逝きし世の面影

逝きし世の面影

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昭和を問うなら開国を問え。そのためには開国以前の文明を問え。幕末から明治に日本を訪れた、異邦人による訪日記を読破。日本近代が失ったものの意味を根本から問い直した超大作。

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    ◯それでも人々は楽しく暮らしており、食べたいだけ食べ、着物にも困ってはいない。それに家屋は清潔で、日当たりもよくて気持ちがよい。(102p)

    ◯ 幸福よりも惨めさの源泉となり、しばしば破滅をもたらすような、自己顕示欲にもとづく競争がここには存在しない。(124p)

    ◯バードは日光の町に立ち寄ったとき、街路が履き清められてあまりにも清潔なので、泥靴でその上を歩くのが気がひけたと言っている。(135p)

    ◯ すこしも錘をあげる努力をしないで歌を唱うのは、まことにばからしい時間の浪費であるように思われた。時間の十分の九は歌を唱うのに費やされたのであった(239p)

    ◯ 江戸の独自性は都市が田園によって浸透されていることにあった。(448p)

    ◯今日では月の光が座敷を照らすことはないし、「月の盛」に寝られぬ思いをする者もいない。(467p)

    ◯ 徳川期の日本人は、人間をそれほどありがたいもの、万物の上に君臨するものとは思っていなかった。(505p)

    ★開国期に日本を訪れた外国人たちの記録によって、かつての日本人の姿が浮かび上がる。

    ★江戸時代には身分の差があって、庶民には自由はなく、貧しく、厳しい生活だった。そんな間違ったイメージは吹き飛ばされる。庶民は豊かで美しい自然にかこまれて、自由に、心穏やかに、楽しく笑って、幸せに暮らしていたのだ。

    ★江戸の頃には、個人と共同体の垣根が低く、いわば村が丸ごと家族のようなものだったのではないか。だからプライバシーもなく、物を置いておいても盗まれない。老若男女が混浴してもヘイチャラである。いやいやそもそも個人の概念がないのでは。人間も自然の一部、そんなに崇高なものと思ってない。だからこだわりがなく、あっけらかんとしている。などなど、私は研究者でも何でもないが、妄想が楽しい読書であった。

    ★もちろん現代の方が裕福で、便利で、健康的で、自由で、刺激的な生活であることだろう。大切な人を亡くすことも少ないだろう。それでも、もしも、江戸時代よりも幸せに思えないとしたら、それはまだ進歩の途上なのだと思いたい。

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    2026年10月04日

    Posted by ブクログ

    逝きし世の面影
    著:渡辺 京二
    出版社:平凡社
    平凡社ライブラリー 552

    考えさせられる書でした。

    江戸から明治に変わったときに、日本は気が付かないままに重要なものを失った。
    同時代を生きた日本人にはわからなくても、異文明からやってきた外国人は分かった。
    その手がかりをその外国人が残した書籍から解読していくのが本書である。

    江戸時代は、世界に稀なる、稀有の文明の時代であった。それがじわじわと滅んで、明治・大正・昭和へと進んでいく。日本文化は変わらないが、江戸の文明は滅んだというのが本書の主張なのである

    荒々しい日本の自然が生んだものは、共同体として生きることを選んだ日本人の誠実さや、あきらめだったと感じました。昔から、贅沢に暮らすことが幸せではなく、少し窮屈ではあるものの、共同体として生きることを日本人は体得していたんだと思います。

    日本が近代化を進めるにあたって、少しずつなくなっていったものがそこにありました。

    滅んだもの

    ・個人が共同体のために犠牲になる状況で、各人がまったく幸福で満足しているように見えること
     満足しており幸福であるという印象

    ・贅沢に執着心をもたないこと、簡素、単純極まりないもの
     清潔な家屋、広々とした部屋、部屋には家具らしいものがほとんどないこと
     清潔感、街路を掃き清めるという心、生活習慣

    ・落ち着いた色の服装を好むこと
     将軍から庶民まで、質素でシンプルである、富者も貧者もいない
     本物の平等感、われわれは皆おなじ人間であると心の底から信じる心

    ・平和で、争いの少ない和やかな社会
     礼儀と優雅にみちた気品のある民
     平等で自律的な人々と社会

    ・忍耐強い勤労
     穏やかな表情

    ・きわめて優秀な農業技術
     欧州の農民よりも幅広い独立性を享受している日本の農民

    ・生活に隠しどころのない裸体の風習、混浴
     人情と情愛にもとづく妥協と許し合い、その情愛を保証する性生活
     女郎屋を政府が管理する異質な社会

    ・ムスメという独特な魅力、自由気ままを満喫している
     日本の女は美しいというより、感じがいい
     実質的な男女平等、隔離部屋もベールもない
     たてまえとしては、男に隷従をしているが、現実は、自由で、男に対しても平等かつ自主的である

