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とつじょ大繁殖して野に街にあふれでたネズミの大群がまき起す大恐慌を描く「パニック」。打算と偽善と虚栄に満ちた社会でほとんど圧殺されかかっている幼い生命の救出を描く芥川賞受賞作「裸の王様」。ほかに「巨人と玩具」「流亡記」。工業社会において人間の自律性をすべて咬み砕きつつ進む巨大なメカニズムが内蔵する物理的エネルギーのものすごさを、恐れと驚嘆と感動とで語る。
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Posted by ブクログ
裸の王様…偽善とか打算に満ちた社会への抵抗をひとりの画塾の教師の目線から描いている。だけど、私はそんな作者の意図より、太郎ちゃんが精神的に伸びやかになり、子どもの想像力で絵を描けるようになったことが何より嬉しい。
開高健、大発見。こんなに面白かったとは…。現在、神奈川近代文学館で行われている企画展「『おまけ』と『ふろく』展 子どもの夢の小宇宙」でグリコのおまけに人生を賭けた男、宮本順三が紹介されていて、そこで開高健の「巨人と玩具」がお菓子のマーケティングを舞台にした小説として触れられていました。これは!と思い...続きを読む探したのが、この新潮文庫でした。もちろん、文豪としてお酒のCMに出たり、週刊誌で若者の人生相談を受け止めたり、アラスカへの釣り旅の写真集とかで大活躍している時代を知っていて、しかも彼は洋酒メーカーのコピーライターであったことも知っていましたが、でも彼の小説、ちゃんと読んだかな?というぐらいの作家でした。「巨人と玩具」の消費社会への眼差し、あるいは「パニック」の官僚制度への距離感、芥川賞受賞作である「裸の王様」の教育の閉塞感…そのどれもがメチャ今っぽいテーマだと思いました。コロナ禍によって小松左京の「復活の日」やカフカの「ペスト」の先見性が注目を集めましたが「パニック」もまさに先駆けるパンデミック文学です。いや、予言性というより人間の本質は変わらないってことなのかもしれません。その普遍性がテーマになっているように思えるのが「流亡記」。でも実は今回の読書、大発見じゃなく再発見なのでした。「裸の王様」、高校時代に読んでいたこと薄っすら思い出しました。あの時、気づけず、今、刺さるってことは、社会や時代に翻弄されないと、感じることの出来ない感情がテーマだからなのかな?この作家がデビュー作で立ち向かったこの巨大なるものはのちに「オーパ!」や「ベトナム戦記」に繋がり「風に訊け」に至るということである日突然メディアの文学スターになった訳じゃなくて、ずっと一貫していたのかもしれません。
高校の現文の先生が人生で三本指に入る小説だと授業で言っていたから急いで読んだ。 読んだことを伝えたいがあまり、「主人公もまた他の大人たちと変わらず独善的じゃないか、と思った」と早急な感想を伝えてしまった。 「そこがわかっていれば大丈夫だ」と返され嬉しくなった。
読む機会がなく、恥ずかしながら初めて開高健を読んだ。 さすがである。4話の中に共通するのは、人間の逃れられないと思われている自己防衛本能である。
パニック・裸の王様。開高健先生の著書。優れた小説、優れた作品は時が経っても決して色褪せないことが分かる不朽の名作です。社会の不条理や理不尽な権力者に対する反抗心を感じさせる内容で、心が揺さぶられます。
難しい!近代作家の文体には暗澹としていて無彩色なイメージを感じるけど同様の印象を受けた。読み進めるのには体力が要るけど面白い。表題作の『パニック』『裸の王様』、他収録の『巨人と玩具』は、社会や組織の中で蠢く男たちの権力に対するへつらいや愚かさが寓話のようなシニカルな明快さで描かれていた。最後の『流亡...続きを読む記』は秦の始皇帝即位からの社会変革や、明確な貧富の差から生まれる圧政や隷属制度の物語。話としては一番現代からかけ離れてはいる筈なのに、今感じている政府への凄惨な停滞感に共感すると思わなかった。 「私たちの時代はもう久しく新鮮な上昇力に接していないのだ。」(流亡記)
開高健の初期(なのかな?)短篇が集まった本。 個人的には長篇よりも読みやすくて、ギュッと開高健の魅力を堪能できた気がする。 きっとこの時代の「今」を彼なりに切り取ってそこに視点を見つけて描いていたんだろうな。でも何年も経っている今でも、その視点は生きているし、それだけまだダメな社会ってことなのか、開...続きを読む高健の視点が鋭かったのか。
初めて読んだ開高健。 純文学作家のイメージが強かったので、内面と個人がテーマの作家なのだとばかり思い込んでいた。 実際に読んだ印象としては、「社会と個人」「組織と個人」「システムと個人」がテーマの作家である。内へ内へと向かう純文学作家は多いが、世の中を俯瞰するような視点で外へ外へと向かう作家は珍しい...続きを読む気がする。社会現象の中で翻弄される個人。争う個人。開高作品の主人公に「自分が間違っているのではないか」というナイーブさはなく、まずは環境の中でいかに呼吸するか、という強さがある。生きるべきか死ぬべきかという地点で悩む主人公が多い純文学の中で、生きることが前提で、どう生きるかを模索する姿は戦っているように感じた。 ●パニック 120年に一度のネズミの大繁殖が起きる。組織内政治の中で主人公はどのように事態を解決するのか? ●巨人と玩具 老舗お菓子会社に勤める主人公。マーケティング担当者と共に戦略を練る。素人の女の子をスターダムに乗せて宣伝に利用するが…。 ●裸の王様 絵画教室を開いている主人公の元へ、大手文具メーカー社長の息子が入塾する。母親にさえ心を開かない子だが、絵を通して主人公と仲良くなっていくが…。 ●流亡記 秦の始皇帝時代。万里の長城建設のために奴隷として狩り出された男の視点から、時代と組織に縛られた人生を描く。
