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子供の頃、家族で行った海に臨むホテル。そこは母親にとって、一族の栄華を象徴する特別な場所だった。今も過去を忘れようとしない残酷な母と弟から逃れ、太一と結婚した奈津子は、久々に思い出の地を訪ねてみる…。車椅子の夫とめぐる“失われた時”への旅を通して、家族の歴史を生き直す奈津子を描く、感動の芥川賞受賞作。
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Posted by ブクログ
プライドとお金に執着する母たち、善意が自身に向けられていることを疑わないような振る舞いを続ける夫。 ひどい、辛い、面の皮が厚い、など様々な思いを読んでる中で抱いたものの、読み進めると、果たしてどういう感情でいればよいかわからなくなる。圧倒的な筆力。感情がもっていかれます。
「冥土めぐり」は本当に素晴らしい。不条理や理不尽の中で思うようにいかないまま「生きていく」ということが、それぞれの登場人物を通じて、とても生々しく、リアルに描かれている気がします。
亡霊のようにずっと自分の人生にまとわりついた過去。そういったものは誰でも1つは持っていると思う。 色鮮やかに、何度も繰り返し語られた過去の素晴らしい出来事。例えばそれが軽井沢の別荘でバーベキューをした優雅な休日だったとする。それを50年経ってから、もう一度同じ場所に行って、風化した別荘の床を踏んで、...続きを読むみてみる勇気はあるだろうか。 もし見てみたいと思ったら、読んでみることをお勧めする本。 素晴らしい本でした。
痛い。 痛いけど心地よい。淀んでる。 個々の細かい描写が好みだった。 シーン展開はいつもどおり(?)神話的。とても良い。 「今は、意味の分からない絵でも見ることができた。奈津子は、ただ、絵を見ていた。」 『99の接吻』も美しい。 「蛍光灯のようなもの」・・・
「冥土めぐり」「99の接吻」の二編。どちらも中性的な登場人物と癖のある登場人物との対比が面白い。冥土めぐりでは、純粋で鈍感でかつ前向きな太一。99の接吻では、中性な観察者で感性ですべてを理解する菜菜子。他の登場人物がコントラスト豊かに浮かび上がる。面白いと思いました。
読書開始日:2021年9月28日 読書終了日:2021年9月30日 所感 【冥土めぐり】 家族のかたちは様々だと小説を読んで初めてわかる。 自分は自分の家族で良かったと思えることが増えると同時に、現実は小説よりも奇なりといったもので、辛い過去として抱えて生きるものもたくさんいることがわかる。 本作は...続きを読むそんな拗れた家族と時を過ごした主人公の話。 母親と弟の浮世離れした人柄を痛々しい肌に描写されている。 母に関しては幼い頃の経験、弟に関しては母親をはじめとした親族からの伝承にそれぞれが縛られ、浸されている。 縛りは強固で、何を言っても、何を望んでも無駄になる。 もう一生考えが交わることが無いとわかる瞬間がある。とても怖い瞬間。 恋愛の熱に侵され、異常が日常となってしまった人に同様の恐怖を自分は感じたことがある。 主人公は、縛られた母親と弟に幼い頃から嫌悪、違和を感じるとともに、母親と弟から不当な扱いを受ける。 母親の特性である「全ての事柄に対し被害者面をし、最終的にわあわあ泣くという幼稚な表現を行う」に対し、自分もかなりの気持ち悪さを覚える。 わあわあという表現しか用いないほど幼さから脱却できない年老いた女への嫌悪と、わあわあと言う表現が通用した時代があり今でもこの表現を行えば誰かがタダで、何回も助けてくれると思っている救いようの無さへの嫌悪感を抱く。 そんな主人公へ一石を投じたのが、太一だ。 金や善意全ての飲み込んで行く母親や弟を対極に、悪意を全て飲み込み何事もなかったかのように消却する太一。運や人望に完全に見捨てられた母親や弟を対極に、不思議な運と人望で朗らかに生きる太一。 色々と気の利かない太一であるが、徐々に主人公を癒やしていった。 太一との旅行で少しずつ、過去を過去と認識できた主人公は、旅行最後の太一の鼻かみで完全に過去を捨てされた。 太一は見抜いていたのかもしれない。全て。 そう考えるとかなりの色男だ。 素敵なラスト 〜解説を読んで〜 美術館で意味のわからない絵をありのまま受けとめられるようになると同時に、虚飾に満ちた実母の自慢話が一枚の肖像画に収まっていくように感じる。芸術に触れて、気持ちを出し入れできる瞬間。辛(つら)い記憶を乗り越えるチャンス と表現しており、薄々感じていたことを言語化するとこんな感じかと思えてよかむた。 