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『逝きし世の面影』の著者が人類史の視点から近代を総括する注目の講義録。私たちはどこから来て、どこへ向かおうとしているのか──。この混沌たる時代を生き抜く現代人のための必読の書。 私たちはどこから来て、どこへ行こうとしているのか──。無限の経済成長にのみ幸福を見る時代は終わった。単線的な進歩主義に基づく近代史観から脱し、人が人らしく生きうる共同社会を取り戻すために、近代化の意味を再び問い直すときがきている。豊かさの背後に刻まれた呪いを自覚し、これからを生きる術を考える。
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Posted by ブクログ
非常におもしろかった。高校時代本書の内容に沿った授業を 受けていることが出来たらきっともっと歴史好きになったと 思う。
近代史の専門家である渡辺京二氏による、講演を本にまとめたもの。研究が深い。論旨も明確であり、学術的で説得力がある。特に、最初の「近代と国民国家」が参考となった。近代から現代にかけて、人類が何を追い求めてきたのか、国家とは何かを示している。面白い。 「(中国人留学生秋勤しゅうきん)秋勤さんは横浜で日...続きを読む本人兵士が日露戦争に出征する風景を見た。そして大変感激してこう書いているのです。「日本人はかように心を合わせ、軍人をこんなに貴んでいます。だから彼は戦に生命を投げうたずにいられましょうか。だから、みな死を恐れぬ心を持つようになり、自分たちがもし勝てなかったら、国に帰って人々にあわせる顔がないと思っています。人々がみなこのような考えをもっているので、戦のたびに生命を投げうち、砲火を避けず、前が死ねば後がさらに進んでいくのです。今日ロシアという大国が小さな3つの島国の日本にこのように敗れたのも、大部分はこのためです」p12 「天皇のためであれ、人民のためであれ、自分は国家の運命と切り離せない存在なのだという自覚が成立しているのです。この成立はけっして自然なものではなく、秋勤も教育の結果だと言っているではありませんか。日露戦争時の日本人がしぶしぶであれ、よろこんでであれ「義勇公に奉じ」たのは、維新以来すでに40年近く教育されてきたからなのです」p13 「天皇制国家のために死ぬのは誤った愛国だが、民主主義国家や社会主義国家のために死ぬのは正しい愛国だというような区別はナンセンス」p16 「国家のリーダーとなりエリートとなった者たちには、立場が右であれ左であれ、国家主義であれ民主主義であれ、必ず民衆が、自分の生活ばかりにかまけて国家あるいは社会の大事に気づこうとしない能天気野郎のように見えるのです。そのような民衆を教育し、その尻を叩いて、国家の運命に目覚めさせ、国民としての責任、義務を遂行するように改造せねばならぬというのが、彼らの強烈な脅迫観念になるのです」p17 「(長谷川伸の足尾九兵衛の懺悔)前の年の節句の日、井伊掃部頭が桜田門で雪の中でやられたと聞いても、今年の正月これも江戸の坂下門で老中の安藤対馬守がやられたと聞いても、ちょっとも騒がぬ手合いです、わが国がどうなるか、心をつこうたことがない、早く言えば月給さえ貰えたら、国がどうなるか考えぬというような者と似たヤツです」p20 「河原町の油屋という家の二階で、浪士が二人暗殺されたと、噂を、その朝すぐ聞きましたが、それが坂本龍馬と中岡慎太郎だということを、聞いたやら聞かぬやら、聞いたにしろ、ほゥそうかと言うぐらいのもの、どういう人物で、どういう事件やら、私どもは知りません」p20 「(石牟礼道子の西南役伝説)肥後の農・漁民はあの明治10年戦争を、まったく天災のようにやりすごしたことがわかります。彼らの眼からすると、天朝さんと西郷さんが何で喧嘩しているのかわからないし、またそんなことにはまったく関心がありません」p22 「むろんお上はいろいろ口出ししますし世話を焼きますが、そんなものは頭を下げていれば、みんな頭上を素通りしてしまうのです。