Posted by ブクログ
2021年02月03日
8巻ラストにて一波乱呼びそうな終わり方をしたものだから、この巻では恋人なら有りがちな問題に対して友崎と風香がどのように向かい合っていくのかという点を描いていくのかと思っていたのだけど、9巻で描かれたのは深く内面をえぐり出し二人の関係に罅すら入れかねないものだったね
友崎と風香ってとても理屈っぽい所...続きを読むがあって、その上で自分の世界や価値観を明確に持っている。
そもそも二人の馴れ初めは一歩引こうとした風香を友崎が魔法を掛けるかのように言葉によって風香の認識を変えて自分達が付き合うことへの納得を齎したものだった。一方でそれは言葉巧みに風香の認識を変えることで向き合わなければならない問題から目を逸らすものだったのかも知れない
付き合った状態になっても理由だとか形式ばかりを追い求めてしまう傾向が見えた友崎と風香
それは付き合い始めたばかりで擦れ違いもある初々しい二人にとって自然な在り方だったのだけど、でも付き合い始めたそもそもの理由に歪さがもし有ったのなら…。その歪さのせいで苦しみが生まれてしまうなら…
それはきっと理屈っぽい二人にとって耐え難い状態になってしまったのだろうとそう感じられた
友崎は自分の世界を広げるために人付き合いを増やしていた。風香は小説を書き進める為に人間観察を深めていた。ポポルと炎人のように本来は異なる世界に住む住人の二人
友崎が風香の隣に寄り添ったことで二人の関係は始まったけど、友崎は風香の隣にだけ居たい訳ではないからどうしても風香を置いてけぼりにしてしまう場面が生じてしまう。それは風香に寂しさを覚えさせてしまうし、その時に友崎の隣にいるのが日南であるならば、付き合い始める前に風香が懸念したような風香が考える『世界の理想』に近い光景が展開されてしまう
ここで厄介なのは友崎にとって捨てようがない大事なものが幾つもあった点
風香の事はとても大切だけど、アタファミはもっと大切だし、日南との人生攻略も捨てがたい。そんなに大切なものが幾つも有るなんて欲張りであるように思えてしまうけど、風香は世界を広げていこうとするそんな友崎を好きになった
だから風香の前で友崎は自分の思うようにこそ行動するのが正しいのかも知れない。それは一方で友崎が日南とより深く向き合っていくということであり、風香に苦しい想いをさせてしまうということであり…
ゲーマーとしての業、人生攻略の中で日南から与えられた沢山の価値。それらは風香ではなく、日南へ向かってしまう友崎の本心であるという点が友崎と風香の関係性を一層痛々しいものに見せてしまう
だからそれらの問題を解決して風香と円満になる為には何かを本質から変える必要があって
それがまさか人生攻略の中断、ひいては友人関係の消滅へ向こうとするとは思わなかった!友崎はここまで風香の事を大切に想っているんだね……
取捨選択と言う意味では正しい選択。けれど、それは前述した『風香が好きな友崎』から外れてしまう行為。この選択すら否定されると友崎に取れる方法なんて無いように思えていただけに、ここで風香が一歩踏み出してくるとは思わなかった!
理屈や理想を抜きにして恋人でありたいなら、友崎だけが決断する関係なんて間違っている。二人の関係は風香が選んだって良い
そして『世界の理想』ではなく意志によって二人の関係を決めようとするなら、そこに理屈や理想なんて要らない。ただ「自分はどうしたいか?」という一点だけで考えればいい
それに納得できたから二人は無事に恋仲に収まり、恋人としてのステージを一段上げる事が出来たんだろうね
そして友崎と風香の問題が解決された後に提示された一つの真実。日南が友崎を指南し続ける理由
その点については個人的にアタファミと『人生』を同列のゲームとして扱うことである程度説明はできるのかなと解釈してきたのだけど、まさかあのような思惑が隠されていたとは……
何処までも正しさを追い求め魔王の如き存在になった日南葵。けれど、この巻にて日南葵は強キャラではなく弱キャラではないかとの疑義が呈された。そして友崎こそが強キャラではないかと
立場が逆転しているのかもしれない二人の在り方。友崎から逃げた日南に対して友崎はどう日南に向き合って、彼女に「本当にやりたいこと」を教えられるのだろうか?