【99の接吻】 感情移入が難しい作品だった。 雰囲気は作中に出てくる単語にとらわれているのかもしれないが、なまめかしい感じが常にする。 秘密の花園、女の巣をのぞき見しているような感覚。 菜菜子は恐らくアセクシュアル。 そしてその行き場の無い愛やら恋やらは身近な姉達に注がれた。 菜菜子は人の愛し方を知っていると思う。 対象の喜怒哀楽をすべて官能的にとらえられる。 愛でられる。 対象の詳細も分析できる。 そして葉子のようになるとわかる。 一見冷静で大人な雰囲気を持つように見えるが「姉妹で1番、貞潔と放埒の間で揺れる」葉子のように。 下町のイメージや、下卑な町と下町の違いなど興味を持つ単語が多くあった。 谷根千。ぜひ行きたい。 そしてスノップ気味の自分へ警告を。 意図を持った言動や行動は、その真逆も抑えるべきだと改めて心に刻む。 冥土めぐり ただ太一は女とか妻とか、そういう種類の人間の喜ばせ方を知らないのだ 理不尽に嫌われ、理不尽に愛される ホテルと母の暴落 母親が持っていたあらゆる快楽の喪失 その渇きは何を飲んでも癒されない=自分に詐欺してるから 不協和音のような支離滅裂な妄想が奏でられる 本当に辛いのは、もうとっくに希望も未来もないのに、そのことに気づかない人たちと長い時間を過ごす 魔がさしたのだ 購めた 性的嫌がらせを受けたパーティ 闇すらも漂白した城だ 太一の世界は不公平を飲み込んでしまう 悪運、母と違う自分 見抜かれていたようだ 99の接吻 近親相姦みたいな恋愛 体も飽きるほど与えて 女になるという嫌悪感を巧みに拭う 肉まんのような白い乳房 そう言う姉さんのしかけた罠、ひとつひとつ あなたのその周到さを愛でていたい スノップ 快楽 谷根千。ほんとうのわたしたちの姿は、内気で人見知り 下町と下卑た町の違いのわからない男よ 葉子姉さんを癒やして。あなたのように、かよわい女性ができるのは、きっとそれくらいのことだわ 何をしてもいいらもうそんな無邪気な時期をわたしは終わろうとしているのかもしれない 変な男には変な男の魅力があり 神聖な儀式を簡単にしてしまった 貞潔と放埒の顔を持ち合わせた私たち姉妹そのもの
表題作は簡単に言えば、アダルトチルドレンの治癒の話。主人公の感覚は分かるものが多かった。個人的に凄くハッとさせられたのは芸術作品を鑑賞してるときの感覚で、これは自分もまったく同じなので驚いた。同時に、客観的に見るとこれは芸術を味わう感性と真逆の思考回路だなと気づいた。自分の芸術を見る目がないことがす...続きを読むとんと納得できた瞬間でした。 最後のシーンは感動した。蝕んでいたものが根本からなくなると、日常が変わるんだなあと。旅行自体は単なるお祓いみたいなものだけど、人間にはこういうプロセスが必要なんだよなと思う。 さて、めでたく歪んだ家庭という足枷から心理的に脱出できたわけだけど、その実際のきっかけが難病と頼りない夫というのが面白い。不幸を排斥したのは別の不幸だったという。ある意味奇跡なんだけどまったく奇跡感がなくて、読後もなんだがそわそわする。不思議な感覚だ。 不思議な感覚がするのは『99の接吻』も同じで、読んでいて終始どこか不安定な感覚を覚える。一見安定してるんだけど、いびつな重ね方をした積み木の上にじっとしているような感じ。そして独特なのが、結末の後も不安定感が残ることだと思う。始めの不安定点から確かに良い方に向かうんだけど、そこはまた別の不安定点であるようなしこりが残る。うまく言えないけれど、この作者にはいままで読んだものと違う異質なものを感じたので他の作品も読んでみたい。
読んでいくとタイトルに感心、執着とは違う母性とも違う愛より情かあって感じました。99の接吻では私の持ってる感性と離れてて分かり得なかったとこあり。
第147回芥川賞受賞作。主役の既婚女性が、裕福だった頃の家族の過去を手探りに行くかのように、幼い頃に旅行で訪れたホテルに、病気で体が不自由となった旦那と訪れる。全体的に何となく陰気な雰囲気。金持ちから急に貧乏になった為か、母親がとても痛々しい。
表題作より、99の接吻のほうが好きです。 4姉妹の、男を巡って変化していく物語。暗くて甘美的なお話でした。 田村君は出てくる必要あったのかなーとひっそり思いましたが……
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鹿島田真希
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