足尾九兵衛が懺悔する国家への無関心とは、実はこのような民衆世界の自律性を語っていたのです」p24 「世界経済がグローバル化するにつれて、自分が属する国民国家の地位が自分の生活に直結する例は増加するのですから、グローバリズムは国民国家を逆に強化することになります。(みなが国益を追求するようになるから)」p29 「社会の福祉化、人権化、衛生化が進むにつれ、個人はますます国家あるいは社会の管理を受け入れざるをえなくなります」p30 「個人が国家の管理に従属してゆく様相は、今後強まるばかりでしょう。それはみな、民衆世界の自立性を近代が撃滅した結果ののです」p30 「私は国家の介入を悪とする市場万能主義者ではありませんし、ケインズ主義の適切な復権こそ今日必要ではないかと考えております(民営化に反対)」p43 「国民の生活水準を維持したいならば、並立する諸国民国家との経済競争に勝ち抜かねばなりません。もちろん、生活水準なんてどうでもよろしいという生き方は、個人の信念としては可能です。だが、個人として信じる道は他者にもすすめてともに歩みたい道であるはずですから、他者にすすめても到底受け入れてもらえない道というのは、何か欠陥があるのです」p46 「自分の同胞である人々が国民国家の国民という存在形態を生きている以上、自分だけオラ知らねえといった態度はとれない。これが、反国家主義が突き詰めると成り立たぬ理由になるかと思います」p50 「(アンガス・マディソン)人類1人当たりのGDPは西暦元年には400ドルであり、これは西暦1000年まで変化しなかったそうです。つまり一千年間ゼロ成長だったのです。1000年から1820年までの間に、わずかな成長があって、1820年には600ドルに達しました。1820年以降は急激な成長が生じ、20世紀末には6000ドルを超えるに至りました」p64 「フランス革命のどこに自由や人権の確立がありましょう。個人の自由と人権がまったく無視されたのがフランス革命の特徴です」p116 「フランス革命には確かに近代的な一面があります。それは中央集権行政国家、言い換えれば近代国民国家を創設したのであります」p119 「世界の資本主義的市場化が完了すれば、あとに残るのは地球規模の均質的斉一的なモダンライフにほかなりません」p184
いつもながら慧眼。次第に繰り返しも増えてきたがそれも味わいなり。大佛次郎を読まねば、という気にさせてくれる。 20151130追記 また最近読んだ。電子化も考えているが紙で持っておきたいという気持ちもあり。
一つめの呪い。近代とは、民衆がお上から口だしされないでも自分たちで成り立たせている自主性が撃滅された時代。世界経済は、民衆が国民として統合された国家同士が地位を競うインターステイトシステム。国民国家が進むにつれ、個人は社会の管理を受けざるを得なくなる。 二つめ。資本主義によって衣食住に困らない豊かさ...続きを読むを実現した一方で、自然はホビー化し、生活空間は人工化した。自然というコスモスの中に自分の実在を謙虚に位置付ける感覚を失ってしまったこと。
著者の近代観はほんとうに勉強になる。自分が常識としていることをぐるっとひっくり返してくれ、新たな探求を促してくれる。
近代以降の世界において、われわれはインターステートの体系に所属せざるをえない。近代において人権や生活水準の向上が進んだことは事実であって、そのことは絶対的に良い方向なのだが、代わって個人は否応なしにインターステート・システムに取り込まれてしまい、ヒトどうしや自然との交感を喪失し、自分の身近な生活空間...続きを読むを意識することができずに経済成長ばかりを追い求めることとなってしまっている。 講義録であって読みやすいが、内容は、煎じつめると歴史教養の紹介+上記の慨嘆というもの。瞠目する提言があるというのではないが、そういう賢しらげな態度で読むべき本ではないと思う。むしろ心の奥底で渡辺のいうことにいちいちうなずく自分を感じる。