    ・日本のこどもは、まるで成人した大人のように賢明で落ち着いている
     日本のこどもは、小さな大人である

    ・江戸は、自然の楽園
     鳥類の天国、爬虫類や虫ですら、殺生をしない日本人
     日本の建築美は自然と相互に調和している美である
     人々の楽しみは、四季の自然を楽しむことである
     馬、牛、鶏は、家族であり、決して殺して食べるための対象ではない
     それらは、いい値で売買されてはいたが、外国人が食用として求め得るのであれば、いくら積まれても売ることはしない。それは、家族であるからだ

    ・日本人の寛容性、無宗教観、諦めにも似た死生観

    目次

    第1章 ある文明の幻影
    第2章 陽気な人びと
    第3章 簡素とゆたかさ
    第4章 親和と礼節
    第5章 尾雑多と充溢
    第6章 労働と身体
    第7章 自由と身分
    第8章 裸体と性
    第9章 女の位相
    第10章 子どもの楽園
    第11章 風景とコスモス
    第12章 生類とコスモス
    第13章 信仰と祭
    第14章 心の垣根

    あとがき
    平凡社ライブラリー版 あとがき

    解説 共感は理解の最良の方法である 平川祐弘

    参考文献
    人名索引

    ISBN:9784582765526
    出版社:平凡社
    判型:B6変
    ページ数:606ページ
    定価:1900円(本体)
    2005年09月09日初版第1刷
    2023年10月29日初版第42刷

    0
    2026年09月04日

    Posted by ブクログ

    ずっしりと、どこまでも重い読後感を残す本だ。
    自分が読んだもの、触れたものはなんだったのか、繰り返し問わざるを得ない本。

    異邦人たちが、見て、感じて、書き残した幕末から明治初年の日本の人びとと風景。
    そこには、確かな手触りと懐かしさの実感がありながら、夢まぼろしのように儚く、現実とは思えないような妖しさがつきまとう。
    著者自身が何度も断っているように、もちろん単なる日本礼賛のための本ではない。

    日本が近代化(西洋化)することと引き換えに、滅んでしまった文明とはどのようなものだったのか。
    そして、そもそも、近代化とはどういう人類史的な出来事だったのか。
    もはや後戻りはできないことが明確に分かっているからこそ、失われたものの重みが私たちの心を深々と刺すようにのしかかってくる。

    近代という時代の病を考えるとき、何度も参照されなければならない本だと思う。

    0
    2026年08月25日

    Posted by ブクログ

    2005年、平凡社ライブラリー。
    元は1995年から週刊エコノミストに連載されたもので著者は熊本在住、市井の研究者だという。

    幕末明治の外国人による日本見聞記を邦訳、原著も含めて広く渉猟し、当時の日本人、とくに庶民の人と暮らしそして社会を描きだたもの。
    良いことばかりではないことを意識しつつ、いかに平穏で美しく豊かな社会であったか。それは一つの文明であったとし、自身もその時代に生きたかったと。テーマに分け14章に描き出す。
    章立ては次の通り。第1章ある文明の幻影、第2章陽気な人びと、第3章簡素とゆたかさ、第4章親和と礼節、第5章雑多と充溢、第6章労働と身体、第7章自由と身分、第8章裸体と性、第9章女の位相、第10章子どもの楽園、第11章風景とコスモス、第12章生類とコスモス、第13章信仰と祭、第14章心の垣根。
    とても良い本だとおもうが、巻末の解説が、戦後の左翼インテリが云々と無関係に述べ、せっかくの清涼な読後感を台無しにしている。

