Posted by ブクログ
2016年01月16日
著者は、気仙沼の牡蠣・帆立の養殖漁業家。現在では、「NPO法人・森は海の恋人」代表にして、エッセイストでもある。
本書は、文藝春秋の雑誌「諸君!」に2001~2003年に連載された「汽水の匂う洲(くに)」をまとめて2003年に出版され、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞(2004年)した作品である。(...続きを読む2015年文庫化)
私は本書を手に取るまで、恥ずかしながら「汽水」という言葉すら知らなかったが、本書を読んではじめて、「汽水域(=淡水と海水が混じり合う水域=河川水が注ぐ海)」がどれほどの海の生き物の宝庫で、それはなぜなのか、そしてそのために森が如何に大切なのか、更には、だからこそ日本の海の恵は世界に類がないほど豊かなのであるということを知り、新しい世界に目が開かれた思いである。
著者が1989年に始めた「森は海の恋人」の活動は、国や地方自治体からの理解も得て、今や全国に広まっており、著者は地元・気仙沼湾をはじめ、自らが訪れた陸奥湾、岩手の広田湾、宮城の舞根湾、北上川、新潟の三面川、富山湾、千葉の大原、東京湾、天竜川、諏訪湖、宍道湖、四万十川、有明海、屋久島、さらに中国の揚子江と舟山諸島の、汽水の様子や現地の取り組みなどについて綴っている。
そして、当然ながら、現地の海の幸についての記述も多く、それが本書を一層楽しめるものにしている。気仙沼のもどりガツオ、三陸の牡蠣とアワビ、東京湾のアサリと海苔、宍道湖のシジミ、富山湾の寒ブリ。。。
都会で会社勤めをする私にとって、森や川や海に関わる直接的な活動をする機会は残念ながらないが、本書を読んだことによって、今後、食する海の恵が、どのような森と川とつながった、どのような海で、どのように育ち、どのように獲られたものなのかを多少なりとも意識できるようになる気がする。
日々の(食)生活を豊かにしてくれる、優れたエッセイ集と思う。
(2015年11月了)