平凡社新書 渡辺京二 「近代の呪い」 近代を批判的に捉えた講演集。とても面白い見方だった。学校教育では こういう歴史の見方を伝えれば、歴史好きが増えるのに。 近代化=西洋化というシンプルな定義づけにはじまり、近代化により民衆社会の自主性が解体され、知識人が民衆を国民に改造したという論調...続きを読む。明治維新を見ると、その通りだと思う 近代化により、国民国家単位で争うシステム(インターステイトメントシステム)と 世界の人工化(地球は人間の便益のために存在)の呪いが 国民にかけられているとのこと 近代の呪いを解くための、著者の主張は、国家との関係より 他者との生活上の関係を重要とし、経済成長がなければ この世は闇になるという感覚から自由になる道を模索することというもの 民衆社会の自主性 自分たちの生活領域こそ実体であり、下積みの民衆の理念〜自分たちで成り立たせる世界 知識人は、民衆を国民とするために改造する。過去を一切否定して、新しい人間にもとづく新しい社会を作ろうとする知識人の思い上がり 近代 がもたらした衣食住の豊かさが、インターステイトメントシステムと世界の人工化という呪いに転化した 世界経済がグローバル化するにつれて、自分が属する国民国家の地位が自分の生活に直結する〜グローバリズムは 国民国家を強化する 世界の人工化の根底には、地球は人間の便益のために存在するという感覚がある〜世界の人工化とは世界の無意味化でもある 経済成長がなければこの世は闇になるという感覚から自由になる道を模索する〜市場によって生活が振り回されない経済システムを構築する
渡辺京二さんが、熊本大学で講演されたものが新書となった作品である。 第1話 近代と国民国家――自立的民衆世界が消えた 第2話 西洋化としての近代――岡倉天心は正しかったか 第3話――フランス革命再考――近代の幕はあがったのか 第4話――近代のふたつの呪い――近代とは何だったのか つけたり 大佛次郎...続きを読むのふたつの魂 私の大佛次郎/『ドレフェス事件』 『ブゥラウンジェ将軍の悲劇』/『パナマ事件』から 『パリ燃ゆ』へ パリ・コミューン――民衆の共同世界という夢/保守 の情念の目覚め 進歩と伝統が共存する魂/大佛次郎作品の今日的意義 でした。 近代・近代化・フランス革命等々、今まで読んできたステレオタイプ的な情報蓄積がいかにスーパフィッシャルなものであったのか痛感させらた。 私の尊敬する佐伯啓思の言う「パースペクティブ」、自分自身の「視角と展望」をますます磨くためにも、先人の残してくれた「情報」をもっともっと深読みしなくてはと思いました。 大佛次郎さんが歳を重ねることにより考え方に変化が生じたと渡辺さんは指摘していたが、ひょいとウィトゲンシュタインの哲学のことを思い出しました(笑)。
15/5/28 明通寺読書会 若泉さん担当の本です 渡辺京二 著 フランス革命など視点が違っておもしろい
熊本大学での講演が中心で、そのため非常に読みやすい。もし講演を実際に聴いていたら、一生懸命メモをとっただろう。実は、まるで学生のように、本に線を引いて、簡単なレジメを作ってしまった。なんというか「お勉強心」が刺激される。 「近代」の両義性についての著者の考えが、かみ砕いて語られている。「近代化とは...続きを読む何か」というテーマは、決して議論されつくしたわけではないとあらためて感じた。自分がいかに無意識に、通説的な歴史観の枠組み内でものを考えているかということを痛感する。 アカデミズムとは距離を置いてきた著者ならではの、射程の長い考察で、もっと突っ込んだ話を聞きたくなる。もう八十歳をこえられたそうだが、「進行中の仕事が一つ、これから書きたいと思う大きなテーマが二つ」あるとのこと。うーん、すごい。
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