    0
    2023年12月26日

    Posted by ブクログ

    幕末から明治末年までの間に日本を訪れた外国人による日本人への眼差し。ディスカバージャパンならぬディスカバージャパニーズ。彼らの見た「幸福な日本人」は我々と同じ民族なのか?違う民族なのか?著者は言います。「文化は滅びないし、ある民族の特性も滅びはしない。それはただ変容するだけだ。滅びるのは文明である。」同じ時期に海を渡った浮世絵やパリ万国博覧会に出品された超絶技巧の伝統工芸品はタイムカプセルのように150年の時を超え里帰り出来るモノとしての文化だけど、本書に記録されているのは二度と戻らないココロとしての文明なのでしょうか?ピサロに滅ぼされたインカ帝国は、実はスペイン人が持ち込んだ感染症によっての滅亡したのである、と言われていますが、資本主義という成長至上主義はここに描かれる「幸福な日本人」にとっての感染症だったのでは?インディオがなぎ倒されるように「幸福な日本人」も絶滅したのでは?それとも今を生きる日本人の心の奥底には、「幸福な日本人」のDNAは生きているのか?今年のノーベル医学賞のスバンテ・ペーボが証明したホモ・サピエンスにネアンデルタール人が繋がっているように。本書を読みながら思い出していたのは、実は『人新世の「資本論」』です。資本主義を超えた幸せの体現が150年前の日本人の姿にあるのでは?機嫌よく、陽気で、人見知りしないで、深く考えない暮らし。たぶん、違うと思いますが…。ちょうどこの本を読んでいる時に朝日新聞の土曜日版「be」での原武史の連載「歴史のダイヤグラム」に編集者としての著者と作家としての石牟礼道子の2ショットの写真が出ていたのですが、我々の暮らしの底流には、この時代の心が生きている、という想いがこのコンビを成立させているのではないか?と思いました。

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    2022年10月05日

    Posted by ブクログ

    薄々感じではいたが、明治維新を経て日本は別物になった。日本近代は江戸という文明の滅亡の上に打ち立てられたのである。渡辺はその文明の諸相を追体験するために当時日本を訪れた異邦人の記録に頼った。それを読むと我々現代人も当時の異邦人と同じ視線で当時の日本を見ていることに気づく。
     江戸後期の日本は私にとっても憧れの時代である。何より羨ましいのは「この国民は確かに満足しており幸福であるという印象」と言うことだ。西洋思想と産業革命が入って来る前の日本が、どれだけ完成された文明を持っていたか。そこには欧米列強の開国要求や西洋文化、近代思想の流入という避けられないものがあって、なるべくしてなったものである。だからこそ儚くも愛おしい。今だからこそ知り、推測し想像しておきたい。我々が直接知らない昔の文明のこと。

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    2022年03月24日

    Posted by ブクログ

    明治維新はクーデターだったのか!
    江戸時代の牧歌的風景、人情が著者ではなく第三者によって描かれている処に客観性を感じさせられる、名著だと思った。

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    2021年09月22日

    Posted by ブクログ

    幕末や明治の日本の民衆の快活で自由な、そして精神的に豊かな暮らしぶりを、その当時の来日欧米人の瑞々しい記録から明らかにする

    この文化が自分たちのたった150年前のものであるということも、そしてそれが失われていることも、読んでいる私たち日本人の胸に迫ってくる。

    明治以降西洋近代化を追求して今にいたるわけだが、本書を読むと、あのとき西洋化の選択をしない道もあったのかもなと思ってしまう。歴史にifはないけど、読み手にそう考えさせる良書。

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    2021年09月20日

    Posted by ブクログ

    江戸末期・明治初期の日本を訪れた西洋人が感じた「驚き」が、これでもかと紹介されている。日本人であるはずの自分だが、これを読むと、彼らと同じ目線で一緒に驚くことになってしまった。

    「昔の日本ってこんな感じだよね」と漠然と考えているイメージ(たぶん、時代劇とかで作られたやつ)が吹き飛ぶ。当時の日本はこんなに不思議な国だったのだ。

    逆にいうと、先祖代々続いていると思っていた「文明」が一度滅んでいたということ(少なくともそう言っていいほど「西洋化」してしまったこと)。そして、ほとんどの人が、そのことに気がついてさえいないこと。なによりも、それに驚く。

    日本人ならこれは読むべき。

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    2021年01月12日

    Posted by ブクログ

    著書は慎重に、しかし「独自の視点を持つ観察者がいて必ず観察され、その視点から言及することを逃れる術はない」というその言及に当たる事実を忘れることはない。
    その目線がいかに親日的、優しいと言われようと、そう言われる土壌が、反応する培地があるはずとしてすくい上げた中に、日本人の持っていた心性と、結びついた生活感覚や生活器具、またそれらを取り巻く価値観とコスモス(エコシステム)があったと見る。

    他者からの目を(この場合幕末、明治期に来日し記載を残した、外国人の記録物)、徹底的に事実(言及された本文)として取り上げ、それを多く並べ、培地を探る。その培地から上記のような日本人の心性〜コスモスまでを浮かび上がらせる手法をとっている。非常に慎重。

    0
    2021年01月08日

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