「開高健」の短篇作品集『パニック・裸の王様』を読みました。 『ベトナム戦記』に続き「開高健」作品です。 -----story------------- 【開高健 生誕80年】 甦れ、反抗期。 偽善と虚無に満ちた社会を哄笑する、凄まじいパワーに溢れた名作4篇。 とつじょ大繁殖して野に街にあふれで...続きを読むたネズミの大群がまき起す大恐慌を描く『パニック』。 打算と偽善と虚栄に満ちた社会でほとんど圧殺されかかっている幼い生命の救出を描く芥川賞受賞作『裸の王様』。 ほかに『巨人と玩具』 『流亡記』。 工業社会において人間の自律性をすべて咬み砕きつつ進む巨大なメカニズムが内蔵する物理的エネルギーのものすごさを、恐れと驚嘆と感動とで語る。 ----------------------- 芥川賞受賞作の『裸の王様』を含む4作品を収録した短篇集です。 ■パニック ■巨人と玩具 ■裸の王様 ■流亡記 ■解説 佐々木基一 『パニック』は、120年ぶりに笹が実をつけたことから、その翌春に鼠が大量発生することを知った県庁の山林課の職員「俊介」が大繁殖した鼠に立ち向かう物語、、、 前年に対策案を上申したものの、上司に握り潰され、対策を施さないまま春を迎えます… 予測通り鼠が大量発生し、農林業に大きなダメージを与えるだけでなく、穀物倉庫や赤ちゃんまでが襲われる事態に。 住民はパニックに陥り、被害は拡大の一途を辿る… 上司たちは責任転嫁に必死になり、、、 SFっぽいパニック作品でしたね… 題材が面白いだけでなく、上司たちが保身に走ろうとする小役人らしい姿が巧く描かれていて、面白かったですね。 組織の中で、生き残るためにどう振る舞うべきなのか… どうすれば、最小(ミニマム)のエネルギーで最大(マキシム)の効果をあげる(ミニ・マックス戦術)ことができるのか、、、 パニックの中でも、自分の地位を確保することを考える、人間の嫌らしさが印象に残った作品でした… 本書の中で、イチバン面白かったですね。 『巨人と玩具』は、キャラメル販売を主力とする「サムソン製菓」の宣伝部員である「私」の視点で、キャラメルの人気が下降する中、ライバル会社の「アポロ」と「ヘルクレス」との過酷な販売競争を描いた物語、、、 キャラメル販売を伸ばすために、各社とも知恵を絞ってキャンペーンを実施します… 子供が喜ぶものをとあれこれ知恵をしぼるのに対して、「アポロ」が母親向けに、子供が大学を出るまでの奨学金を懸賞にしたことで勝敗は決したかと思われたが。 「アポロ」は、食中毒騒ぎであえなく撤退し形勢逆転… しかし、消費スタイルの変化による売り上げ不振が、、、 現代のマーケティングにも活かせそうな宣伝合戦が興味深かったですね… 著者のサントリーでの宣伝部員としての経歴が色濃く反映された作品なんでしょうね。 『裸の王様』は、裕福だが家庭をまったく顧みない父親(「大田絵具」の社長)と、その後妻に育てられ、感情の発達が著しく疎外されている少年「大田太郎」が、主人公で絵画教室講師である「僕」による独特の指導によって、子どもらしい感情を取り戻して行く物語、、、 「僕」が周囲を見返すエンディングはスカッとしましたが、ちょっと物足りない感じ… 子どもを教育するうえでの理想には共感できましたね。 『流亡記』は、中国が初めて一人の皇帝に支配されるようになった秦の成立前後を、一人の庶民の目から描いた作品、、、 万里の長城の建設のために地方の町から徴用されてきた男の独白による物語… 弱者である半農半商の庶民が、強者に抗することができず、その無謀な命令に翻弄されざるを得ない徒労の日々を淡々と語ります。 歴史の歯車にさえなれない男の悲劇的な人生が描かれていましたが… 改行が少なく、文字がぎっしりと詰め込まれており、読むのに疲れましたね。 どの作品にも共通しているのは、清く明るく元気よく、乗り越えることができそうにない困難な問題にがむしゃらに取り組む聖人君子のような英雄は登場せず… 計算高く利己的で、様々な欲求を満たそうとする、狡猾な人物が登場することかな、、、 ムッとする体臭を感じるほど、リアルな人間像… 人間の誰しもが持っている闇の部分、暗部を巧く表現してあると感じました。 人間って、純粋であれば純粋であるほど、惨酷な面があるんだなぁ… と感じましたね、、、 自分の中に潜む闇について… 自分にだって、そんな部分があるんだよな と、考えてしまいました。
初開高健。 前々から気になってはいたが、こんなに面白いとは。 四つの作品で扱っている題材は様々だけれど、題材を通してその舞台である社会を見つめているという点が一貫している。 どの作品も面白いが読むのにかなりのエネルギーを要した。 表題作の『パニック』と『裸の王様』が比較的分かりやすくて良かったかな。
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パニック・裸の王様
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