日本史を選択する予定の高校生、大学1・2年の教養課程の学生が読むと、これから獲得する知識がより有機的につながっていくのではないだろうか。